ノアの提案と決死の作戦と奥の手
フロリアとアストリスは、激しい剣劇の応酬を繰り広げていた。
剣と剣がぶつかるたびに火花が散り、響き渡る金属音が戦場を震わせる。
フロリアは「クイックストライクユニット」の機敏さを活かし、アストリスの攻撃を絶妙に回避しながら鋭い反撃を繰り出していたが、アストリスも一切の隙を見せず応戦している。
「やっぱり手ごわいわね!」
フロリアが息を切らしながらも楽しそうに笑う。
アストリスも薄く笑みを浮かべる。
「前とは違うようね。でも、そろそろ本気を見せてちょうだい」
その激戦の中、隼人は光学迷彩を起動し、アストリスの背後へと慎重に回り込んでいた。
ブレードを握りしめ、その切っ先をアストリスに向ける。
しかし、アストリスの装備する「デプスストライクユニット(DSU)」は優れたセンサー機能を持っており、光学迷彩の隼人の動きにもかすかな気配を感じ取っていた。
「……いるわね」
アストリスがその鋭い瞳で虚空を見据える。
隼人は息を止めてさらに慎重に距離を詰めるが、その瞬間、アストリスはフロリアに向かって猛然と攻撃を繰り出した。
「くっ!」
フロリアは強烈な一撃を剣で受け止めるも、アストリスの力に押し負け、数メートル後方に吹き飛ばされてしまう。
隙を突かれた形となったフロリアは立て直そうとするが、アストリスは既に隼人のほうへ向き直っていた。
「隠れたつもりかしら?同じ手は二度と通じないわ!」
アストリスは振り向きざまにブレードを振り下ろし、隼人を狙い撃つ。
その一撃は目にも止まらぬ速さで隼人を襲った。
「ちっ!」
隼人は咄嗟に左腕のブレードと右腕のライフルを交差させて防御態勢を取る。
だが、アストリスの攻撃の威力は絶大で、隼人の両腕に直接ダメージが伝わる。
衝撃で隼人の体は後方に弾き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
「ぐっ……!」
隼人は痛みに顔を歪めながらも、なんとか体勢を立て直す。
しかし、アストリスは余裕の表情を浮かべている。
「隠れるだけでは勝てないわよ。どうせなら、もう少し楽しませてちょうだい!」
吹き飛ばされたフロリアが体制を整え、改めてアストリスに攻撃を仕掛ける。
しかし、吹き飛ばされた隼人は地面に膝をつきながら、改めてアストリスの強大さを実感する。
「このままじゃ、押し切られる……」
ちょうど近くにいたノアが、隼人のもとに駆け寄る。
「ハヤト、大丈夫?」
「何とか……だが、あいつの装備は厄介だ。どうにかして突破口を見つけないと、このままではジリ貧だ」
ノアがうなずき、隼人とともにアストリスに目を向ける。
戦況は次第に激化し、彼らの連携が勝利の鍵となることは明白だった。
「何かアストリスに近づく方法はないか……」
ノアは魔法の矢を放つ手を止め、一瞬だけ考え込む。
すると、彼女の表情がひらめいたように明るくなり、腰に携えた小瓶を見せた。
「これ……『結界の小瓶』を使うのはどうかな?」
ノアは慎重に言葉を選びながら提案した。
隼人が眉をひそめて小瓶を見つめる。
「結界の小瓶?」
「そう。これを使えば、範囲内に強力な防御結界を展開できるの。ただ、中から攻撃することはできるけど、結界が展開している間は外に出られなくなる。敵を閉じ込めることには使えるけど、私も一緒に中に入る必要があるのよ」
隼人の表情が険しくなる。
「つまり、おとりになるってことか?そんな危険な作戦、他に方法はないのか?」
ノアは真剣な目で隼人を見つめ返した。
「このままじゃフロリアさんも、みんなも危ない。アストリスに対抗するには、彼女の動きを封じる必要があるわ。現状を打破するにはこれしかないと思う」
隼人は拳を握りしめた。
ノアが覚悟を決めているのは明らかだった。
それでも、彼女を危険な場所に置くことにためらいを感じる。
だが、戦況は刻一刻と悪化している。
「わかった……だが、リーシャの盾が必須だ。結界展開中、リーシャが防御に回らないと、お前を守りきれない」
ちょうどそのとき、少し距離を置いて隼人たちの会話を伺っていたリーシャが近づいてきた。
彼女は隼人の様子を見て心配そうに声をかけた。
「ハヤト、大丈夫?さっきの攻撃、かなり強烈だったみたいだけど……」
「俺は平気だ。それより、リーシャ、ちょっと協力してほしい。ノアの提案を実行するために、お前の盾が必要なんだ」
隼人は真剣な表情で言葉を続けた。
リーシャは一瞬驚いた顔をしたが、隼人の説明を聞くとすぐにうなずいた。
「わかった。盾でノアを守ればいいのね。任せて!」
ノアもリーシャの言葉に感謝の表情を浮かべた。
「ありがとう、リーシャ。私も全力でやるから。」
三人が作戦を確認している間も、フロリアとアストリスの激しい剣撃の音が周囲に響き渡る。
アストリスのテンションはますます上がっているようで、その動きはさらに鋭く、容赦がなかった。
「よし、準備は整ったな。ノア、お前は本当に無理はするなよ」
隼人は念を押すように言った。
「もちろん、でも今は全力を尽くすときよ」
ノアはきっぱりと答え、結界の小瓶をしっかり握りしめた。
隼人、ノア、リーシャの三人は、それぞれの役割を胸に、アストリスに立ち向かうための準備を完了した。
リーシャが盾を構え、前方に出ながら隼人とノアを背後に従えてアストリスへ突進した。
結界の小瓶を握りしめたノアはそのまま走りながら、隼人の「奥の手」を成功させるタイミングを計っていた。
フロリアとアストリスが剣撃を交え激しく火花を散らしている最中、リーシャが鋭い声で叫んだ。
「フロリア!離れて!」
その言葉を聞いたフロリアは即座に状況を理解し、アストリスとの間合いを大きく取った。
刹那の判断で距離を取る彼女に、アストリスは一瞬驚いたような表情を浮かべる。
「何を――?」
しかしその疑問が口に出る前に、ノアが結界の小瓶を力強く地面に叩きつけた。
小瓶が割れる音と共に、金色の輝きが四方に広がり、周囲を光の壁が包み込む。瞬く間に、ノア、リーシャ、隼人、そしてアストリスが結界内に閉じ込められた。
アストリスは光の壁に触れようとしたが、結界が反発するように力を弾き返す。
「これは……!」
彼女は眉をひそめ、焦りの色を見せたが、すぐに余裕を装うような表情に切り替えた。
「面白い仕掛けね。でも、こんなものに私を閉じ込められると思う?」
その時、隼人が一歩前に出た。視線は冷静で鋭く、決意が宿っている。
「アストリス、これで終わりだ!」
アストリスは嘲笑を浮かべた。
「終わり?そう何度も同じことを繰り返して、意味があると思ってるの?」
そう言うや否や、アストリスは隼人に向けて高速の剣撃を繰り出した。
だが――
「何!?」
剣は確かに隼人を捉えたはずだったが、彼の姿は攻撃が通り抜けるように消え、空気に溶け込んでしまった。
アストリスは一瞬動きを止めた。
「残像……?」
隼人はナノちゃんから自分が「ナノマシン化」が出来ることを聞いており、とっさに残像を作ることを閃いていた。
それを奥の手として、結界内の限られた空間でアストリスを欺くために使ったのだ。
「しまった!」
アストリスが振り返った時には、別方向から隼人が猛然と接近していた。
彼女はすぐに剣を振り上げて反撃しようとしたが、攻撃が空を切る。
隙が生じた。
隼人はその瞬間を見逃さず、加速するようにアストリスに飛び込む。
そして、アストリスの装備に手を触れた。
「これで……終わりだ!」
隼人のシステムが活性化し、アストリスの装備を解析、そして「強奪」し始めた。
触れた瞬間、アストリスの周囲に青白い光が揺らぎ始める。
アストリスはその異常事態に気づき、必死で隼人を振り払おうとするが、ナノマシンの力で拘束されている為、隼人を外すことができない。
「な、何をしているの!?」
「お前の力を……奪わせてもらう!」
隼人の声が結界内に響き渡る中、光がさらに強く輝き始め、アストリスは苦悶の表情を浮かべた。
そして――
「くっ……!やるじゃない……でも、これで終わると思わないでよ!」
アストリスの叫びが結界の中に木霊する。
しかし、隼人の決意とナノマシンの強奪プロセスは止まらない。
戦局が大きく動こうとしていた。




