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フロリア、転送装置の謎を探る

 フロリアは神殿の奥に鎮座する巨大な円形のオブジェクト、転送装置を睨むように見つめていた。

 その存在感は圧倒的でありながら、DSUのセンサーには何の異常も検出されていない。

 彼女は通信を起動し、ルクシアに状況を伝えた。


「ルクシア、この装置、本当にスキャンに何も引っかからないの?」


 ルクシアの冷静な声が返ってきた。

 

「改めてスキャンを実施しましたが、依然として異常は検出されません。目の前の転送装置も、センサーに一切反応していない状態です」


 フロリアは目を細めながら装置を観察した。


「それって普通のことじゃないわよね?」


「おっしゃる通りです。過去に確認された同様の装置と比較すると、より高度な技術が使われている可能性があります。この装置は、我々のスキャン技術を無効化するよう最適化されているのかもしれません」


 フロリアはDSUの分析機能を起動し、転送装置の詳細を確認するためのプロセスを開始した。

 彼女の視界には装置内部の構造が断片的に投影されていく。

 やがて、解析結果が表示され、ルクシアの声が通信越しに響いた。


「フロリア、装置内に『恒星防衛軍』の技術が一部使用されていることを確認しました」


「恒星防衛軍の技術……どういうこと?」


 フロリアは驚きの声を上げた。


「これは、過去に侵略された星々の技術を吸収し、脅威側がその技術を最適化して自らのものにしている可能性を示唆しています。そのため、我々のスキャン技術が効果を発揮しないのでしょう」


 フロリアは装置を見つめながら、通信を続けた。

 

「侵略された側の技術を取り込んで、自分たちの技術にしてるってわけね……。嫌な話だわ」


「ただし、恒星防衛軍の技術が使われているということは、逆に我々にも装置にアクセスできる可能性があるということです」


 その言葉に、フロリアの表情が引き締まった。

 

「アクセスできる……。ルクシア、サポートを頼むわ」


「承知しました。DSUの端末を装置にリンクさせてください。サポートを開始します」


 フロリアはDSUのリンク機能を起動し、転送装置の外装に接続した。

 装置に刻まれたシンボルの間から微弱な光が走り、内部データへのアクセスが開始された。


「……何か動きがある」


 フロリアがそう呟くと、ルクシアの声が通信越しに響いた。

 

「現在、装置のログデータを解析中です。少々お待ちください」


 フロリアの視界に、次々と情報が投影される。

 古代の文字や未知のコードが連なり、それをルクシアのサポートシステムがリアルタイムで翻訳していった。


「完了しました」


 ルクシアが報告する。


「装置の使用履歴が確認されました」


 フロリアの眉が動く。


「どんな履歴が残っていたの?」


「つい最近、2回の転送が行われた形跡があります。それぞれのタイミングは非常に近く、どちらもごく短時間の間に行われたものです」


 フロリアは視線を鋭くしながら、装置の外装に手を触れた。

 

「それって、何を転送したの?」


「残念ながら、転送された内容についての具体的なデータは破損しているか、消去されています。ただし、エネルギー反応から推測するに、人程度の物体、あるいは生物である可能性があります」


 その報告に、フロリアの表情が一層厳しくなった。


「誰が使ったかもわからない……けど、何かが動いているのは確かね」


 フロリアは転送装置の使用履歴についてのルクシアの解析結果に耳を傾けていた。

 装置の無機質なフォルムが彼女の視界の隅で静かに佇んでいる。


「フロリア、追加の情報が確認されました」


 ルクシアの冷静な声が通信越しに響いた。


「教えて」


「一回目の転送時に使用されたエネルギー量と質量を解析した結果、以前ノア様と遭遇した際に確認された“闇の存在”と同程度であることが判明しました。したがって、最初の転送で送り込まれたのは、その“闇の存在”である可能性が非常に高いと推測されます」


 その言葉にフロリアは表情を引き締めた。


 「あの厄介なやつね……。で、二回目は?」


 ルクシアが一瞬間を置いてから答える。

 

「二回目の転送では、一回目よりもさらに高いエネルギー量と質量が検出されました。ただし、これに該当する既存のデータは見当たらず、現在のところ詳細は不明です。しかし、過去に相対したことのない存在であると推測されます」


 フロリアは眉をひそめた。


「相対したことがない……それで、転送が行われたのはいつなの?」


「こちらの解析によると、転送装置の使用タイミングはほんの数時間前です」


 その言葉を聞き、フロリアは瞬時に警戒態勢を取った。

 

「つまり、今この場所に敵がいる可能性があるってことね」


「その可能性は否定できません。周囲の状況を継続的にスキャンしながら、警戒を強化してください」


 フロリアは強化ブレードの柄に手を添え、静かに足を踏み出した。


 付近に敵がいる可能性が出てきたため、転送装置の確認から周囲の探索に切り替えたフロリアは転送装置の周辺を離れ、さらに神殿の奥を探索することにした。

 緊張感を保ちながら通路を進む中、周囲は次第に広がりを見せ始めた。


 やがて、彼女は目の前に開けた空間を見つけた。


「……広場?」


 そこは、これまで通ってきた狭い通路とはまるで違う、広々とした空間だった。

 天井は非常に高く、地下にもかかわらず、どこからか光が差し込んでいる。

 淡い緑の光が広場全体を照らし、その明かりはまるで自然の中にいるかのような錯覚を与えていた。


「地下なのに、これだけの光源があるなんて……」


 フロリアは足元に視線を向けた。

 そこには小さな植物が生い茂っており、苔や草花が地面を覆っていた。

 それらは明らかに自然に育ったもののように見えるが、この地下空間が人工的なものである以上、不自然さを拭いきれない。


 さらに奥を見ると、広場の中央に何かがそびえ立っているのが見えた。


「……あれは……木?」


 遠目に見ても、それは尋常ではない大きさの木だった。

 幹は広場の中央で堂々と立ち、太い枝が周囲に影を落としている。

 その木にはいくつもの光る葉が生い茂り、まるで生命の源であるかのような威厳を放っていた。


 フロリアは慎重に足を進めながら、ルクシアに通信を送った。

 

「ルクシア、この広場にある木、何か分かる?」

「データを受信しました。解析を開始します。周囲の安全を確認しながらお待ちください」


 フロリアは光る葉の輝きに目を奪われながらも、周囲の警戒を怠らなかった。

 何かが潜んでいる気配はないが、広場全体に漂う異様な空気が彼女の直感を刺激していた。


「この木は一体……」


 フロリアが広場の中央にある大きな木へと近づこうとしたその瞬間、DSUの視界が突如歪んだ。


「……何?」


 歪みは次第に広がり、視界全体に砂嵐のようなノイズが発生した。

 微かな耳鳴りとともに、DSUのセンサーから警告が上がる。


 【ステータス】:視覚フィードに異常発生。ノイズの原因不明


 フロリアは足を止め、素早く周囲を確認した。

 だが、ノイズが消えた瞬間、彼女の目に映る光景は先ほどとは一変していた。


 木の根元、そこには何かがもたれかかっていたのだ。


「……さっきまで、何もいなかったはずなのに」


 フロリアは緊張を覚え、手にしていた強化ブレードを構えたまま、DSUを通じてルクシアに通信を送った。


「ルクシア、木に何かがいる。これが見える?」


 ルクシアの冷静な声が返ってきた。

 

「申し訳ありませんが、私のスキャンデータには何も映っていません。フロリアのDSUの視覚デバイスを通しても確認できないようです」


 フロリアは歯を噛み締めた。

 

「目の前には確かにいるのよ。それが……何かわからないけど」


 警戒をしながら、フロリアはゆっくりと足を踏み出した。

 目の前の木にもたれかかる「何か」は、輪郭がぼんやりとしており、はっきりとした姿を捉えることができない。


 しかし、彼女が数歩近づくと、その「何か」が動いた。


「……っ!」


 警戒をさらに強めたフロリアに対し、それは低く響くような笑い声を上げた。


「フフフフ……。」


 その声はどこか楽しげで、しかし不気味でもあった。

 音が響いた瞬間、もたれかかっていた何かの輪郭が徐々に明確になり始める。


 フロリアは立ち止まり、その変化を見逃さないよう注意を払った。

 やがて輪郭は滑らかに形を取り始め、細い手足や人間のような体が見えてきた。


 完全に姿を現したその存在は、確かに女性のように見えた。

 長い髪が揺れ、しなやかな体つきをしているが、その全身にはどこか現実感のない奇妙な雰囲気が漂っていた。


 その女性は、まるで面白いものを見つけた子供のように、フロリアに向かって口元に手を当てながら笑みを浮かべた。


「お前は……何者だ」


 フロリアが強い口調で問いかけた。


 その女性は、楽しげに頭をかしげながら答えた。

 

「あら、やっぱり私が見えるの?」


 その言葉に、フロリアはさらに警戒を強めた。


「どういうことだ?」


 女性は歩み寄ることもせず、木にもたれかかったまま、じっとフロリアを見つめている。

 その瞳には底知れぬ知性と不気味な光が宿っていた。


「ねえ、あなた。ここで何をしているの?」


 女性が柔らかな声で尋ねる。


 フロリアは強化ブレードを構え直しながら、一歩も気を緩めなかった。

 その存在が何を意図しているのか、彼女にはまだ全く理解できていなかった。

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