フロリア、古代の神殿を探索する
王都から離れた山間部。
巨大な移動要塞「バステオン・アーク」がその静寂の中で静かに佇んでいた。
隼人たちを王都付近に送り届けた後、ルクシアとフロリアは隼人たちが話していた洞窟型のダンジョンへ向かっていた。
目的は、未知の科学技術を探るためだ。
「ルクシア、周辺のスキャン結果はどう?」
フロリアが尋ねた。
ルクシアは冷静な声で返答する。
「異常なし。魔力反応も敵性生物も検出されておりません。少なくとも、地上の範囲では何も異常は見当たりません」
フロリアはそれを聞いて小さく息を吐いたが、表情は引き締まったままだった。
「洞窟の内部に入らないと何もわからないか」
ルクシアが静かに頷く。
「そうですね。地上のスキャンだけでは限界がある為洞窟内部の構造や潜在的な脅威について調査する必要があります」
フロリアは椅子から立ち上がり、武器庫の装備ラックへと移動した。
その目は迷いなく、装備を選定していた。
彼女が手にしたのは「デプスストライクユニット(Depth Strike Unit / DSU)」と呼ばれる特殊装備。
洞窟や地下深部での戦闘を想定して設計された一式だ。
ラックから取り外された装備が淡い光を放ちながらフロリアの体に自動で装着されていく。
DSUは耐久性の高い軽量アーマーを基盤にしており、内蔵されたセンサーや地形分析モジュール、そして暗視・熱感知機能を備えている。
また、近接戦闘用の強化ブレードと狭い空間での応戦を想定した小型高出力ライフルも含まれていた。
ルクシアのホログラムが武器庫に現れ、彼女を確認するように一瞥する。
「準備は完了しましたか?」
フロリアは微かに笑みを浮かべながら頷いた。
「もちろん。これで洞窟内部でも問題なく動けるはず」
バステオン・アークの外に出るためのハッチがゆっくりと開いた。
強固な装甲扉が持ち上がり、外の風景がフロリアの目に映る。
「周辺には誰もいないことを確認済みです」
ルクシアが報告する。
「了解。私が戻るまで、ここで待機していて」
フロリアは冷静に指示を受け入れながら、最後にDSUの動作確認を行った。
外部環境に対応するためのセンサーが作動し、フロリアの視界に周囲の情報が投影される。
風速や気温、そして微弱な振動データがリアルタイムで更新され、彼女はそれを一瞥してから小さく頷いた。
「行ってくるわ」
フロリアは一歩踏み出し、バステオン・アークから飛び降りる。
空中ではハッチが閉じられ、風切り音だけが響いた。
パラシュートも使用せず、静かに着地したフロリアは周囲を確認し、洞窟へと近づいていく。
目の前に広がる洞窟の入り口は、黒々とした闇が口を開けているように見えた。
洞窟周辺には草木がまばらに茂っており、不自然なほど静かだった。
フロリアは入口付近で周囲を見回し、最後に短い呼吸を整える。
「さて、どんな秘密が待っているのかしら」
彼女の言葉が静かに夜の闇に溶け込むと、フロリアは迷いなく洞窟内へと足を踏み入れた。
DSUの暗視モードが作動し、視界に洞窟の壁面や足元の地形が鮮明に映し出される。
岩壁には無数のひび割れが走り、床面には何かが削られたような跡が残っていた。
「開始するわよ」
フロリアは洞窟の奥深くへと進みながら、慎重に周囲を観察していた。
DSUのセンサーが洞窟の地形をリアルタイムで解析し、暗視モードで映し出された視界は隙のないものであった。
道中、いくつもの魔物が姿を現したが、フロリアにとっては脅威とはならなかった。
「敵か……」
そう呟くと、彼女は素早く腰に装備された高出力ライフルを抜き、正確に頭部を撃ち抜いた。
次々と現れるゴブリンやコボルトたちもまた、フロリアの冷静な対処の前には歯が立たず、その場に崩れ落ちていった。
彼女は無駄な動きを一切見せることなく、規則的に敵を排除しながら最奥へと進んでいく。
やがて洞窟の最奥部と思われる場所に到達した。
周囲は静寂に包まれており、目の前には岩壁が広がっている。
「ここが最奥……ノア様たちが話していた隠し扉があるはずだけど……」
フロリアは視線を走らせながら岩壁を注視した。
一見したところでは扉らしきものは見当たらない。
「さて、どうやって探そうか……」
彼女はDSUの機能をフル活用し始めた。
地面にわずかに残された跡を分析するため、センサーを起動。
足跡の痕跡を視覚的に投影する機能を用いて床面を調べると、三人分の足跡が一定の方向に伸びていることが確認された。
「これは……」
足跡は明らかに最近のもので、岩壁に向かって真っ直ぐ進んでいる。
フロリアはその足跡を辿りながら、これが隼人たちのものだと確信した。
「ここに隠し扉がある……間違いない」
フロリアはDSUの通信機能を起動し、バステオン・アークにいるルクシアに連絡を取った。
「ルクシア、視覚データ送るわ。この岩壁に隠し扉があるか確認してくれる?」
通信越しに、落ち着いた声が返ってくる。
「了解しました。少々お待ちください」
数秒後、フロリアの視界に赤い線で囲まれた扉らしき形状が表示された。
それは岩壁の一部に重なるように描かれており、確かに何かが偽装されていることを示していた。
「隠し扉の存在を確認しました。どうやら岩のように擬装されているようです」
「開けられそう?」
ルクシアは再び冷静に答える。
「申し訳ありませんが、現時点では開錠方法の特定には至っておりません。ただし、材質自体はそこまで高度なものではないため、破壊は可能かと。ハヤト様曰く、扉は破壊して進んだとの事でしたので」
フロリアは少し考え込む。
破壊するとなれば内部への影響も考慮しなければならない。
しかし、このままでは先に進めないのも事実だった。
「なるほど、わかったわ」
フロリアは通信を続けながら、岩壁をもう一度確認した。
ルクシアが補足するように言葉を続けた。
「戦闘準備を整えたフロリアの装備ではハヤト様の出力とは比べ物になりません。もし破壊を行う場合、音や振動による周囲への影響も考えられます。慎重に判断されるべきでしょう」
フロリアは軽く息をつき、岩壁に手を当てた。
「わかったわ。気を付ける」
ルクシアの情報通り、それほど高度な材質ではなく、破壊は可能だと判断した。
「慎重にやらないとね……」
フロリアは呟きながら、背中に装備された近接戦闘用の強化ブレードを引き抜いた。
DSUに付属するこのブレードは、鋭利かつ頑丈で、狭い空間でも力を発揮するよう設計されている。
ブレードが作動すると、わずかに赤く光を放ち始めた。
「行くわよ」
彼女は扉に狙いを定め、一気に振り下ろした。
鋭い音と共に、ブレードは扉の表面に深々と食い込んだ。
数回の攻撃で亀裂が広がり、最後の一撃で扉全体が崩れ落ちた。
「これで中に入れるわね」
フロリアはブレードを収め、DSUのセンサーで周囲を再確認する。
崩れた扉の向こう側には、先ほどの荒々しい岩肌とはまるで違う光景が広がっていた。
「……これ、完全に人工の構造物ね」
フロリアは静かに呟いた。
そこにはしっかりとしたレンガで組まれた通路が続いており、古びたレンガはわずかに苔むしていた。
かなりの年月が経過していることがうかがえるが、それでも整然と積み上げられた石材からは、人の手が加えられた痕跡が鮮明に残っていた。
「ここで何があったのかしら……」
フロリアは慎重に足を進めながら、センサーで周囲の状況を監視し続けた。
通路には隼人たちの足跡が続いており、それを追う形でさらに奥へと進む。
レンガの壁にはいくつかの装飾が施されており、苔に隠れた部分を丁寧に払うと、古代の言語や紋様らしきものが見えてきた。
しかし、今のフロリアにはその意味を解読する術はなかった。
「ルクシア、これを記録しておいて」
「承知しました。視覚データを解析データベースに保存します」
フロリアは頷き、さらに奥へと進む。
通路を抜けた先に現れたのは、それまでの狭いレンガの通路とは全く異なる空間だった。
「これは……。」
そこは広大な空間で、壁は高く、天井も驚くほど高く作られていた。
無数の柱が規則的に並び、それが空間全体に荘厳さを与えていた。
古代の神殿を思わせるその場所は、かつてここが重要な何かの中心地だったことを示しているかのようだった。
柱や壁にはさらに複雑な装飾が施され、かすかな光がどこからともなく降り注いでいる。
その光が柱に反射して、空間全体に静謐な輝きを与えていた。
「聞いてはいたけど、やっぱりただの洞窟じゃないのね……」
フロリアはその場に立ち止まり、ゆっくりと視線を巡らせた。
DSUのセンサーが空間全体をスキャンするが、今のところ特に危険な反応は検出されない。
しかし、隼人たちの情報では像や未知の巨大な円形のオブジェクトがあるという。
フロリアの警戒心を高めていた。
「……さて、何が待っているのかしら」
彼女は改めて強化ブレードを手に取り、警戒を強めながら、さらに奥を目指した。
「……何かある」
フロリアの視線の先、神殿の中央に目を引くような存在があった。
高さ数メートルに及ぶ、人型の像だ。
しかし、その顔には目も鼻もなく、つるりとした平坦な表面だけが広がっている。
まるで人間のようでありながら、人間性を剥奪されたような異様な雰囲気を漂わせていた。
「ルクシア、見える?これ」
フロリアは通信越しに、視覚データをバステオン・アークのルクシアに送った。
「はい、確認しました。ただの装飾品には見えませんね。データベースと照合を開始しますので、少々お待ちください」
ルクシアの冷静な声が返ってきた。
「了解。調査している間に、さらに奥を確認するわ」
フロリアは像を一瞥すると、警戒を怠らずにさらに神殿の奥へと進んだ。
奥へ進むにつれ、フロリアの視界にまた新たな異様な存在が現れた。
それは巨大な円形のオブジェクトで、直径はおそらく十メートル以上もあろうかという大きさだった。
周囲には細かい紋様や奇妙なシンボルが刻まれ、金属とも石ともつかない不思議な素材で作られている。
「これも……何かの装置?」
フロリアは再びルクシアに通信し、このオブジェクトの視覚データをルクシアに送信しようとした。
しかし、その直後、ルクシアからの通信が入る。
「フロリア、先ほどの人型の像についての確認が完了しました」
「で、どういうものだったの?」
フロリアが立ち止まって確認する。
「この像は、過去に『恒星防衛軍』が未知の脅威に制圧された星を奪還する際に地上で確認されたものと類似しています」
「恒星防衛軍……。つまり、あれは敵のものだったの?」
「はい。その像は脅威のシンボル的な存在だった可能性があります」
フロリアは軽く眉をひそめ、再び目の前の円形のオブジェクトに視線を戻した。
「この円形のオブジェクトも、同じ脅威のものじゃないかしら。調べてみて」
「承知しました。先ほどの像のデータを基に検索を進めます」
数秒後、ルクシアの冷静な声が再びフロリアの耳に届いた。
「円形のオブジェクトについても確認が取れました。この装置は、未知の脅威が使用していた『転送装置』です」
「転送装置……?」
フロリアはその言葉を復唱しながら、オブジェクトに歩み寄った。
「はい。この装置は敵の勢力が遠隔地から物質や生物を転送するために使用していたものです。恒星防衛軍が戦っていた際、幾度か同様の装置が確認されています」
フロリアは深く息をつき、その巨大な装置を睨むように見つめた。
「つまり、ここは彼らの拠点の一部だった可能性が高いということね」
「そのように推測されます。この装置がまだ稼働するかどうかについては、調査が必要です」
フロリアは一歩引き下がりながら、周囲の状況を再確認した。
神殿全体が、この装置を中心に構築されたように見える。
「とんでもないものを見つけちゃったわね……」
彼女は通信を切らずに、慎重にその場での行動を決めようとしていた。
この転送装置が稼働していたとなれば、未知の脅威がまだこの星に潜んでいる可能性を示唆するものであり、状況は予想以上に重大だった。




