楽な賃金生活者
「タケアキくんや、久しぶりじゃのう。相変わらずしけた面をしとるじゃないか」
「トミゾウさん、どうも。生きるのは相変わらず面倒なことですよ。今日も手足の爪を切ろうとして、切らずに2時間が経ってしまっていますよ」
「フォッフォッフォッ。お主は生きるエネルギーが低いのう。この近くの淑女と遊んできたらどうじゃ。もっとも、あそぶというても、鬼ごっこをするわけでは当然ないがのう。ブフォフォッフォフォオ!!!」
途中でトミゾウは笑い声からむせたときのように変わって、このまま天へ召されてしまうのではないかと心配になった。
「いやはや。あそこで交渉しているのは上澄みの男たちですから、ボクのお給料ではなかなか厳しいですよ。それにボクは、女性に興味がありません。この部屋のモニタで、オヂキメラを観察しているのが楽しみなのです。勇者候補に倒されてほしくないなぁ。ボクのオヂキメくん」
どうやら、タケアキなる小太りの人物は、この公園の管理を任され、それによって賃金を得ているようだった。全般的に体毛が濃く、半袖の衣服から伸びる腕にも毛がわかるように生えている。髭も濃かった。トミゾウが口を開いた。
「やることが無くて、なかのオヂキメラを観察することが楽しみになっとるようじゃのう。残念ながら、君のその楽しみは、今日で終わりじゃよ、タケアキくん。新しいやりがいを見出すことじゃな」
「えー、つらいなぁ」
「魔王を倒すためじゃ。仕方なかろう。君は人類が滅んでほしいとおもっているのかね」
「それを正論マウンティングというのですよ。トミゾウさんやめてくださいよー。まぁわかっていますって。御婦人もいらっしゃるということは。入園希望ということでよろしいですか?」
「そのとおりじゃ。彼女はサオリじゃ」
「サオリさん、はじめまして。私はタケアキです」
「タケアキさんはじめまして。よろしくお願いします」
「じゃあ今から、お互いに公園に入れる資格があるのかどうか、検査を行いますねー。小屋の中にお入りくださいー」
この男はなんとなくフワフワしていて、好感の持てる雰囲気ではなかった。
サオリとトミゾウは正面のドアを開けて、小屋のなかに入室した。入って左手の、窓からは見えなかった場所に何もない空間があって、ただ床には足のマークが描かれていた。いかにもここに立ちなさいといいたげだった。
「それじゃぁトミゾウさんからいきますよー。床の足跡を踏むようにお立ちくださいねー」
タケアキは、なにか眼前に浮かびあがった半透明のモニタを眺めながら検査なるものを始めるつもりらしかった。トミゾウはお行儀よく、足のマークに合わせて直立不動の姿勢で正面の壁をみていた。
「はーい言う通りにできて優秀ですねー。ではいきますよー。3、2、1、ボンッ」
「ボウン!!!」
「ギャァァァ!イテェ!!!」
タケアキが眺めていたモニタが軽い爆発音を起こして消失してしまった。彼に怪我はないようだった。
「トミゾウさん魔力強すぎですねー。合格ですよ。これ痛いからやなんだよなぁ。」
「フォフォ、そもそも君は、そのときくらいしか仕事といえるものをしていなじゃないか。対象の実力を測る魔法『エルエス』だけは一人前なんじゃから。もっとも、それが出来るようになった経緯は、視ることしかしてこなかったからと察するがのう」
「う~ん、、褒め言葉として受け取っておきますよ。はい、次はサオリさんです」
またしても、タケアキの眼前にモニタが浮かび上がり、サオリもお行儀よく足のマークのところにピッタリと合わせて直立不動の姿勢をとり、まっすぐ見つめた。
「はーい。いきますよー。3、2、1、、、」
「......。」
沈黙が流れた。
「あの~、サオリさん、はやくお願いできますか」
「え?なにをですか」
「あ~、はい、わかりました。すみません。そういう状況ですね。では検査をおわります!」
「???」
「フォフォフォ。それで大丈夫じゃ」
トミゾウが意味深なセリフを吐いた。