31階
ドアを開けると、2人はどう反応すればよいかわからなかった。サオリとリリィが来たときと同じように、「洗濯室」と表記のある、コインランドリー風の部屋の右手には大きな木製の樽が3台ならんでおり、また、左手には蛇口つきの給水タンク、そしてその右側には紙製のコップが重ねて並べてあるのだった。タケアキは件のモンスターに訪ねた。
「さてさてカクシミッケさん。この状況から我々はどうすればよいというのですか」
「フムフムコワイヘヤデスネココハ。ワタシニオマカセクダサイ」
カクシミッケはしばらくフリーズしていた。どうにも31階へ向かうための方法を解析しているようだった。そして突然、奥の樽の蓋を開いては閉じ、開いては閉じ、手前の樽はそれを一回だけ行い、ウォーターサーバから3つのコップに水を注ぎ、満杯になるまで満たしたかと思うと、カクシミッケから冷気を感じたと同時に、3つのコップは瞬時に凍りついた。そして固まった3つのコップを、中央の樽に投入したのであった。すると、自動音声がどこからともなく流れてきた。
「かしこまりました。いまから空間内のお二人と、モンスター一体を、ポッピンホテル31階、『修練場』へと転移いたします」
「ドンズさん、成功したようですよ!どうですか私のカクシミッケは!たいしたものでしょう!」
タケアキは自分がまるで、魔王を討伐したに相当する大仕事を成し遂げたとでも言わんばかりの、達成感に満ち溢れたかのような、満面の笑みを見せつけて、ガッツの感じられない小太りな中年男性なりの、精一杯のガッツポーズ、それはつまり、右手をグーに握って天高く掲げるというポーズを披露していた。
「おー、おー、大儀なこっちゃ。あと、氷系の魔法使えるん?戦闘もできるんちゃう?しかし、ここからが本番ちゃうん?」
しばらくするとまた、自動音声が流れた。
「ポッピンホテル31階に到着いたしました。強制離脱魔法を発動します」
そうして部屋の中が真っ暗に変わり、明るくなると、そこは辺り一面が真っ白な、何もない空間となっていた。天井は高く、12~3メートルはあるように見える。実質31~35階ぐらいの広さなのではないかという状況であった。それにしても静かであり、何のモンスターもいないし、一体どうなっているのだか。
「おいおい、タケアキはん、これは一体どうなっているんや?」
「まってください。人の気配があります」
部屋のすみっ子に位置していたドンズとタケアキ、それにカクシミッケであったが、突如として、中央から黙々と煙が立ち上り、消えたかと思うと、そこには1名の男が立っていた。
「どうやら貴方がたは、総支配人の言いつけを破り、ここまで到達してしまったようですね」
ここで読者諸君は、いままで出会ったことのある登場人物がその男の正体と予想したかもしれない。しかしながら登場人物はポピンでもないし、クジュシンの坊主でもなかった。だが、頭髪はなく、坊主頭なのであった。彼は精悍な顔つきをした20代前半の若者といった見た目であり、活力に満ち溢れた雰囲気を有していた。
「はじめまして、私は、リョウヘイと申します。父はクジュシンで、冒険者の蘇生、回復に努めております」




