ポジショニング
「......。」
その光景を眺め、サオリは唖然としてしまった。オークボパーク自体は柵で囲まれており、結界が張られていることによって、中を見ることができなかった。問題はその周りである。10メートル程度の感覚で、びっしりと若い女性が並んでおり、みな俯いて暇そうにしているのである。中には、身なりの良い銀行家や商売人といった風貌の男性だったり、あるいは、戦士と見える男と話し込み、どこかへ向かって去っていく姿も見受けられた。
円形のオークボパークは半径500メートル程あるように見え、柵といっても、その高さはジャンプで乗り越えられる高さではなく、30メートル程の高さであった。柵というよりは、壁だろう。もっとも、転生前の世界ではという話で、この世界の人間やモンスターの脚力で考えたとき、どうなるかはわからないが。上部は結界が張られており、中からも外からも、出入りはできない。そして中には強敵オヂキメラが待ち構えているらしかった。
とにかく人生をリスタートするためには、柵の周りのどこかに立って、勇者の父親候補からの声掛けを待つしかないのである。
あのラーミョン屋なる飲食店から向かいたどり着いたのは、オークボパークの南東方面にあたり、何やら、3人程の、おそらくは人生を諦めたと見える中年男性が、公園の柵前で暇そうにしている婦人を眺めながら酒盛りをしていた。彼らの一人(身長は160センチ程度で、頭頂部は禿げ上がっている。側面には髪の毛が残っていて、前歯はなく、色黒だった)が、ニヤニヤしながら、舐め回すようにサオリを見つめてきた。
「おーい、お姉さん、いくら?ドゥフフ」
サオリはゾッとしてしまった。
「え?」
「あ、メンゴメンゴ、ドゥフドゥフ」
その薄汚い中年男性の話す言語は、おそらく同じ国の言語にもかかわらず、なにをいっているのか意味が全くわからなかった。
「(ドゥフフとか、本当に言うんだ)」
とりあえず無視をして、同じように、立つのに良いスペースを見つけるため。時計回りに公園の周りを歩くことにした。
100メートルほど歩いたところで、体重120キロはありそうな、色黒で巨漢の若い女性が立っており、明らかに異彩を放っていた。彼女に近づいてはならないと本能が危険を察知したものの、非常によくない考えが浮かんでしまった。
「(彼女の隣に立っていれば、自分より引き立って見えるのでは?)」
サオリの性格はよくなかったのが、こんなのが魔王を討伐する関係者になれるのだろうか。