CHOICE AND CHANCE
「あなた、見ない顔ね。ここに立つのははじめて?」
その巨漢女性から10メートル、南側に向かって彼女を右手側として離れ立っていたところ、近づいて話しかけてきた。社交的なのは、羨ましい。
「え、はい、そうです」
「オヂキメラ討伐勢と、小銭稼ぎ、どちらが目的?」
「(???)小銭稼ぎ?」
「あー、ごめんね。意味わからないよね。おそらくオヂキメラを討伐できる男をみつけて、魔王討伐をしたいという事だよね。そういう子も勿論いるけれども、多いのは、小銭稼ぎをしている売春婦なのよ。たいていは、お金を持った男から声をかけられて、条件を話す。そうして、交渉が成立すれば、専用の宿屋で行為を行うの。この通りは、魔王を討伐したい子と、お金を稼ぎたい子が、ハァハァ」
巨漢女性の息が上がってきた。喋るだけで、スタミナを使ってしまうらしかった。
「ハァハァハァハァ、、、ごめんなさいね。息が上がってしまったわ。いずれにしてもあなたの、ハァハァ、目的は、ハァ、、分かったわ。しばらくここで待っていれば良いことが起こるように。呪文をかけてあげるわ」
彼女は戦士ではなく、魔法使いのようだった。
「ハピィッネス!」
両手をサオリに向けて、そう叫んだ巨漢女性の手のひらから、優しい香りがただよい、一瞬、眼の前が金色にキラキラと光った。
「これで大丈夫よ。良いことが起こるわ」
「そ、そうなのですか。よくわかりませんがありがとうございます。ところでお名前は?」
「人に名前を訊ねるのならば、自分から名乗るのが礼儀じゃないと思うけれども、まぁいいわ。私はモーリーよ。あなたは?」
「サオリです。ディスティニー・サオリ」
「サオリちゃんね。いい名前じゃない。サオリンと呼ばせてもらうわ。サオリンのこと、覚えておくわ。もしかしたら、またどこかで違うところでお会いするかもね。バイバイ」
そういって定位置に戻るかと思いきや、巨漢の女性モーリーは、フッとどこかに去ってしまった。
サオリはまた、勇者の父親候補の声掛けを待つため、オークボパークの高く結界の張られた柵の前で暇そうに立っていた。しょうじき、2時間ほど立ち尽くしていたが、周囲を、おそらくは銀行家や商売人といった風情の男が舐め回すように品定めをしてきては、いやらしい目つきでこのように囁いてくる。
「お姉さん、100でどう?」
「200で最後までいける?」
とにかく、性的なサービスを目的としていた交渉を持ちかけるばかりで、勇者なぞ見つかりそうになかった。だいたいサオリは転生前、処女だったし、行為の仕方なぞ知らないのである。なぞと虚しい記憶を思い出しながら、勇者が見つかる前に、小遣い稼ぎに興じてもよいかなというアイデアが浮かんでしまったものの、耐えた。
そうして3時間が経過し、もうそろそろ帰ろうかなぞと諦めかけた刹那、杖をついて、茶色のターバンを巻いた初老の男性が目の前に現れた。
「そこの小娘や、勇者の父親候補を探しているじゃろ。モーリーの魔法がかかっておるわい」
「ええ、そうですが、なぜ、、」
思っていた男と違っていたが、婚活と同じで、ハードルを上げたらキリがない。サオリはジジイに質問してみた。
「お兄さん、オヂキメラ倒してくれますか?」
「馬鹿にしてるのか?どうみてもお兄さんではないじゃろうがい。でも、そなたが望むのであれば、結界で張られた公園内の主を倒してみせるぞい!」
まさか、キたのか?
「是非、お願いします!」
なんというか、彼と、行為をいたして、その、生命の源はでるのだろうか疑問だったが、明らかに強者のオーラが漂っていたので、サオリは幸運の神様の前髪を掴むことにしたのであった。