怪しげな呪術屋の運送依頼
翌朝、隼人たちは王都の冒険者ギルドへと向かった。
ギルドの外には行き交う冒険者たちが見られ、賑わいと喧騒が溢れていた。
ナノちゃんは隼人の隣で元気よく歩きながら、キョロキョロと周囲を見回していた。
「ここが冒険者ギルドってところ? なんだか楽しそうだね!」
「まあ、活気があるのはいいことだけど……ナノちゃん、あまり騒がないようにな」
隼人が軽く注意を促すと、ナノちゃんは「はーい!」と返事をした。
ギルドに入ると、隼人は受付に向かい、冒険者としての登録を進めることにした。
ギルドの受付嬢は快活そうな女性で、隼人に対して手際よく説明を行っていた。
「それでは、登録手続きを進めますね。まずはこちらの書類に基本情報を記入してください」
隼人は指示通りに情報を書き込んでいく。
ノアとリーシャはその間、ナノちゃんを連れて掲示板へと向かい、依頼内容を確認することにした。
掲示板には、大小さまざまな依頼が貼られており、ノアとリーシャはどれにするか悩んでいた。
ナノちゃんは掲示板に顔を近づけて覗き込みながら、興味津々に質問を繰り返している。
「ねえねえ、これは何の依頼? これも面白そうだね!」
リーシャは苦笑いを浮かべながら答えた。
「ナノちゃん、少し落ち着いて。ここには私たちが受けられる範囲の依頼を探しに来てるの」
「そっかー。じゃあ、いいのを見つけてね!」
ナノちゃんは満面の笑みで応援した。
ノアが指差した依頼書を手に取り、リーシャに見せる。
「この『荷物の運送』っていうのはどう? 近隣の村へ呪術屋の荷物を運ぶだけみたい」
リーシャは依頼内容を確認して頷いた。
「村への運送か……距離も近いし、荷物もそこまで大きくないみたいだから馬車も不要って書いてある。これなら負担も少なそうだし、ちょうどいいかも」
その時、登録を終えた隼人がノアとリーシャの元にやってきた。
「登録が終わったぞ。そっちはどうだ?」
「ちょうど良さそうな依頼を見つけたところだよ」
リーシャがそう言って掲示板から外した依頼票を隼人に見せる。
隼人は依頼票を手に取り、ざっと目を通した。
「『近隣村へ呪術屋からの荷物運送依頼』か。確かに近場だし、無理はなさそうだな」
「そうでしょ?これに決めてもいい?」
リーシャが尋ねると、隼人は軽く頷いた。
「ああ、俺も異論はない。まずはこれを受けてみよう」
三人は依頼を受ける準備を整え、再び受付へと向かった。
ナノちゃんは相変わらず楽しそうに隼人たちに付き従い、衛兵のライナーとマリアも遠巻きに見守っていた。
冒険者ギルドで依頼を正式に受けた隼人たちは、受付嬢から教えてもらった呪術屋の場所に向かうことにした。
目的地は王都内の裏路地にある店だという。
王都の表通りから徐々に人影が少なくなり、狭く薄暗い路地へと入っていく。
レンガ造りの壁にはひび割れが走り、昼間だというのに陽の光がほとんど届かない場所もあった。
「なんだか薄気味悪いわね」
リーシャが辺りを見回しながら呟く。
「確かに……ここに呪術屋があるなんて、雰囲気が合いすぎて怖いくらい」
ノアも不安げに付け加える。
ナノちゃんはというと、周囲をキョロキョロと見回しながら楽しげに歩いている。
「なんだか探検みたいでワクワクするね!」
「呑気なものだな……」
隼人が苦笑しながら言ったその時、目の前に目的の呪術屋が現れた。
呪術屋の入り口は、古びた木の扉と小さな窓が特徴的だった。
窓には不気味な模様が描かれており、中を覗こうとすると何やら黒い布で遮られていて何も見えない。
「まさに怪しい雰囲気だな」
隼人が呟くと、リーシャが慎重に言葉を返した。
「怪しいなんてものじゃないわよ。これ、本当に営業してるの?」
「まあ、依頼を受けた以上、入ってみるしかないだろう」
隼人は一歩前に出て扉を押し開けた。
中に入ると、独特な香りが鼻をつき、薄暗い照明の下で数多くの魔道具らしきものが並べられていた。
壁には怪しげな仮面や、何の動物かわからない骨が飾られ、棚には古びた巻物や液体が詰められた小瓶がぎっしりと並んでいる。
「なんだこれ……」
隼人は眉をひそめながら辺りを見回した。
「全部、何かの呪術に使う道具なんだろうけど……わからないものばかりね」
ノアも困惑した表情で呟く。
ナノちゃんは興味津々で棚の小瓶を覗き込んでいたが、隼人に軽く手を引かれて止められた。
突然、店の奥からしゃがれた声が聞こえた。
「いらっしゃい……」
その声に隼人たちは一瞬驚き、声の方を振り向く。
そこには、背中を丸めた老婆が立っていた。
「気配を感じなかった……」
隼人が警戒心を隠せずに呟く。
老婆は隼人たちを値踏みするようにじろりと見てから、口元を歪ませた。
「なんだい、依頼の冒険者かい?」
隼人は気を取り直して答えた。
「はい。冒険者ギルドからの依頼を受けてきました」
「だったら早くそう言いなよ」
老婆は苛立たしげにそう言うと、店の奥へと消えた。
しばらくして、老婆は小さな木箱を抱えて戻ってきた。
「これが頼んだ荷物だよ。持って行きな」
老婆は木箱を差し出す。
隼人は受け取りながら、念のため尋ねた。
「中身は何ですか?」
老婆は鼻で笑いながら答えた。
「そんなの気にしなくていいさ。ただ、大事に扱うんだよ。これはそこそこ壊れやすい魔道具だからね」
隼人はさらに質問を重ねようとしたが、老婆は聞く耳を持たず、話を終わらせるように手を振った。
「ひひひ、壊れたら困るのはあんたたちだからねえ……」
その言葉に隼人は少し眉をひそめながらも、仕方なく木箱をかばんにしまった。
呪術屋を後にしようと扉に手をかけたその時、老婆が後ろで小さく笑う声が聞こえた。
「ひひひ……お気をつけてね」
その不気味な笑い声に、ノアとリーシャは背筋を震わせた。
「なんなの、この店……」
ノアが呟く。
「わからないけど、気味が悪いわね」
リーシャも同調する。
隼人は振り返ることなく、ただ呪術屋を後にした。
隼人たちは荷物を受け取ったので、王都を出発した。
道中は快晴で、広がる青空の下、緑の平原が一面に広がっていた。
まばらに点在する木々が、涼しげな木陰を作っている。
「天気が良くて気持ちいいね!」
ナノちゃんが小さなスキップをしながら隼人たちの横を歩いていた。
「まあ、確かに悪くない道だな」
隼人はナノちゃんの言葉に同意しながら、周囲に目を配る。
「でも油断は禁物よ。こういう平和な道でも、モンスターが出る可能性はあるから」
リーシャが慎重な口調で付け加えると、ノアも頷いた。
進んでいる途中、道脇の草むらが不自然に揺れた。
隼人は立ち止まり、全員に警戒するよう手を挙げた。
「来るぞ」
隼人の言葉に合わせて、草むらから狼型のモンスターが数匹飛び出してきた。
「狼ね。いいわ、さっさと片付けましょ!」
リーシャが篭手をはめた拳を構え、盾を片手に前に出た。
ノアは杖を軽く振り、先端から魔力の矢を放った。
青白い光が空を裂き、一匹の狼を正確に撃ち抜く。
「はい、一匹!」
ノアが少し自慢げに笑みを浮かべる。
一方、リーシャは篭手を装備した拳を大きく振り、魔力を込めた力強い一撃で狼を吹き飛ばした。
その瞬間、もう一匹の狼が彼女に向かって突進してきたが、盾が炎の障壁を展開し、狼を寄せ付けない。
「ふん、これくらいじゃ通さないわよ!」
リーシャは勝ち誇った笑みを浮かべた。
隼人と衛兵のライナー、マリアもそれぞれ武器を構えて応戦態勢に入る。
隼人はカイエン家から借りた剣を引き抜き、ライナーは標準的な長剣、マリアは軽やかな短剣を手にしていた。
「ナノちゃん、君は下がってろ」
隼人が言うと、ナノちゃんは元気よく手を挙げて答えた。
「はーい!応援は任せて!」
隼人たちは連携を取りながら、狼型モンスターを次々と倒していく。
リーシャの重い一撃でモンスターを吹き飛ばし、ノアの魔力の矢が正確に急所を射抜く。
ライナーとマリアもそれぞれの動きで隼人たちを補佐し、戦闘はスムーズに進んだ。
隼人もシステムの補助で動きは洗練されており、短時間で敵を全滅させることができた。
「よーし、これで全部ね!」
リーシャが勝利の宣言をする。
ナノちゃんが拍手をしながら跳ね回った。
「みんな強いね!すごいすごい!」
「お前がその気になれば、全部一瞬で片付けられるんだろうが……」
隼人は苦笑いを浮かべたが、ナノちゃんの無邪気な笑顔に少し救われた気がした。
日がまだ高く昇る前に、隼人たちは目的地である近隣の村に到着した。
村は木造の小さな家々が並び、牧草地や菜園が広がる素朴な光景が広がっていた。
子供たちが楽しそうに駆け回り、大人たちは作業の手を止めて隼人たちをじっと見つめていた。
「なんか、のどかでいい場所ね」
リーシャが微笑みながら周囲を見回す。
「こういう場所に来るのは悪くないな」
隼人も同意しつつ、村人に声をかけた。
「すみません、この村の村長さんの家を教えていただけますか?」
声をかけられた初老の男性が指を指して答える。
「村長の家なら、あそこだ。あの大きめの家がそうだよ」
「ありがとうございます」
隼人たちは村人に礼を言い、村長の家に向かう。
村長宅は村の中でも比較的大きな造りの家だった。
外には小さな庭があり、家の前にはベンチが置かれている。
隼人たちは扉をノックし、中に声をかけた。
「冒険者ギルドから来た者です。荷物をお届けに参りました」
扉の向こうから落ち着いた声が返ってくる。
「おお、それはご苦労さま。どうぞ、中に入ってください」
隼人たちは村長宅の扉を開け、一歩足を踏み入れた。
素朴ながらも整った内装が目に入り、村長の人柄が伝わってくるようだった。
依頼主である村長との対面に、隼人たちは一つの区切りを迎えようとしていた。




