レジェンド
キングオクトパスが気絶し海底に沈みゆく姿を眺めていたサオリは、魔法使いリリィに賛辞を送った。
「リリィちゃん、今のは何よ。すごいじゃない」
「えへへ。いまのはエレキンと呼ばれているらしいよー。リリィがエレキンを掛けるとね、掛けられた子は雷の使者になるの!」
「それって人間にかけても大丈夫なわけ?」
「うーん、たぶん!でも鍛えてないオヂサンにかけたら死ぬかもー」
「ええ、こわいわね。タケアキは死ぬんじゃないの」
「ちょっとまってくださいよ。私、どれだけ軟弱な男だと思われているんですか」
「フォッフォッフォ。お主、弱者男性というやつじゃろ」
「あのですねえ、聞きかじった言葉の定義を理解せずに使わないでもらえますかねー。私は公園の管理人という立派な仕事をしていましたし。まぁいずれにしても、デカネズミのレベルもアップしたようですよ。リリィちゃん、これからも頼みますよ。デッカイドでは基本的にボクのモンスターで魔王軍を討伐していこうと思います。トミゾウさんとリリィちゃんはアキパラパーまで力を温存しておいてくださいね!」
「あのぅ。私にできることはなにかありますか?」
「サオてゃんには重要な役割があるでな。いまは気楽に旅行するがええよ」
これでは転生する前の世界と何も変わらない、ニート状態ではないか。
海上警備隊の3名がサオリたちに向かって近づき、リーダー格と思しき精悍な表情をした男がお辞儀をしながら感謝の意を述べたいようだった。3名とも、オレンジ色のツバ付き帽子を被っていたが、帽子を取っていた。そのうちの一人、左側にいるやや太った男は頭が禿げ上がっており、別に帽子をとらなくてもいいのに、とサオリは考えてしまった。
「このたびはありがとうございました。それにしても、トミゾウさんにリリィさんと、伝説のお二人がパーティーを組みましたか。いよいよマスカラフト政府も真剣に魔王討伐に向けて動き出したようですな」
「伝説?」
サオリがボソッと疑問を呈したがそれには特に誰も拾わず、トミゾウが返した。
「フォッフォッフォッ。礼には及ばんよ。それよりも端っこで項垂れているジャムゥくんとドンズくんの手当をしてやるんじゃ。何度かタコ足攻撃を受けているようじゃし、キングオクトパスに一定のダメージは与えてくれていたとみえる」
タケアキも追随した。
「デカネズミが最初の一撃を成功させたのも、お二人のコンビ、それに警備隊の皆さんが戦ってくれたからというのも大きいですね」
警備隊長および2名は改めて深々とお辞儀をしたが、トミゾウ、リリィ、タケアキ、サオリの4名は物欲しげに海上警備隊をみつめていた。
「もー、忘れてないですって。乗船料は今回、サービスとさせていただきますって!」
「やったーーーっ!!!」
リリィちゃんがガッツポーズをしたと同時に、項垂れているジャムゥとドンズに話しかけた。
「二人もお疲れだよ~久しぶりだね!」
ジャムゥがリリィちゃんの顔をじっと見つめながら、口を開いた。ドンズは項を垂れたままで話す気が無いらしい。
「ダサいところをリリィちゃんに見られてしまったなぁオイ!またデートしようぜ!!グヘヘ」
ひとまず元気そうで、サオリは安心した。