魔王の愉しみ
サオリが見つめた先のリリィに関してはいえば、太って体臭のキツイ男が、極小クラス(ここでおそらく身体そのものではなく一部を想像してしまった読者諸君がいるかもしれないが、そこについては言及しない)に縮み、そのまま潰れてしまったのち、何事もなかったかのように、麺を啜り、オーク肉をほうばっていた。
寡黙な店主は、「ありがとよ」と奥の客にお礼をいうとまた、彼の分のらぁみょん作りを開始した。そして当の本人の様子を二人はみることができなかったけれども、察するに、何もいわず黙って、店主が湯切りするようを眺めていたようだった。特に、底の深いテボザルでなく、平べったく難易度が高いと言われている平ザルを用いた湯切り中に、場の凍りつくオーラは消え、どことなくうっとりとした雰囲気が伝わってきた。平ざるから丼に注がれたスープに麺が投入され、具材が盛り付けられた。
「おまたせいたしました」
キビっとした店主の声とともに、カウンターへ丼の置かれた音がした。数秒の間、まだ客人、つまりこの客人こそが、物語のラスボスに該当する可能性がもっとも高い魔王デスガイガンなのであるが、彼は蓮華にも箸にも手を付けず、丼をじっと眺めている様子だった。サオリとリリィは、オーラのうっとり度が段々と強まっていき、殺意のようなものが薄れつつあることを感じ取りつつ、それぞれ麺を啜ったり、オーク肉をかじっていた。オーク肉は脂身が多めに感じ、どうやらその脂がまたスープへと溶け出して、ラーミョンと調和している様子だった。
「うおぉ~~」
スープを蓮華ですくい、口に運ぶと同時に、魔王は喜びの唸り声をあげはじめた。そこで麺をリフトアップし、口に運ぼうという段階になって、突如ことばを発した。
「そこのお若い二人のナオン。これから某は、デッカイド産の高級小麦、ハルガスキで作られた麺を楽しむところである。悪いことは言わん。この時間だけは誰にも邪魔されたくないし、たとえ悪意のもった者と対峙したとて、麺を啜ることを優先したいのである。それは、目の前に除去すべき脅威ともいえる伝説の魔法少女リリィがいたとしてもな。つまりなにがいいたいかといえば、逃げるなら今がチャンスなのである。どうやらポピンは、うまいところに転移先を作ったようじゃのう。しかしながら、店から一歩でたらこのルートは使えんわい。ブヒブヒブヒ」
「(笑い方がモブキャラじゃない。。。)」
サオリはふとそのように思ったものの、口に出さず、またしてもリリィの方に目を遣った。
「(サオリちゃん、戻るよ。お店から出れば私たちは洗濯室へもどれるの)」
2人は立ち上がり、魔王デスガイガンの様子を一目もみることなく、店外へと出たのであった。
「ごちそうさみゃでちた~~」
「ありがとうございます。またお待ちしております!」




