ドアの向こう
「あのぅ。トミ爺、これはどういう、、、」
「お主はお世話係なので対象外じゃった。ワシの説明不足じゃよ」
「???」
「つまりのう、戦う必要はないし、後方支援も不要なのじゃ。戦闘シーン以外で、ワシの身の回りのお世話をしてくれれば、それでよいのじゃよ」
「もしかして、トミ爺が単体で魔王を倒しに行くの?私がお世話をして」
「それだと厳しいかのう。やはり、仲間は必要じゃのう。もっとも、サシならワシ、魔王より強いんじゃがのう。いや、全盛期は強かったというべきか」
「え、どういうことなの?それは」
いや、修業したり魔物を倒してレベルアップするのでなく、もう勝てるんかい。本当に大丈夫なのかこの爺さんは、ただのホラ吹きじゃあないのかなぞと、サオリは疑いはじめてしまった。それかあるいは、実はこの世界の魔王は対して強くないのではないか、という予感もしてきた。
「まぁのちのち分かるて。サオリは棒立ちしていれば良いから、中にはいるぞい。条件は、男女ペアでオークボパーク内に入り、オヂキメラじゃからのう。これで討伐ができれば、クジュシンから、デカイドッへの通行許可証が発行されるぞい」
「デカイドッ?というかいまさらだけど、勇者候補に会えれば今回はよかったのだけど、、、」
「トミゾウさん、サオリさん、それでは鍵をあけますので、外に出てくださいね」
ぞろぞろと3人で外に出て、直ぐ目の前の扉ちかくにたつと、タケアキは憂鬱そうな顔をして扉をみつめていた。2~3秒すると奇妙な唸り声を上げた。
「ふううぅぅぅぅん。やるか。お二人とも、準備は良いですか。扉が空いたら3秒以内に中に入るのですよ」
「問題ないぞい」
「だ、大丈夫よ」
サオリには元来じぶんの意思があまりなく、その場の雰囲気に流される性格であり、今回もその性格が遺憾なく発揮された。今回は勇者候補に出会うだけで問題なかったのだが、冒険へのパスポートを手にいれるところまでストーリーが進んでしまうらしい。
突然、この冴えない公園管理の顔がキリッと仕出して禍々しいオーラを感じ取ることがサオリにもできた。
「ファアアアアァ!!!!ドアアケ!」
するとすかさず、公園内の扉の鍵穴に鍵をさし、時計回りに回し、そのまま手前に引いた。魔法の意味があったのか疑問に思いながら、タケアキが叫んだ。
「はやくはいってください!!!」
トミゾウがサオリの左腕を掴み、そのまま猛ダッシュで中へ入った。2人はオークボパーク内に入園することができたということになる。
バタン、という音とともに、ドアは閉められた。
サオリの眼前に広がっていたのは、トミゾウの白髪頭だけではなかった。そこは草原のようなフィールドであり、100メートルほど離れた場所には体長5メートル程度にみえる、異形のクリーチャーが佇んでいた。胴体はヒグマのようだった。そこから頭が3つに分岐しており、真ん中はシャチ、右側はニジマス、左側はブラックバスといった風貌である。おまけに、コウモリのような羽がついていた。おそらくはオヂキメラだった。どうにもそのクリーチャーは、右向きに草をもしゃもしゃと食べているようだった。
「(あれ、これに勝てるの?無理じゃない?ふざけているのは、名前だけじゃないの)」
トミゾウがサオリの方を向き、自信に満ちた、安心感を与える笑顔で語りかけた。
「サオてゃん、これは勝てなそうじゃ。一旦、公園の外に出よう」
まじか。魔王も倒せるというのはやはりホラを吹いていたのか。このジジイは。最悪だ。大体、サオてゃんとは、なんなのだ、などとサオリは思わざるを得なかった。
「え、でも、左の頭がこちらに気づいたようだわ」
「グオオオォォォォン!!!!!」
その咆哮により、公園全体に風圧がかかり、草は揺れた。タケアキはこんなのをかわいがっているのだなんて、良い趣味をしてはりますなぁ、なぞとサオリは考えながら。二度目のお寺いきを覚悟した。