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ヤリオトコ

 「ダッダッダッダッダッ!」


 馬車の後方200メートルほどのところから、槍を両手に持ちながら直立姿勢で駆けてくる、三角帽を被った痩身の男がこちらに向かってくるのが見えた。足音がかすかに響いてくる。


 「ダッダッダッダッダッ!」


 「本当だわ。なにか怪しい男が近づいてくるわ。彼は一体なんなの」


 「おっとっと。まずいですね。あの風貌から察するに、彼はおそらくヤリオトコです。魔王軍の手下ですね。ものすごい脚力が自慢です。物理攻撃しかしてこなかった気がしますので、いくらでもやりようはあるかと思いますがね。リリィちゃん、魔力を消費しない程度に、なにか初級の攻撃魔法をかけて御覧なさい」


 「うん、わかった!ファイヤー!!」


 「(あ、スカイワールドで炎系の魔法はファイヤーなのね)」


 ここでサオリは生前、わからなかったときに人に質問できず、有耶無耶なまま物事を進める自身のダメさを思い出し、憂鬱になってしまった。いまの時点まで、基本的な炎系の魔法がファイヤーという名前であることすら知らなかったのである。もしも転生した人間がコミュニケーション能力抜群なのであれば、クジュシンの時点で、炎、水、雷、回復系の呪文あたりの名称を暗記していたことだろうに。ああ、自分でよかったのだろうか。はやく死にたい(もう死んでるけど)。


 「スパン」


 などと憂鬱に感じていると、ヤリオトコの首から上が飛んでなくなってしまった。


 「え?ファイヤーって、首を撥ねる魔法なの?即死系だったの?」


 「そだよー。加減がわからなくて、もっと簡単なのでもよかったかも!テヘペロ!」


 「え、リリィちゃん、強すぎじゃないの?!あなた単体で、魔王を倒せるんじゃない?」


 ふと、トミゾウがオヂキメラを倒したときに抱いたのと同じ感想を、サオリは抱いたのだった。基本的にここは、味方再度が強すぎる世界線だろう。一体どうなっているのだ。大体自分はいまだに何もしていないじゃないか。最初街で坊主はなんと言っていたっけ、なぞと考える間もなく、ヤリオトコの胴体はそのまま崩れ落ち、静止してしまった。何事もなかったかのように馬車はサウザンドイヤーに進行した。


 「さすがは伝説の魔法少女やな~。ヤリオトコいうても、そんなにやわな敵やないで~~」


 「う~ん。本当にこれで終わりなのかなぁ」


 「たしかにリリィちゃんの言う通り、あまりにも呆気なさ過ぎますね。まぁ、即死系のファイヤーを使えるというのが、相当熟練した魔法使いでないと出来ない芸当なのですがね」


 「えへへ。でもまたおじさんが走ってきてるよ!」


 「ダッダッダッダッダッ!」


 後ろを振り返ると、死体は見えず、リリィがファイヤーを唱えた前の状況が再現されたかのように、また三角帽のオトコが槍を持ちながら追いかけてきた。距離が縮まってきて150メートルを切ってきたかのように見える。


 「ほうほう。これは困りましたねえ。たぶん物理攻撃、魔法では倒せませんよ。どうしたら良いのやら。運転手さん、もっと早く走れませんか?彼らは自分よりスピードが早い生物についていえば、追いかけるのを諦める習性があるはずです」


 「お客さん、それは難しいですよ。なにせ、馬車道交通法の限界で走っているのですからね。いくら魔王軍が追ってきているとはいえ、私も法律違反できません」


 「チップを渡してもダメですか?」


 「ダメですよ」


 「それはそれは、随分と遵法精神の高い、素晴らしいお方ですね。デッカイド国会において、このような場合は法律を違反しても罪に問われない魔王軍特例措置を設けてほしいところですが、それよりも早く討伐しにいかねば!」


 そうこうしているうちに、ヤリオトコとの距離はおおよそ100メートルのところまで迫ってきた。


 「どうすんねんこれ!でも戦ってみないとわからへん!とりあえずワイが迎え撃つで!!」


 こうしてドンズも同じく槍を両手に、馬車後方から戦闘態勢で身構えていた。リリィが試しにまた何か唱えているようだった。両手から火の玉が連続で5~6発、出力された。


 「ボゥッ、ボウッ、ボゥ」


 ヤリオトコに直撃すると、メラメラと燃えてしまったように見えたが、やはり聞いておらず、引き続き直立体制で突進してきた。


 「うーん、やっぱりダメだね~」

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