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過去――静寂を切り裂く巨影

 転送反応が収束した直後、艦橋のモニターに映し出されたのは、これまでの敵戦力を遥かに凌駕する巨大な戦艦だった。

 そのサイズは、アーク・セレスティアの何倍もあり、まるで空間そのものが歪むような威圧感を放っていた。


「な……なんだ、あの巨艦は……」


 オペレーターの一人が呟く。

 誰もが言葉を失い、艦橋内には一瞬の静寂が訪れた。


 その静寂を切り裂いたのは、巨大戦艦から放たれる眩い光――攻撃が始まったのだ。


「敵戦艦から攻撃! 対艦砲が複数接近中! 回避は……間に合いません!」


 オペレーターの報告が艦橋を駆け巡る。


 次の瞬間、アーク・セレスティアを取り囲む防衛艦が次々と攻撃を受け、爆発と共に炎と破片を宇宙空間に撒き散らした。


「第6、第8、第20艦が撃沈! 第4、第13、第23艦が少破!第9、第14、第17艦、中破、応戦不能!」

「第2艦、第18艦、第22艦が通信不能! 現状、壊滅状態です!」


 モニターに映る戦場は凄惨を極め、アーク・セレスティアを中心とした防衛艦隊は、次々と沈黙していった。


 艦長の冷静な声が、緊張感漂う艦橋内に響く。

 

「全砲門、巨大戦艦を照準に設定。攻撃開始!」


 アーク・セレスティアが持つ最大火力の砲撃が放たれた。

 エネルギー弾が敵戦艦に直撃し、爆発が広がる。

 しかし、その光景に艦橋内の誰もが絶望の色を浮かべた。


「ダメージが……ほとんど無い!? どういうことだ……!」


「敵艦の装甲が異常なまでに厚いようです!通常の火力では突破不可能かと!」


「そうか……」

 

 司令官は、何度も繰り返されてきた警報音や、次々と沈黙していく艦艇の報告を静かに聞いていた。

 その表情は厳然としており、眼前のモニターに映し出された壊滅的な戦況を見据えながら、内心では苦悩を押し殺していた。


 何千、何万もの乗組員の命、そして彼らの背後にいる無数の民間人たち――この戦いの結末がもたらす影響を、彼は誰よりも深く理解していた。


 目の前の巨大戦艦が、すべてを無慈悲に破壊していく光景を見て、司令官はふと、遠くの星に住む家族や友人の顔が頭をよぎった。

 守らねばならない命が、数えきれないほど存在する。


 「このままでは、すべてを失う……」


 胸の奥で湧き上がる絶望を必死に押さえ込み、彼は深く息を吸い込んだ。

 そして、己がこの場にいる理由を思い返した。

 司令官として、守るべきものがある限り、最後の手段を選ばざるを得ない。


 目を閉じ、一瞬の沈黙の後、司令官はその重い決断を心の中で固めた。

 そして、目を開いたその瞳には、覚悟を決めた者だけが持つ揺るぎない光が宿っていた。


「艦長……すまないな」


 その声は静かでありながら、揺るぎない決意が込められていた。


「いえ、司令官の選択が、この戦いに勝機をもたらすと信じています」


 アーク・セレスティアの艦長は司令官の覚悟を重く受け止め、司令官に敬礼し、乗組員への指示をだす。

  

「本艦、アーク・セレスティアは現時刻をもって乗組員全員の脱出を命じる。本艦は、敵巨大戦艦の艦橋と思われる箇所に特攻を行う」


 艦橋内のクルーたちはその言葉に息を呑む。

 しかし、それに反対する者は誰もいなかった。


「全艦に伝えろ。まだ現宙域より離脱可能な艦は、この宙域の人類が住む星々を防衛するため、即時退避せよ」


「了解しました!」


 状況を報告するオペレーターの声が響く。

 

「離脱可能な艦は5隻です!」

「ならば、それぞれの艦を星々に振り分けろ。少しでも多くの命を救うために……!」


 司令官は握りしめた拳をそっと開き、全乗組員に向けて最後の命令を下した。


「これが我々の使命だ。生き残る者たちは、この希望を未来へと繋げてくれ」


 乗組員たちは黙々と脱出ポッドへ向かい、残された数隻の防衛艦も命令通り軌道を変更し始めた。


 アーク・セレスティアの艦橋に残された司令官と艦長、一部のクルーたちは、最後までその役目を全うするために席を立たなかった。


「敵戦艦の艦橋座標、ロック完了!」

「全推進力を最大に! 突入まであと150秒……!」


 アーク・セレスティアはその巨体を揺るがせながら、敵巨大戦艦の艦橋へと一直線に突撃した。

 外殻が崩れ、爆発が次々と連鎖する。

 まるで大気圏突入中の隕石のように、無数の火花を撒き散らしながら、ついに標的へと激突した。


 衝撃は凄まじく、アーク・セレスティアの船体は前方から無残に崩壊していく。

 敵艦橋の一部を粉砕するも、その巨体はなおも健在だった。

 衝突の影響で進路を外した巨大戦艦は、今度は離脱した人類の艦隊が向かった方角へゆっくりと進み始める。


 艦長は椅子に押し付けられた状態で、崩れたモニター越しにその光景を見ていた。

 艦内は混乱の極みで、生存者はわずか。

 息をしている者も、全員が動けないか、呻き声を上げている。


「……これで、終わりではない……まだだ……」


 艦長は自らの傷口に手を当て、息を整える。

 しかし、その手も震え、意識が徐々に遠のきつつあるのを感じた。

 それでも、己が果たすべき使命を放棄することはなかった。


 艦長は全身の力を振り絞り、半壊したコンソールの前へ這い寄った。


「エンジン臨界点まで出力を上げろ……内蔵爆薬、すべて臨界と同時に起爆しろ……」


 指を震わせながら、コマンドを入力していく。

 そのたびに警告音が響き渡るが、艦長は構わなかった。


 やがて自爆シークエンスのカウントダウンが始まる。


 艦長は最後の力を振り絞り、声を絞り出した。


 「守るべきものがある限り……我らが灯火は消えない……これが……人類の……意志だ……!」


 その言葉と共に、艦長の身体はコンソールにもたれかかり、意識を失った。


 次の瞬間、アーク・セレスティアのエンジンが臨界点に達し、内蔵爆薬が誘発されるように連鎖的な爆発を引き起こした。

 全宇宙を震わせるような光と衝撃波が広がり、巨大戦艦の艦体をも飲み込んでいく。


 その眩い閃光の中で、人類の希望を託した最後の反撃が、確かに歴史の一瞬を彩った。


◆防衛艦『バステオン・アーク』艦橋


 バステオン・アークの艦橋内は、緊張感に包まれていた。


「艦長、宙域後方で巨大なエネルギー反応を確認しました。アーク・セレスティアの位置です!」


 通信士が慌てた声で報告する。


「映像を拡大しろ!」


 艦長の指示でメインスクリーンに後方の映像が投影される。


 そこには、アーク・セレスティアが巨大戦艦に衝突した後、閃光を放ちながら連続的な爆発を起こしている様子が映し出されていた。

 その破壊の余波は周囲の空間を歪ませ、近隣の小惑星帯まで揺るがしていた。


「……司令官……」


 艦長は絞り出すような声で呟いた。


「敵巨大戦艦の大規模な破片が四散しています!全方向に拡散中!」


 オペレーターが警告音と共に報告する。


「排除モードを起動。迎撃システムを最大稼働させろ!あの破片には熱源反応がある……敵性ユニットの可能性もあるぞ!」


 艦長の命令により、バステオン・アークの砲台が一斉に展開し、破片に向けて精密射撃を開始した。


 背後の爆発の閃光が徐々に収まり、宙域には幾つもの燃え盛る破片と、それに交じって小型の熱源が浮遊している。

 自動防衛システムによる迎撃の軌跡が、艦内の緊張をさらに煽った。


「破片の一部は進路を外しましたが、依然いくつかが衝突コースにあります!」

 

 別のオペレーターが冷静に報告する。


「機関部に被害が出ないよう全力で排除しろ!ワープ準備はどうなっている!」


「あと10秒で完了します!」


「よし、惑星への移動を急げ!」


 艦長が鋭く指示する。


 背後でマスターユニットの「紗良」が静かに状況を見守りながら報告を挟んだ。


「艦長、破片には敵性生命体が含まれている可能性がありますが、追尾性能は確認されていません。惑星到達後の防衛体制を優先すべきです」


「わかっている!紗良、惑星への降下手順を準備しておけ」

「了解しました」


 紗良の電子的な声が艦橋に響き、画面上に次々と指示が流れ始めた。


 バステオン・アークは、宙域内で破片や熱源反応を振り切りながら、目的の惑星へとワープを実行した。


 ワープアウトすると、目の前に青と緑の色彩が美しい惑星が広がる。

 その瞬間、艦内にはほっとしたような空気が流れる。


「惑星のデータを取得。人類の存在を確認」


 紗良が冷静に報告する。


「よし、拠点モードに移行する!地表に降下だ!」


 バステオン・アークの船体が振動を伴いながら変形を開始した。

 大きなランディングギアが展開され、船体の一部が要塞としての形状へと変化していく。

 まるで戦艦そのものが陸地に埋め込まれるように、ゆっくりと地表へ降り立った。


「降下完了。全システム安定。現在、惑星表面における防衛網を展開中です」

 

 紗良が着陸成功を報告する。

 着陸が完了すると、艦長はまず生存艦との通信を試みた。


「恒星防衛軍本部、応答してください!こちら、バステオン・アーク!本部応答せよ!」


 しかし、通信回線には雑音が混じり、応答はなかった。


「別の周波数で試せ!この宙域に他の生存艦はいるか!」


「応答なし……本部とも連絡が取れません」


 通信士の声が沈痛に響いた。

 艦長は眉間に深い皺を寄せた。


「……これでは孤立無援だな」


「艦長、惑星の防衛設備としての展開はほぼ完了しました。ただし、この状況が長引く場合、補給問題が深刻になります」


 紗良が冷静に報告する。


「まずは目の前の状況を安定させることが優先だ。本部との連絡が取れるまでは、この惑星を守り抜く。それが我々に残された使命だ!」


 艦長は硬い決意の声で言い放った。


 艦内には、静かだが緊張感の漂う空気が続いていた。

 崩れゆく前線、孤立する防衛艦――それでも乗組員たちは、それぞれが果たすべき任務に集中し、次なる脅威に備えていた。

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