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王都への帰還と休息

 戦闘の疲労が全員の体に色濃く残る中、フロリアは隼人たちと歩調を合わせながら進んでいた。

 その姿に少し安心感を覚えるノアが、ふと問いかける。

 

「フロリアさん、これからどうするんですか?」


 フロリアはノアの問いかけに静かに微笑んだ。

 

「しばらくは皆さんの護衛をさせていただきます。バステオン・アークが王都近くに到着するまでには少し時間がかかりますので、それまでの間、支援に尽力いたします」


 ノアとリーシャはその言葉に少し安心しつつも、フロリアの頼もしさに感嘆の表情を浮かべた。


 そのやりとりを聞きながら、少し遅れて隼人の横に来たナノちゃんが、得意げに腰に手を当て、胸を張りながら言った。

 

「ねー!さっきのアドバイス、すっごい役に立ったでしょー?ハヤトなら奪えるって」


 隼人はナノちゃんのむふー!としたドヤ顔に思わず苦笑いしながら、軽く頷いた。

 

「ああ、確かにな。おかげでなんとかなったよ。本当にありがとう、ナノちゃん」


 その素直なお礼の言葉に、ナノちゃんはさらに満足げな表情を浮かべ、ふんぞり返るように胸を張って見せた。


 隼人たちは一先ず救助された村人たちと、後から到着した衛兵たちの集団に合流することにした。

 そこでは、衛兵たちが被害状況の把握や村人たちの誘導を行っており、ある程度秩序が戻りつつあった。


 その中で隼人の視線に引っかかる人物がいた。

 遠目に見覚えのある顔。

 隼人は目を細めてその人物をよく見る。

 

「……あれ?もしかして、レオンハルト王子か?」


 その一言で、ノアたちが一瞬ざわめく。

 そして、隼人の声を聞きつけたその人物──レオンハルト王子が、隼人たちの方へと向かって歩み寄ってきた。


「ハヤト殿!無事だったか!」

 

 堂々とした声と共に微笑む王子の姿は、戦場にいてもなお気品を漂わせている。

 隼人は少し気まずそうに頭を掻いた。

 

「いや、あまり無事ってわけでもないですが……まさかこんなところでお目にかかるとは思いませんでした」


 レオンハルト王子は軽く首を横に振りながら答えた。

 

「村の襲撃の第一報を受けたのは私だ。王都から救援を急ぐ中で状況を把握する必要があり、指揮を執っていた」


 その毅然とした態度に、ノアとリーシャも思わず姿勢を正した。

 隼人は改めて状況を整理しながら王子に尋ねた。

 

「そういえばマリアさんから王子に会ったって聞いてたな……」


 レオンハルトは軽く頷いた。

 そのやりとりを横で聞いていたマリアが、密かに感嘆の表情を浮かべた。

 

「やっぱり王子様は頼りになりますねぇ」


 一方で、隼人は王子と会話を続けながらも、戦闘を終えたばかりの身体の疲れがじわじわと迫っているのを感じていた。


 隼人たちはレオンハルト王子の指示に従い、集落の一角に設けられた休憩所で一息つくことにした。

 ノアとリーシャは少し離れた場所で簡単な手当てをし、ナノちゃんは村人の子供たちに興味津々で近づいて遊びに行く。

 マリアは少し疲れた表情ながらも警戒を解かず、ナノちゃんの近くで周囲を見張っていた。


 隼人は地面に腰を下ろし、背中の荷物を降ろすと、深く息を吐いた。

 戦いの疲労が全身に重くのしかかる。

 そんな彼の元に、軽い足音が近づいてくる。


「ハヤト様、よろしいでしょうか?」


 声をかけたのはフロリアだった。

 いつも冷静な彼女が、どこか探るような眼差しで隼人を見つめている。


「なんだ?」


 隼人が答えると、フロリアは少し躊躇した後、問いを切り出した。

 

「先ほどの戦闘中のことですが、途中でアストリスから装備を奪ったように見えましたが、あれは……どういうことなのでしょうか?」


 隼人はその質問に少し考え込んだが、隠す必要もないと判断し、正直に答えた。

 

「あれは俺の能力だ。バステオン・アークで貰ったバックパックを同化したときと同じで、機械系の相手ならその装備を強奪することができる。アストリスが装備していた物も、それで奪ったんだ」


 フロリアは驚きを隠せない様子で目を見開いた。

 

「強奪する能力……?なるほど、バックパックの時と同じ要領で、相手の装備しているDSUのような高機能装備まで奪えるとは……驚異的です」

「そうみたいだな」


 隼人は苦笑しながら続けた。


「実際に使えるかどうかは、まだ未知数だけどな」


 フロリアは一瞬思案した後、頷いて説明を始めた。

 

「あの装備、DSUデプスストライクユニットというもので、私たちが持っているものとほぼ同じ性能のコピー品です。地上や地下での戦闘を想定して設計されており、耐久性の高い軽量アーマーを基盤に、センサーや地形分析モジュール、暗視・熱感知機能が搭載されています」

「なるほどな。実際に戦闘中、アストリスはそれを使いこなしていたからな」


 フロリアは軽く頷きながら話を続けた。

 

「また、DSUには近接戦闘用の強化ブレードと狭い空間での応戦を想定した小型高出力ライフルも含まれています。アストリスがその性能を存分に引き出していたのは間違いありませんね」


「コピー品とはいえ、それだけ高性能なら、あの戦いで苦戦したのも納得だ」


 隼人は感慨深げに言った。

 ふと、隼人は先ほどの戦闘中の光景を思い出し、フロリアに尋ねた。

 

「そういえば、アストリスはマリアさんの剣を真似て同じものを生み出してたけど、あれもコピー能力の一種だったのか?」


 フロリアは少し考え込み、隼人を見つめた。

 

「恐らくそうでしょうね。私がDSUをコピーされたのと同じであると推察されます」


 隼人はその言葉に少し気が引き締まる思いだったが、同時に安堵も感じた。

 

「そうか……まあ、あの装備を使いこなせれば、またアストリスが現れても役立つはずだな」


 フロリアは穏やかな笑みを浮かべて一礼すると、静かにその場を離れていった。

 隼人は目を閉じ、しばし体を休めることにした。

 戦いの後のわずかな休息を、彼は心から大切に感じていた。


 少し時間がたち、村に襲い掛かってきた脅威が、冒険者や衛兵たちの努力によって完全に取り除かれた。

 村の端で火の手を上げていた家々も、消火活動が進んでいたが、その代償として、村の多くは焼け野原となり、かつての活気ある姿を失っていた。


 冒険者の一人が報告をまとめて全体に伝える。

 

「これで周囲の獣もすべて討伐済みだ。脅威はもうない」


 その言葉に、村人たちの間から安堵の声が漏れるが、その場に広がる焼け焦げた土地を見つめる表情は暗い。

 家を失い、戻るべき場所もない状況に、誰もが肩を落としていた。


 村長が進み出て、衛兵のライナーに相談を持ちかける。

 

「今日はもう夜が近いので、このままではここに留まることは難しい……。一先ず王都へ避難したいのですが……」


 ライナーは村長の肩に手を置き、力強く頷いた。

 

「その判断は正しいです。私たちが護衛しますので、安心してください」


 その決定により、冒険者と衛兵、そして隼人たちは村人を守りながら王都へ帰還することになった。

 

 夕方には王都の門が見えてきた。

 長い道中を終えた村人たちの顔には疲れが浮かんでいたが、命が助かったという安堵が彼らを支えていた。


 門前ではギルド職員と衛兵が待機しており、村人たちを受け入れる準備が整っていた。

 職員が冒険者たちと隼人たちを見つけて声をかける。


「今回の援軍としてご協力いただき、感謝します。冒険者の皆様には、明日改めて報奨金などの話をさせていただきますので、ギルドまでお越しください」


 その言葉に冒険者たちや隼人は軽く頷き、隣のノアとリーシャも肩をすくめながら答えた。


「わかりました」


 レオンハルト王子が馬から降りて隼人たちに近づいてきた。

 

「君たちには本当に助けられた。無事村人たちを守ってくれて感謝している」


 隼人は少し照れくさそうに後頭部を掻きながら返事をした。

 

「俺たちはただ、できることをしただけですよ」


 王子は隼人の言葉に微笑み、衛兵たちに指示を飛ばして村人たちの受け入れを進める。

 その後、隼人たちはギルド職員や王子たちと別れ、自分たちの家へと向かった。


 家に到着すると、全員がどっと疲れた表情でそれぞれの場所に腰を下ろした。

 ナノちゃんが元気に声を上げた。

 

「ただいまー!今日はすごかったね!」


 ノアが苦笑しながら返事をする。

 

「本当ね……もう何が何だか、あっという間だった」


 リーシャは盾を壁に立てかけ、靴を脱ぐとその場でゴロンと横になった。


「もう無理……今日は一歩も動きたくない……。」


 隼人は一息つきながら背負っている荷物を片付けて言った。

 

「とりあえず、今日は早く休もう。明日になればまた色々あるだろうしな」


 ライナーが椅子に座り、疲れ切った顔で答える。

 

「そうですね。おそらく報告書の山ですが……今日くらいは休ませてもらいます」


 マリアも隼人の隣に腰を下ろし、少し不満げに言った。

 

「でも、本当にすごい戦いだったわね。私も、もっと頑張らないと……」


 フロリアが隼人たちの方を見て静かに微笑む。

 

「皆様の連携は素晴らしいものでした」


 隼人たちはその言葉に軽く手を振り、照れくさそうに笑った。

 

 そのまま全員が疲れ果ててベッドや椅子に横たわり、王都の静かな夜が彼らを包み込んだ。

 明日への備えと、今日の余韻を抱きながら、隼人たちは深い眠りに落ちていった。

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