道草
とにかくサオリは、屈強な坊主に言われた通り、オークボパークに向かうことにした。お寺のある通りを北へまっすぐあるくと、交差点があり、左折し、また100メートルほど歩いた。
そこで、サオリはある看板に目を惹かれてしまった。
「ラビちゃんラーミョン、切りたてオークの肉が旨い!!」
転生前の世界でいえばそれは、ラーメンにあたるものかもしれなかった。しょうじき、この世界に降り立ってからまともにご飯も食べていない。あと、坊主から、1350ボーロ分の通貨をもらった。どうにもこの国の通貨単位はボーロというらしく、日本円に換算すると、20万円ほどに該当するらしかった。100ボーロ紙幣を13枚と、10ボーロにもなるなにか銀色の貨幣を5枚、お財布風の布にいれていた。
「(ここの食事がどんなものか、勉強のために入っておくべきかもしれないね)」
意志の弱いサオリは、赤い看板で、白いフォントのラビちゃんラーミョンに入店することにした。
ガラガラと音をお店のドアを開ける。ガラス張りで、右にスライドした。実を言うとしばらくの間、前から後ろに開けようとして、2分間くらい悪戦苦闘してしまったが、後ろにいった、ラーメン、いやラーミョンをすするのが好きそうな、太った男、それでいて、戦士としては役に立たなそうな、筋肉はなさそうな男が教えてくれて、入店に成功したのであった。
「イラッシャイマセ!注文ハ食券機カラドゾー」
なんというか、異世界に転生したのにもかかわらず、店員は海外からマスカラフトに来たようなそんな雰囲気だった。
食券機のタッチパネルとを操作すると、メニューは2つしかなかった。
・ラーミョン 5ボーロ
・オークラーミョン 6ボーロ
サオリは、オークラーミョンのボタンを押し、食券機に10ボーロの銀貨を投入した。4枚の銅貨がおつりの出てくるところから出てきて、「オーク」と書かれた紙切れがでてきた。オークって、一人称がたいていは「オデ」になるあの半神半豚のモンスターだろうか。いくら豚が混じっているとはいっても、人と話が通じる生き物を食べるのか。彼らの権利は果たしてどのような立ち位置なのだろうか。
「コチラヘドゾー」
店内は縦長となっており、厨房が右側、客席が左側のレイアウトという中で、一番手前の席に通され、食券を渡したその刹那、ドアがまたしても空いた。
「(ガラガラ)サオリさん、ちょっとあなた、なに寄り道なさっているのですか」
その声の坊主だった。振り向いてたしかに本人であることを確認した。千里眼の持ち主なのか自分のことを監視しているらしかった。
「おなかが空きましてね」
「まぁいいでしょう。もう注文してしまったのであればお店にも迷惑がかかりますから。ラーミョンを啜ったら、ちゃんとオークボパークにいくのですよ」
そうして、ドアが閉じ、坊主はどこかに去ってしまった。
「オークラミョーンデース!!!」
異国風の若い男性がカウンターに置いてくれた料理を食べたが、はっきりいってこれ以上オークラーミョンについて述べるのは、もはや某ギャンブル漫画のようにスピンオフでやるべきであろう。サオリは、いつのまにか完食しており、店員さんにニコッと微笑みかけながら、「ごちそうさまでした♪」と話しかけた。しかしこちらがわでは、コミュニケーション能力が上がったように感じられるのは気のせいか。
「アノー、ヨロシケレバコレ、ウケトッテクダサイ」
「あ、はい、ありがとうございます」
なにかサービス券のようなものを受け取ったものの、その内容を見ることもなく、お財布風の布袋にしまい、お店を出た。サオリの感想としては、オークラーミョンの味は微妙だった。
そして、ついにオークボパークと思しき場所に到着した。