最初の雑魚モンスターに負ける
目を覚ますと大草原の中で仰向けになっていたアッコは、もはや茫然自失とするよりなかった。
空は青く、辺り一面は草原の緑、旅行でこの景色にたどり着いたのであれば最高である。しかしながら彼女は就労していない子供の部屋に住むこども部屋おばさんのため、自宅とたまに母から頼まれて買い出しにいく近所のスーパーのみが唯一のお出かけ先である。こんな場所は全く持って見覚えがないのである。敷地内に畑や竹藪はあるものの。
「ボンッ!ボンッ!ボン!」
とつぜん目の前で、爆発音にしてはやや情けないような、バチで太鼓を叩いたような音が3回立て続けに鳴った。3体というのか3匹というのか3個というのか、なにかこう、青いゼリー状のおそらくは生物が上空へ飛び上がり、アッコの目前10メートルぐらいのところに着地した。それぞれ目は2つついているし、口もあるようだ。鼻はなく、大きさはせいぜい、高さ30センチ、奥行きも幅も30センチぐらいのゼリー体といったところだ。頭がとんがっているとさすがに、パクリがすぎると筆者も危惧したらしく、とんがってはいなかった。
「???」
この光景をみて、アッコはどうすればよいのか、はっきりいって硬直してしまった。しかしその3匹を見つめていると、どうにも好意より敵意が勝っているように見えた。1匹が、自分のところに突進してきて、胸の辺りにぶつかった。つまり、クリーチャー群を数える単位は、アッコの脳内で開催された会議によって「匹」に決まったともいえる。
「イテッ」
彼女は尻もちをついてしまった。もう絶対絶命である。大体、鯉のぼりの中にいたとおもったら平原に横たわっており、なぞのクリーチャー3匹に出くわすとは一体どういうことなのか。また立ち上がると、もう2匹も体当たりを同時に行ってきた。
「イテッ」
またしても尻もちをついたかと思うと、そのまま気絶してしまった。薄々、これはいわゆる異世界への転生ではないかと気がついたが、であればなにか攻撃魔法や回復魔法でも使えるのかなぁ、などと、死亡前の世界で甥の未来くんが遊んでいたスーパーファミコンの某RPGゲームを思い出したものの時すでに遅し。つまり、彼女は異世界に転生した瞬間、一番最初に登場する雑魚のモンスターに倒されてしまったのであった。
「おお、御婦人よ、目を覚ましましたか。あなた、日蓮大聖人様の庇護によって助かったのです」
アッコの目の前には、坊主がいた。神父じゃないんかい。ここはどういう設定の異世界なのかを理解せねばならないようだった。