リリィ強化
我々はカラフトマス号先端のデッキに到着した。そこでは5名の屈強な男たちが巨大な軟体動物に対峙しており、そのうちの2名は後ろに座り込み震えていた。情けない震えを見せつけていたのは長身のジャムゥとずんぐりむっくりとしたドンズであり、3名はオレンジのチョッキを装着しており、後ろに海上警備隊と印字されていた。どうやら客船のスタッフのようだった。ここから推察できるのは、屈強なチンピラ二人組よりも海上警備隊の方が魔王を討伐できる可能性が高いということだ。そのうちの一人が我々に気づき、声をかけた。
「おお、増援ですね。ありがたい。今日は大当たりの日ですよ。なにせこの一帯の主、キングオクトパスの姿を拝むことができたのですからねぇ。最初のカップルはリタイアしてしまったようですので、皆さん一旦、戦ってみますか?」
「フォッフォッフォッ。下手な魔王討伐隊よりも強いと噂の海上警備兵でもまだ倒せんか。こりゃあ強力じゃのう。できれば出会いたくなかったわい」
「せっかくなので、デカネズミレベルアップの場とさせていただきますかねぇ」
先端には高さ15メートルほどに達しようかという、8本足の赤い軟体動物がこちらの様子をみていた、ムチのようにその足をしならせながら、船体に攻撃をしかけていくものの、何かしらのコーティングか魔法による防御がなされているのか、客船が沈没する様子はなかった。
「この船は丈夫そうね」
「フォッフォッフォッ。なにせ、世界一の造船会社、アダッチ重工が作っているからのう。屈強な魔物の攻撃でもなかなか沈まんよ」
「デカネズミ、いきなさい」
タケアキの右手に掴まれていた正方形の物体から発行されたと同時に、クジュシンでオークラーミョンのオーク肉をたらふく食べた犯人が姿を表した。
「チギュァァァァアアアア!!!!!」
昨晩ぶりに姿を現した。明らかにネズミとして考えたら強そうだし、体長は150cmほどもある。前歯が鋭く、素早さもありそうだ。サオリが思わず感嘆の意を告げた。
「よく倒せたわね。リリィちゃん」
「んー?ギリギリだったよー?」
「デカネズミは一撃で勝負を決めるタイプのモンスターですからねぇ」
1本の足がムチのようにしなって、この食い逃げ犯を襲った。
「ガブッ」
「あっ」
サオリが驚くと同時に、キングオクトパスの足が一本なくなっていた。デカネズミは食いちぎった足をモシャモシャと咀嚼していた。
「おいしいのかのう、あの足。巨大水生生物は、ゲテモノと相場が決まっておるからのう」
「でも向かってくる足は食いちぎれるにしても、どうやって倒すのよ」
「ドピュウッ!!!」
「チギュアァ!!!」
まるで銃弾のような水の塊がデカネズミを襲った。直撃し、客室に向かう鋼鉄のドアまで弾き飛ばされてしまった。そのままデカネズミはうなだれてしまった。タケアキは残念そうに見つめたものの、
「おっとっと。もうダメかい?だいたい相性が悪かったかなぁ。とりあえずレベルあげしないとなぁ」
「アッキー、のんきだね。ねぇ~そろそろリリィがやっつけてもいいー?」
「いいえ、リリィちゃん。お願いがあるのだが、デカネズミに回復魔法をかけてくれないか?それと、君、対象にたいして属性を付与する魔法をかけることができるのだろう?ゲテモノだろうし、丸焼けにはしなくてよいのだが、しばらく航行する客船を邪魔しないようショックを与えるあれさ、たのむよ」
「えー、そゆことー?」
「フォッフォッフォッ。リリィお嬢ちゃんの出番はまだ早いじゃろう。そなたは切り札なんじゃから。今は温存してなさい」
「切り札しぬwwwわかったよー。じゃあいくね」
リリィが手と手を合わせ、それぞれの指をクロスさせた。大気中が優しい空気に包まれると同時に、うなだれていたデカネズミがみるみるうちに元気な雰囲気に変貌していき、同時にビリビリと音が聞こえ、周囲が黄色くおぼろげながら黄色く見えてきた。
「はい、大丈夫だよ!オークボパークではいぢめてごめんね!」
タケアキが自信を取り戻したような表情で、巨大な食い逃げ犯に指示をとばした。
「やっつけてやりなさい、デカネズミ」
「チギュアアアアア!!!」
またしてもムチのようにしならせた足が迫ってくるのを躱すと、そのままタコ足に噛みつきっぱなしだった。するとキングオクトパスの動きが止まり、気を失った様子をみせ、そのまま海に沈んでしまった。感電したようだ。
「やりましたね」