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問われる真実

 ヴァルゴート・ナノスウォームの再構築が完了し、異形の魔石が幼女の姿へと形を変え、新技術が到来した後のセフィロト機関内。

 レオンハルト王子は、ナノちゃんに向き直った。

 その顔には冷静さを湛えながらも、深い思索の色が浮かんでいる。


「ナノ、今回の情報提供には感謝する」


 ナノちゃんはにっこりと笑顔を浮かべ、手を振りながら応じる。

 

「うんうん!どういたしまして!」


 王子は軽く息をつき、さらに続けた。

 

「昨日の暴走とこの件を踏まえ、お前の処遇については改めて判断する。今のところ、この場で待機していてもらいたい」


 その言葉に、ナノちゃんはあっけらかんとした様子で頷くと、無邪気に手を振りながら言った。

 

「わかったよー!ここでいい子にしてるね!」


 その場の空気を感じ取ったエルバートが王子に声を掛ける。

 

「王子、ハヤト様に確認する事もありますので、お連れして執務室へ向かいましょう」


 王子は短く頷き、エルバートと技術主任、隼人を伴って部屋を後にした。


「またねー!」


 ナノちゃんはその背中に向かって元気に手を振り続けていた。


 セフィロト機関を出ると、王子の表情が一層引き締まり、彼の足取りは早くなった。

 隼人もそれに続きながら、内心で思考を巡らせていた。


(俺に何を確認したいんだ?……あのナノちゃんが言った『機械』という話も含まれているのか?)


 レオンハルト王子は無言のまま王城内を進み、その後ろに技術主任と隼人、そしてエルバートが続く。

 足音だけが廊下に響く中、隼人は王子の背中を見つめながら、不安と疑念を抱えていた。


 執務室に到着すると、レオンハルト王子はそのまま椅子に腰掛け、視線を隼人に向けた。

 

「ハヤト殿、こちらに座ってくれ」


 隼人は静かに頷き、王子の指示に従って対面の椅子に腰掛けた。

 エルバートと技術主任は王子の左右に控え、緊張感が漂う室内を静かに見守っている。


 王子はしばらく黙ったまま隼人を見つめていたが、やがて口を開いた。


「今回、ナノ――あの魔石が再構築される際、お前は何か関与したのか?」


 その問いに、隼人は一瞬表情を固くした。


(やっぱり来たか……)


「……どういう意味でしょうか?」


 隼人は慎重に答えた。

 王子は答えを急がず、さらに別の話題を重ねた。

 

「ナノは、再構築後にハヤト殿が『機械』だと言った。昨日の『パラディン』の情報提供方法に関してもハヤト殿が機械であれば納得がいく」


 王子の言葉には冷静さがありながらも、真実を追及しようとする意志がはっきりと感じられた。

 隼人は視線をそらすことなく、王子を見据えたまま、しばらく黙り込んだ。


(どこまで話すべきか……)


 エルバートと技術主任もまた、隼人の反応に注目している。

 部屋の中には緊張が張り詰め、隼人の返答を待つ静寂が流れた。


 隼人はゆっくりと息を吸い込み、言葉を選びながら答えた。

 

「少し考えさせていただけますか?」


 レオンハルト王子はその言葉を受け、軽く顎を引いて頷いた。

 

「いいだろう。慎重に考え、話すべき時が来たら答えてくれ」


 その返答に隼人は目を伏せ、静かに答えた。

 

「ありがとうございます」


 王子は隼人をじっと見つめた後、再び椅子に深く腰掛けた。

 隼人が口を開くまでの時間は、それだけ重いものとなりそうだった。


 執務室に張り詰めた空気の中、隼人は静かに思考を巡らせていた。

 

(隠し通せるとは思えない……。今この場で否定したところで、いずれ王都を出入りする際のセキュリティチェックでばれるだろう。それならば……)


 隼人は深く息を吸い込み、意を決して口を開いた。


「……確かに、私は機械です」


 その言葉に部屋の空気がさらに緊張感を増す。

 エルバートが目を見開き、技術主任は興味深そうに隼人を見つめた。

 だが、レオンハルト王子は冷静な表情を崩さず、問いを重ねた。


「証明はできるか?」


 その質問に、隼人は無言で頷いた。

 ゆっくりと右腕を壁に向けて伸ばし、軽く拳を握り込む。

 すると、右腕の表面が音を立てて分解し始め、内側から精巧なライフルが姿を現した。


 金属の質感と滑らかな変形の動きに、部屋の全員が言葉を失った。


 「なっ……!」


 エルバートが真っ先に反応し、咄嗟に剣を抜いて王子の前に立ち塞がった。


「王子、下がってください!」


 彼は隼人を警戒しながら声を張り上げた。

 その目には明らかに敵意を含む疑念が浮かんでいる。


 隼人はその反応に驚き、片手を挙げて静止を示す仕草をした。

 

「待ってくれ、エルバートさん。敵意はない」


 レオンハルト王子はその場を収めるように低く、冷静な声で言葉を発した。

 

「エルバート、落ち着け」

「しかし、王子!」

「彼の行動に敵意は感じない。それに、私の前で剣を抜いたままにするな」


 その一言にエルバートはハッとし、慌てて剣を鞘に戻した。

 それでもなお、彼の視線は隼人の変形した右腕に向けられたままだった。


「……これは……!」


 技術主任が隼人の右腕をまじまじと見つめ、近づいてきた。

 その目は好奇心に満ちており、興奮すら滲んでいた。


「まさか、このような変形機構を持つ人型が存在しているとは……!セフィロト機関で発掘された技術とも違う……完全に未知の構造だ!」


 彼は身を乗り出すようにして隼人のライフルを観察し始めた。

 だが、隼人は静かに右腕を元に戻し、技術主任を少し制するように手を挙げた。


「悪いが、じっくり観察させるつもりはない」


 主任は少し残念そうな顔をしながらも頷き、隼人の意思を尊重するように後退した。

 ライフルをしまい終えた隼人は、次に口を開いた。

 

「そして……ナノちゃんの再構成の件についても話さなければなりません」


 その言葉に王子は鋭い目を隼人に向けた。

 隼人は自分のシステムが干渉した過程を簡潔に説明し始めた。

 

「ナノちゃんの再構成が進む中で、途中で障害が発生したのは見ての通りです。私のシステムはその障害を検知し、強制的にセフィロト機関のシステムにアクセスして再構成を補助しました」


「お前がセフィロト機関のシステムに干渉した?」


 王子の眉が深く寄せられる。


「はい」


 隼人は真摯な声で応じた。


「結果としてナノちゃんの再構成は成功しましたが、私が干渉したことで一部のデータが変更された可能性も否定できません」


 隼人が自分の正体を明かしたことで、執務室の空気は一層緊張感を帯びていた。

 レオンハルト王子は椅子に深く座り直し、腕を組んで思案しながら口を開いた。


「なるほど……。突如エラーが解消されて再構築が完了したのはそういうことか」


 その声には納得の色がにじんでいた。


「昨日の『パラディン』の件も腑に落ちた。あれを動かせ、情報提供できたのは、ハヤト殿がただの人間ではないからだったということだな」


 隼人はその言葉を黙って受け止めた。

 自分が関与した事実を隠すつもりもなく、王子の冷静な態度に感謝さえ覚えていた。


「だが……」


 王子はさらに言葉を続けた。


 「今回の件で、王城内の衛兵たちはお前を少なからず警戒している。もちろん私自身は、昨日の功績を考えれば敵意がないことは理解しているが、彼らの疑念が完全に晴れるまでには時間がかかるだろう」


 王子は軽く息をつき、隼人を見据えたまま指示を出した。

 

「当分の間、引き続き下級貴族の部屋で待機していてくれ。私も考える時間が必要だ」


 隼人は静かに頷いた。

 

「わかりました。指示に従います」


 エルバートが王子の指示に従い、隼人を下級貴族の部屋へ案内することになった。

 エルバートの足取りは硬く、隼人に対する警戒心が完全に解けたわけではないことが明らかだった。


 隼人達が部屋に到着すると、エルバートはドアを開きながら言った。

 

「しばらくの間、ここで過ごしていただきたい。何かあればすぐに報告するように」


 隼人は軽く頭を下げ、部屋に入る。

 その背中を見送りながらエルバートは小さく息を吐き、部屋のドアを静かに閉じた。


 執務室に残ったレオンハルト王子は椅子に座り直し、静かに瞑目した。

 隼人のもたらした技術と、ナノがもたらした技術。

 そのどちらもが常識を覆すものであり、この国、いや、世界全体に影響を与える可能性を秘めていた。


(ハヤト殿が示した技術……あの変形機構は、我々の持つどの技術体系とも違う。さらにナノがもたらした技術もまた、我々の常識を超えている)


 王子は額に手を当て、さらに思考を巡らせる。


(これが国の手に渡れば、間違いなく戦力が飛躍的に向上するだろう。しかし……扱い方を誤れば、他国との均衡が崩れ、争いを生む火種にもなり得る)


 重く深い沈黙の中で、王子はひとつの結論に達した。


(早急に、父上……王にこの件を伝える必要があるな)


 レオンハルト王子は執務室の外に待機していた文官を呼び入れた。

 文官は緊張した様子で部屋に入り、王子の前に立つ。


「王との内密な謁見を手配してほしい」


 文官は目を見開き、王子の意図を理解しようと表情をこわばらせた。

 

「承知しました。日時や場所について具体的なご希望はございますか?」

「できるだけ早く、極秘裏に行いたい。この件については一切の漏洩が許されない」

「かしこまりました」


 文官は深々と頭を下げ、その場を辞した。

 レオンハルト王子は再び椅子に深く座り、重苦しい沈黙の中で目を閉じた。


(ハヤト殿とナノ……この二つの存在がもたらす未来。それが光か、あるいは闇か……慎重に見極める必要がある)


 王子の胸中には、希望と不安が交錯していた。

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