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馬車保険

 不満そうな顔をしている人間は馬車の運転手だった。


 ドンズが勘づいたように、言葉を発した。


 「運転手はん。あんた、保険が降りて、もっとスペックの高い馬を買うことができると期待していたのにのう。回復してしもうて、がっかりしているんちゃうん?まさか」


 「いえいえ、なにをおっしゃいますか。私の命、それに、大事なパートナーを助けていただいて、感謝してもしきれませんよ」


 その場の誰もが、なんとなく彼の言葉に心がこもっていないように見えた。理由はおそらく、馬が2頭死亡したことにより、馬車保険に加入していた運転手は、いまよりもややスペックの低い馬を2頭を購入し(つまり、いまの馬車についていえば、性能は良すぎるのであったらしい)、差額を自分のふところにでもしまおうと考えたであろうと推察したことにあるのだった。しかしそれを考えていても、らちがあかなかった。


 「運転手さん、お騒がせしました。少し休んでから、サウザンドイヤー街へ連れていっていただけまえせんかね」


 「ええ、もちろんでございますよ。しかしタケアキさんとおっしゃいましたか?馬車がなくなった水晶を、買い取らせていただけませんか?」


 「どゆことー??」


 「あれれ、いくらなんでもそれは規約違反でしょう。まぁ水晶をお売りすることは可能ですがね。しかしながら虚偽がバレると、ペナルティで、契約解除されてしまいますよ」


 「ははっ。諦めますよ。とにかくあなた方は命の恩人ですので、料金はいりません。サウザンドイヤー街へお連れしますよ」


 こうして4名は馬車に乗り込み、目的地までの到着をまった。それまでに、魔王軍の手下にまたしても襲われるということもなく、非常に快適な乗り心地で馬車にのっていた。ドンズは、ランスキメラから発射されたツノの一つを大事そうに持っていた。なんでも街で、このツノを使った槍を作ってもらうという算段らしかった。サオリはいまでも自分があのような力を発揮できたことが信じられず、茫然自失としており、魔法少女リリィは寝ていた。そしてタケアキは自前のモンスター図鑑を眺めながら、ニマニマしていた。


 「サオリさん、もう少しで到着のようですよ。馬車から出る準備をなさって下さい」


 「わかったわ」


 ついに千年ドラゴンのいるというサウンザンドイヤー街に到着し、4名は馬車から降りた。結局のところ運転手には受取を拒否されたものの無理をいって料金を支払った。それに、馬車がランスキメラのツノに穿たれ、息が耐えてしまった映像を記録した水晶の映像は削除せず、タケアキがカバンにしまっておいたのであった。


 「とりあえずつかれたでぇ。一旦宿屋で休もうや」


 「リリィもねたいー!」


 「そうね、私のドヒールで回復したとはいえ、今は少し観光をしてお休みするのがいいわよ」


 「ウフフフフ、お宿をお探しとのことでしたらぜひ私が経営するポッピンホテルをご利用くださいませ」


 目の前に突如、口ひげを生やし、赤い蝶ネクタイのついた白いシャツに黒いスラックスをはいた、好感のもてる男性がよってきたのであった。

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