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救助と避難

 叫び声を頼りに走っていく隼人たちと冒険者たち。

 畑を抜け、さらに奥へと進むと、その先には恐怖に震える一人の少女が見えた。

 少女は何かを胸に抱えており、その周囲には複数の獣が襲い掛かろうとしていた。


「くそっ、間に合え!」


 先頭を走っていた屈強な冒険者が叫びながら剣を振り上げる。


 鋭い一閃が放たれ、襲い掛かろうとした獣が真っ二つに両断された。

 その瞬間、少女が転びそうになりながらも命拾いした。


「おい、大丈夫か!」


 冒険者が少女に駆け寄り、状況を確認しようとするが、周囲にはまだ多くの獣が潜んでいた。


 「まだいるぞ!気を抜くな!」


 熟練の冒険者が指示を飛ばす。


 獣たちは次々と現れ、冒険者や衛兵たちに襲い掛かってきた。

 冒険者たちは武器を振るい、衛兵たちも応戦する。

 隼人も剣を構えて獣の群れを排除していく。


「ノア、リーシャ、ナノちゃんを頼む!」


 隼人が声をかけると、ノアが杖を握りしめ、魔力の矢を放って敵を撃退する。


「わかった!こっちは任せて!」


 リーシャも盾を構え、炎の障壁を展開しながら敵の進行を防ぐ。

 その間に衛兵のマリアが少女に駆け寄り、優しく声をかけた。

 

「大丈夫、怖かったわね。さあ、後ろへ行きましょう」


 少女を抱き上げて安全な場所に運び始める。


 だが、安堵する間もなく、別方向から新たな獣が現れ、隼人達や冒険者を無視して再び少女に向かって襲い掛かってきた。


「くっ……まだいるのか!」


 マリアが叫ぶ。


「防ぐわ!」


 リーシャが盾を構えて突進してきた獣を弾き飛ばし、隼人が素早く剣で両断する。


「こっちも押さえてる!」


 ノアが矢を放ち、迫る獣を撃退する。

 その間にマリアは少女がしっかりと何かを抱えていることに気づいた。

 

「その手に持ってるもの、何?」


 マリアが問いかけると、少女は怯えながらも答えた。


「村長さんのお薬です!これを持っていけば、魔物が寄ってこなくなるって言われて……!」


 少女の目には必死さが浮かんでいた。


「それで獣が去ると思ったのね……」


 マリアはその言葉に一瞬納得するも、目の前の状況に違和感を覚えた。

 隼人たちも話を聞き、驚きを隠せなかった。


「昨日、村長に届けた薬品か……」


 隼人が眉をひそめる。


「獣たちはこの薬品を狙ってる可能性があるようだな」


 冒険者たちを無視して少女に向かってくる獣を、ライナーが冷静に分析する。

 マリアは少女の手から慎重に薬品を受け取った。

 

「これを私たちが預かるわ。あなたが持っていると、もっと危険なことになるかもしれない」

「でも……」


 少女が心配そうに見上げるが、マリアは優しく微笑んで言った。

 

「安心して。私たちがちゃんと守るから」


 隼人たちは再び武器を構え、次の襲撃に備えた。

 この事態が単なる村の襲撃ではない可能性が見え始めていた。


 ライナーは薬品を慎重に受け取り、片手にしっかりと抱え込むと、冷静な声で指示を出した。

 

「マリア、冒険者の一部を村に戻して生存者の捜索を頼む。俺たちで獣を引きつける。ハヤト殿も村での救助をお願いします」

「了解」


 マリアはすぐさま頷き、少女を腕に抱きながら村へ向かうため後退を始める。


 ライナーを先頭に、他の衛兵と数名の冒険者が獣を迎え撃ちながら村の外周へと移動していく。

 獣たちの興味は確かに薬品へ向かい始め、ライナーたちを追うように移動を開始した。


「行くぞ!気を抜くな!」


 ライナーが声を上げると、冒険者たちが力強く応じ、獣の群れを次々と倒しながら進んでいく。


 マリアと隼人たちは村の中心部に向かいながら、生存者の痕跡を探した。

 ノアが少女に優しく話しかける。

 

「大丈夫?もう怖いことはないからね」


 少女は震えながらも頷き、マリアにしがみついている。

 その姿にリーシャが目を細めて言った。

 

「しっかり抱きついていなさい。もう少しで安全な場所に行けるから」


 村に戻った隼人たちは、破壊された家々や地面の焦げ跡を慎重に確認しながら進んでいく。

 すると、半壊した建物の影からかすかな物音が聞こえた。


「待て、何かいる!」


 隼人が制止の合図を出す。

 炎の障壁を展開したリーシャが慎重に建物の中を覗き込むと、怯えた様子の村人たちが身を寄せ合って隠れていた。


「ここに生存者が!」


 リーシャが叫ぶと、マリアもすぐに駆け寄り、少女をそっと地面に下ろしてから村人たちに手を差し伸べた。

 

「もう大丈夫です。立てますか?」


 村人たちは驚きと安堵の表情を浮かべながらマリアに手を取られ、順々に建物の外へと引き出された。


 「獣がいないのは幸いだな」


 隼人が周囲を確認しながら呟いた。

 獣たちは薬品を持ったライナーたちを追っているため、この場には現れていないようだった。


「この間に救助を進めるぞ」


 冒険者たちも声を掛け合いながら、残る生存者がいないか周囲を捜索していく。

 家々の瓦礫をどかし、地下室や壊れた家の中を確認しながら、隠れている村人たちを発見しては救助していった。


「こっちにまだいる!」


 リーシャが瓦礫の下から小さな子どもを引き出すと、隼人が駆け寄り、その子どもを安全な場所へ運ぶ。


「一人でも多く助けるぞ!」


 熟練の冒険者が声を上げると、他の冒険者たちも「任せろ!」と呼応する。


 やがて、村の広場に無事救出された村人たちが集められた。

 その数は少ないものの、皆が命を繋ぎ止めたことに感謝していた。


「マリア、救助した村人たちはこれで全員か?」


 隼人が確認する。


「一通り探したが、まだ見落としている可能性はある」


 マリアが慎重に答えた。


 「ただ、この状況でこれ以上の捜索は危険だ。避難させる準備を急ごう」


 ノアが静かに言った。

 

「ライナーさんたちが戻るまでに、少しでも遠くに避難させないと……」


 隼人たちは、一時の安堵の中でもまだ続く緊張を抱えながら、次の動きを考えていた。


 村の広場に集められた村人たちの間に、わずかな安堵の空気が漂っていた。

 その瞬間、隼人の視線が遠くに捉えたものに鋭く変わる。


「何かが……こっちに近づいてくる」


 隼人が低く言った。


 その声に、ノアやリーシャ、マリア、冒険者たちが周囲を見回す。

 しかし、彼らには何も見えないようだった。


「え?何が?」


 ノアが困惑した表情で尋ねる。


「そっちだ」


 隼人が指差した先には、確かに何かがゆっくりと歩いてくる姿が見える。

 ただし、それを確認できているのは隼人と隼人の後ろに隠れたナノちゃんだけだった。

 

 その姿は女性のようであった。

 長い髪が揺れ、薄暗い雰囲気の中でもその佇まいにはどこか神秘的で恐ろしさすら感じさせるものがあった。

 だが、一緒に来た冒険者たちや衛兵たちには見えていないらしく、困惑した表情を浮かべている。


「ハヤト、何が見えてるの?」


 リーシャが鋭い声で尋ねる。


「人が近づいてきている」


 隼人は剣を構えながら答えた。


「誰もいないわよ」


 ノアが疑問を口にした。


「見えないのか?」


 隼人の質問に、全員が首を振る。


 そのやり取りの間にも女性はゆっくりと距離を縮めてくる。

 その異様な光景にナノちゃんが隼人の背中に隠れ、ひょこっと顔を出した。


「ナノちゃん、どうした?」


 隼人が問いかける。


「えっとね……なんだか嫌な予感がするの……」


 ナノちゃんの声がか細く震える。

 女性がある程度の距離に近づいたところで、隼人が鋭く命令を飛ばした。


「止まれ!それ以上近づくな!」


 すると女性は足を止め、不敵な笑みを浮かべた。

 その目が隼人を見つめる。

 

「あら……あなたも私が見えるのね」


 その声は柔らかく、それでいてどこか不気味だった。


 隼人が構えをさらに強めた瞬間、女性の視線が隼人の背後に向いた。

 そして、その視線の先にいるナノちゃんを見つめると、さらに笑みを深める。


「あら……久しぶりね」


 女性が親しげに言葉を紡いだ。

 ナノちゃんはその声にぴくりと反応し、隼人の背中にさらにしがみついた。


「知り合いなのか?」


 隼人がナノちゃんに問いかける。


「えっと……多分……でも、嫌な感じがするの」


 ナノちゃんが小声で答える。


「嫌な感じ?」


 隼人の眉が一層険しくなる。

 その不気味な空気にノアとリーシャもようやく異常を察知し、周囲に目を光らせた。

 しかし、彼女たちには女性の姿はまだ見えていない。


「ハヤト、一体何が来てるの?」


 ノアが不安げに声を上げた。


「説明する余裕はない。とにかく村人の避難の準備をしろ!」


 隼人が鋭く指示を出す。


 女性は微笑を浮かべたまま、一歩、また一歩と距離を詰めてくる。

 その動きは決して急ではないが、その場の緊張感をじわじわと高めていった。

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