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オヂブレス

 異形のクリーチャー、オヂキメラは、真ん中のシャチ頭と右側のニジマス頭も草をモシャモシャと咀嚼するのをやめ、とうとうブラックバスに倣って胴体全体を我々の方に向け、ジッと様子を伺っていた。


 「トミ爺どうするの、ここで逃げるっていうの?」


 「ふむぅ。逃げるというのは冗談じゃ。良いかいサオてゃん、大事なのは勝てるという自信じゃ。勝負に絶対といえるものはない。勝利をイメージし、相手に立ち向かうことが重要なのじゃ。実力に差があっても、モチベーションや体調、地の利で結果は左右されるんじゃ。それにワシは50年以上、鍛錬を積み重ねておる。こんな序盤のモンスターに負けてしもうたら、魔王討伐なぞ夢のまた夢じゃろう」


 「急に自信に満ちあふれてきたわね。どうしたの」


 「オヂキメラと向かい合ったらやる気がでてきたんじゃよ。まぁ、みていなさい!」


 「グオオオオォォォォン!!!」


 こちらの敵意を察したのか突然、オヂキメラはコウモリのような翼を羽ばたかせて、天空に飛び上がった。かと思うと、そのままこちら側に突進してきた。それぞれの頭が口をパックリと空けて、なにか力を溜めているような様子だった。


 「来るぞい、ワシの後ろに隠れなさい!」


 「え、あ、はい」


 サオリは言われるがまま、トミゾウの後ろに隠れた。それぞれの口内から、いかにもブレス系の技をだしますという雰囲気がただよってきた。


 「ボゥッ!ボゥッ!!ボゥッ!!!」


 それぞれの口から、球状の気体のようなものが放たれた。ボーリング玉ぐらいの大きさだった。シャチから、赤の色、ニジマスは水色、そしてブラックバスは、黄色だった。それぞの流動体はトミ爺に向かってきた。


 その刹那、トミ爺は、両腕を胸元にクロスさせ、バリア的な呪文でも発するのかと思えば何も出てこず、単純にそれぞれの流動体を物理的にガードしていた。


 「熱ッ!冷ッ!ビリビリするッ!!!」


 「えええ、素で受け止めたの???」


 「ハァハァ。なかなかの攻撃力じゃのう、オヂブレス。ちょっと試してみたかったんじゃよ。ワシはのう、サオリさん、モンスターの良さを最大限引き出してから、倒す派なんじゃ。それにしても、並の冒険者なら、全滅してたぞい。では、反撃といくかのう!!」


 これがオヂブレスなのか。というか爺さん、必殺技を素手でガードしてしまったよ。いったい爺さんの防御力はどうなっているのだ。いわゆるカンストをしているのでないのか。次に、トミ爺の周囲から、明らかにいままでとは違う圧力がただよってきた。なんだか気温が上昇してきたような。


 「サオてゃんよ、ワシが魔王を討伐できると言ったセリフが戯言でないことを、今から証明するぞい」


 トミ爺の周りがなんとなく黄色いモヤがかかったような雰囲気になっていた。なにか大気や草花から生命力を吸い取っているような。トミ爺は、少しかがんで、野球の守備中のような格好でオヂキメラに向かっていた。


 「溜まってきたぞ。。。タケアキには申し訳ないがのう、いくぜ、3頭の悪魔、オヂキメラよ。ワシは精霊の加護を受け、いま、放たん」


 なんかセリフも含めて、必殺技っぽい雰囲気になってきた。どんな魔法を放つのだろうか。


 「トミゾウ・エクスプロージョン!!」


 このとき、オヂキメラは20メートルぐらいのところまで迫っており上空10メートルあたりを浮かんでいたが、トミゾウを覆う黄色いオーラのようなものが凝縮され、そのまま光線となりオヂキメラへ向かってものすごい速さで放たれた。


 「グオオオオオオォォォン!!!」


 オヂキメラも負けじと、同じブレス、つまりオヂブレスを披露しようと溜めていた様子だったが、間に合わなかったようである。光線がオヂキメラを包むと、そのままバゴオォンという音を立て、モクモクと煙が発生していた。おそらく跡形もなく消え去ってしまったとみえる。この光景にサオリは唖然とするよりなかった。いくらなんでも強すぎる。よりにもよって、異世界転生した自分が最強なのではなく、ポッと出の序盤で出会った爺さんが最強だったのである。これ、自分が存在している意味はあるのだろうか。しかし、根がニート気質にできているサオリは、何もしなくてもいけるんちゃう?と安堵の気持ちが湧いたのも否定できなかったのである。このまま、自分は価値がある人間であるという雰囲気を醸し出して、魔王戦までクリアするのが最善手な気がしてきた。


 「す、すごいわね。トミ爺。出会って初めて、信じたわ。魔王を倒せるかもしれないわね」


 「いや、まだじゃ」


 「グオオオオオオン!!!!!」


 さきほどよりもボリュームの大きい咆哮が煙の中から聴こえてきて、サオリは嫌な予感がした。

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