らぁみょんの鬼
サオリは不安な気持ちを抱えつつ、リリィに問いただした。いま機械的な女性の声はたしかに、魔王城前へ向かうなぞと、不吉なアナウンスをしだしたのである。アナウンスの意味するところは、いきなり、中ボスを倒したり、なにかこう、経験値を大量に獲得できるボーナスのようなモンスターを倒すことによる大幅なレベルアップを経ることなくして、ラスボスのところへいくという事だろうか。いくらなんでも唐突すぎるだろう。このポッピンホテルは、どうなっているのだ。
「ねぇ、今の音声って。。。」
「うん、魔王城前にいくの~ウケるwww」
「状況がわかっているの?ウケてる場合じゃないでしょう」
「サオリちゃん大丈夫だよ~すぐ戻れるから!でも一旦扉を出てからでないと、転移魔法は発動しないの~」
すぐ戻れると言っても、扉を出た瞬間に1つ目の、棍棒を持ち、角の生えた巨人や、素早い動きにより、1ターンに2度攻撃できるタイプのマシン系ロボットなぞが一斉に襲いかかってきたら、いくら伝説の魔法少女といっても厳しいだろうと、サオリは暗澹たる気持ちになってしまった。扉を開けたくない。むしろ、我々がこのエレベーター内に閉じこもっている間にでも、誰か別の勇者パーティーが魔王一派を殲滅してくれないかなどと考え始める始末であった。しかし、自動音声が無慈悲なアナウンスを流し始めたのであった。
「アキパラパー、魔王城裏側に到着いたしました。強制離脱魔法を発動します」
「えええ?!外に出されてしまうの?」
目の前が真っ暗になったかと思うとまた、明るくなった。すると、サオリとリリィは、ラーミョン屋のカウンター右端になぜか座っており。そこは6席しかなかった。おまけに残りの4席は、商人風の男性が、黙々と麺をすすっていた。ちょうど、2人が座っているところでカウンターは直角に曲がっており、後ろの右側に、食券機と思しき木箱が設置されていた。
「お客さん!食券機からご注文をお願いいたします!」
「え、え?」
サオリが戸惑っていると、黙々と麺をすすっている商人たちが一瞬、ジッと睨みだしたが、すぐにまた麺に集中しだした。店主は寡黙な雰囲気で、神経質そうだった。また、髪はオールバックにしており、洋食屋のコックと見紛うかのような、真っ白な制服を身にまとい、包丁で青ネギを刻みはじめた。その手さばきは美しく、おもわず見とれてしまった。
「サオリちゃん食券かおー!!なににする?リリィはね、醤油らぁみょん!」
「そ、そうね。それでは私は、塩らぁみょんを注文するわ」
こう、木箱に貨幣をいれられるようになっており、それぞれのメニュー下に、貨幣をいれる穴があいていた。どういうわけか、そこに投入すると、食券が出てきそうな雰囲気である。とにかくサオリとリリィは木製の食券機、希望のメニュー下(メニュー名は、ラーミョンではなく、らぁみょん、と表記されており、店主のこだわりを感じた)の穴へ貨幣を投入すると、木箱から色付きの札が出てきた。醤油らぁみょんは、黒い札、塩らぁみょんは、白い札だった。何故魔王城の近辺まで来て、こんなこだわりの麺を味わうことになるのかよくわからなかったが、とにかくまたポッピンホテルに戻るためには、そうするより仕方がなかった。それにしても、この店主はまるで、サオリが生前にテレビで観たことのある、一流のラーメン職人を目指すラーメン番組の講師にそっくりであり、明らかに、クジュシンのオークラーミョン屋とは格がちがうように見えた。店内はピカピカに磨き抜かれており、デカネズミどころか、虫一匹、いないほど清潔に感じた。そして、札を受け取った店主が麺を茹ではじめ、しばらく経つと湯切りをはじめたわけだが、ザルは、深くへこんだテボザルでなく、難易度の高い平ザルを使用しており、見惚れるような手さばきで湯切りを披露していた。その光景は文化遺産に登録してもいいようにおもえた。この世界は、週刊少年漫画でいえば、某グルメ系バトル漫画の世界なのかもしれないとサオリはおもった。相変わらず、商人たちは一言も喋らず、真剣にらぁみょんと向き合っていた。
「ガラガラ」
ここでもう1名、お客さんが来たようだった。
「いらっしゃい!食券からご注文をお願いします!」
食券機の前に立つオーラから、禍々しいものを感じた。サオリはチラッと振り返ろうとすると、リリィが制止し、ボソッとつぶやいた。
「サオリちゃん。いまはダメ」




