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新たな日常の始まり

 隼人は、王城での拘束を解かれた後、一時的に借りている王都内の家へ戻っていた。

 一応、監視役として衛兵が二人ついていた。

 居間の向かい側の一部屋を彼らに貸しており、彼らはそこで寝泊まりしていた。


 衛兵の一人は真面目一辺倒な下士官、名前はライナー。

 硬い表情と姿勢の良さが特徴的で、隼人に対しても必要以上の接触を避けつつ、職務を全うしている。


 もう一人は、軽い性格で、いつも気楽そうな笑みを浮かべている女性衛兵、名前はマリア。

 ライナーとは対照的で、隼人にもノアやリーシャにも気軽に話しかけてくる。


 居間の机には隼人、ノア、リーシャ、ライナー、マリア、そして隼人の隣に座っている幼女の姿があった。

 全員が集まり、居間にはどこか異様な雰囲気が漂っていた。


 隼人は深呼吸して言葉を整えた後、話し始めた。

 

「ノア、リーシャ。城で別れてからのことを話しておく。いろいろあったから、共有しておきたい」


 ノアとリーシャは真剣な表情で頷いた。


「まず、一つ伝えておかなきゃいけないことがある。俺が……機械であることが、城の一部の人間にバレた」


 その言葉に、ノアとリーシャはわずかに眉をひそめたが、驚きというよりも、むしろ納得した表情を見せた。


 リーシャが腕を組みながら言った。

 

「まあ、そりゃそうだよね。だって、あんた生身で飛んだり、左腕が剣に変形したりしてたし」


 ノアも軽く頷きながら続けた。

 

「確かに、普通の人間じゃ無理な動きだもんね」


 隼人は苦笑いを浮かべながら肩をすくめた。

 

「そうだな。城の人間にバレたのも、その時の行動を考えれば仕方ないって話だ」


 隼人は次に、王座の間で起きた出来事について語った。

 

「それから、俺たちが倒した首領格のイノシシ、その魔石が今回の原因だったらしい。あの魔石が暴走して、警備兵やロボットを操り、俺を仲間にしようとしていたらしい」


「仲間に……?」


 リーシャが眉をひそめる。


「そうだ。問題は、その魔石がただの魔石じゃなかったことだ」


 隼人は横に座るナノちゃんを軽く指しながら続けた。

 

「こいつだ。こいつがその魔石の正体。『ナノちゃん』だ」


 ノアとリーシャの目が一斉に見開かれる。


「えっ、この子が魔石なの!?」


 ノアが驚きの声を上げる。


「魔石っていうから、てっきりただの物だと思ってたけど……こんなに普通に喋れるなんて」


 リーシャも信じられないといった様子でナノちゃんを見つめる。


 ナノちゃんはニコニコと微笑みながら、元気よく手を挙げた。

 

「そうなの!でもね、今は悪いことしないよ。いい子だから!」


 その無邪気な言葉に、ノアとリーシャは呆然とした表情を浮かべる。


 「正直、この子の扱いは俺にも手に余る部分がある」


 隼人はそう言いながらナノちゃんを軽く指差した。

 すると、監視役のライナーが真面目な顔で口を開いた。

 

「我々の監視対象も、ハヤト殿よりむしろ彼女の方だ。魔石の潜在的な危険性を考えれば、当然の対応だろう」


「でもでも、私はもう暴走しないもん!」


 ナノちゃんがぷくっと頬を膨らませて抗議する。

 その様子を見て、マリアが軽い口調で笑った。

 

「まあまあ、ナノちゃんの言うことを信じてあげてもいいんじゃない?少なくとも今のところ大人しいし、悪さしてる感じもないしね」

「マリア、監視対象に過度の親近感を持つべきではない」


 ライナーが厳しい表情で釘を刺した。


「はーい、真面目なライナーさんの言う通りにしますよっと」


 マリアは軽く手を挙げて適当に返事をしたが、その表情には相変わらず余裕の笑みが浮かんでいた。


 ナノちゃんが魔石だと聞いたリーシャは、好奇心を抑えきれない様子で椅子から立ち上がり、ナノちゃんに向かって歩み寄った。


「ねえ、君は魔石なんだよね?」


 ナノちゃんがニコッと微笑みながら元気よく返事をする。

 

「そうだよー!私、ナノちゃん!よろしくね!」


 リーシャはその無邪気な笑顔に一瞬目を細めた後、興味津々な表情で両手を伸ばし、ナノちゃんを抱き上げた。


「ほーら、こんなに小さいのに魔石? しかも動いてしゃべるなんて……不思議すぎる!」


 そのまま撫で回したり、ほっぺをぷにぷにと押したりして、ナノちゃんを調べ始める。


「もちもちしてる……これが魔石? いや、どう見てもただの可愛い子供なんだけど」


「くすぐったいよー!」


 ナノちゃんが笑いながら抗議するも、リーシャは全く手を止める気配がない。


 その様子を眺めながら、ノアが隼人に問いかけた。

 

「それにしても、どうしてナノちゃんがここにいるの?」


 隼人は少し肩をすくめながら答えた。

 

「俺の拘束が解ける頃に、レオンハルト王子呼び出しを受けたんだ」


「王子様が?」


 ノアが驚いた顔を見せる。


「そうだ。話があるって言われて聞いたんだが……要するに、ナノちゃんが『俺に会いたい』って騒いでいたらしい」


 ノアとリーシャは同時に目を見開き、ナノちゃんを見つめた。

 

「え、そんな理由で?」


 リーシャが尋ねる。


「そうらしい。だが、話はそれだけじゃなかった」


 隼人は軽く息をつき、言葉を続けた。

 

「ナノちゃんは警備兵やロボットを操ったり、王座の間を破壊したりしたことで、処分されかけてたんだ。だが、技術や情報の提供をして国に貢献したことで、機能制限と監視付きの条件で延命が認められた」


「でも、それでどうして隼人がナノちゃんを預かることになったの?」


 ノアがさらに尋ねる。

 隼人は少し苦笑いを浮かべながら答えた。

 

「ナノが暴れたせいで王城の至る所がそこそこ壊れてるんだ。修理作業が必要で、ナノをずっと王城内に置いておく余裕がないらしい。それで、数日間だけ俺が預かることになった」


 リーシャが撫でていた手を止め、ナノちゃんを抱き上げながら不思議そうに言った。

 

「でも、こんな機密情報の塊みたいな子を隼人が預かるって、大丈夫なの?」


 隼人は軽く肩をすくめた。

 

「俺もそう思って確認したんだが……まあ、結論はこうだ。『一度暴走したナノを倒したハヤト殿なら、暴走しても対処できるだろう』ってさ」


「ええっ!?そんな理由で?」


 リーシャが目を丸くする。


「俺も驚いたよ。でも、王との話し合いでもその結論が出てるらしい。数日間なら問題ない、って」


 ナノちゃんが話に割り込むように、明るい声で言った。

 

「ハヤトと一緒なら安心だよ!それに私、もう暴走なんてしないって約束するもん!」


 その無邪気な一言に、ノアとリーシャは微妙な表情を浮かべる。


「いや、ナノちゃんがそう言ってもね……」


 リーシャが苦笑いを浮かべながら答えた。


「でもまあ、預かる以上は注意するしかないわね」


 ノアが静かに頷いた。


 隼人はナノちゃんを見ながら小さく息をつき、複雑な表情を浮かべた。

 居間の空気が少し和らいだ頃、隼人が改めて口を開いた。


「とにかく、今の状況を踏まえて、俺たちはしばらく王都内、もしくは近郊でしか動けない。ナノちゃんがここにいる以上、あまり遠出するのは難しい」


 ノアとリーシャは納得した様子で頷いた。


「まあ、この子がいるといろいろ目立ちそうだしね」


 リーシャがナノちゃんを見ながら微笑んだ。


「そういうことだ。とりあえず、この制限の範囲内でできることを考えていこう」


 隼人は話題を切り替えるように、ノアとリーシャに目を向けた。

 

「ところで、俺が城であれこれやってる間、二人はどうしてたんだ?」


 ノアは少し得意げに笑いながら答えた。

 

「私たち、冒険者として活動してたの。王都の冒険者ギルドに登録して、近郊の魔物退治とか王都内の依頼をいくつか片付けてたよ」


「魔物退治もやってたんだな」


 隼人が少し感心した様子で頷くと、リーシャが肩をすくめながら続けた。


「まあ、退治って言っても、近郊に出る雑魚魔物相手だからね」

「でも、結構忙しかったんだから。魔物退治であっちこっちに呼ばれて走り回ってたよ」


 隼人は二人の話を聞きながら、静かに頷いた。

 

「なるほどな。明日からは俺もその活動に参加させてもらうよ」


「本当に?」


 リーシャが嬉しそうに顔を輝かせる。


「まあ、力は貸すさ。ナノちゃんのこともあるから、大規模な仕事は難しいが」


 ナノちゃんが隼人の隣で元気よく手を挙げた。

 

「私も一緒に行くよ!手伝うことがあったらなんでも言ってね!」


 その無邪気な言葉に、ノアとリーシャは少し苦笑いを浮かべた。


 そこに、監視役のライナーが静かに口を挟んだ。

 

「我々衛兵も同行します。ハヤト殿と魔石の安全を確保するためです」

「うわ、それ本気?」


 リーシャが眉を上げる。


「当然です」


 ライナーは真面目な表情を崩さない。

 一方、マリアは軽い口調で笑いながら言った。

 

「まあまあ、私たちがついていれば、冒険もきっと楽しいわよ。特に私みたいなエリートがね」


「どこがエリートだよ……」


 ライナーが少し呆れた顔で返すが、マリアは気にする様子もなく笑い続けた。


 隼人は小さく息をつきながら全員を見回した。

 

「じゃあ、明日からは俺も含めてみんなで活動していこう。ナノちゃんも、余計なトラブルを起こさないように頼むぞ」


「はーい!」


 ナノちゃんが元気よく返事をする。

 その無邪気な笑顔に、隼人たちは少しだけ心が和らぐのを感じた。


 新たな日常が、明日から始まろうとしていた。

 王都の中での新たな試練と、ナノちゃんを中心とした新たな問題。

 隼人たちはこれからどんな道を歩んでいくのか、まだ誰にもわからないまま、夜が静かに更けていった。

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