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ヴァルゴート・ナノスウォームの新たな形

 ヴァルゴート・ナノスウォームの魔石が収められた筒状の機械が静かに唸りを上げ始めた。

 部屋全体に低い振動音が響き渡り、技術者たちはそれぞれの持ち場で操作を開始した。

 計器が明るく点灯し、スクリーンには複雑なデータが次々と表示されていく。


「再構築プロセスを開始します」


 先頭に立つ主任技術者が指示を飛ばした。

 彼の声は冷静だが、その中には緊張感が隠しきれない。


 技術者たちは一斉に動き出し、それぞれが端末を操作しながら進行状況を読み上げていく。


「エネルギー供給ライン、正常に稼働!」

「魔石の安定化プロセスに入ります!」

「魔石の分子構造、再構成準備完了!」


 その声が飛び交う中、隼人は少し離れた位置で様子を見守っていた。

 彼の視界には、システムからの情報が次々と流れ込んでくる。


――「対象:ヴァルゴート・ナノスウォームの進行状況を監視中……全システム正常稼働を確認」――


 隼人はシステムの報告を確認しながら、技術者たちの作業を冷静に観察していた。


(今のところ問題なさそうだが……)


「現在進行度20%!ナノマシンの分子配置が再構築フェーズに入ります!」

 

 若い技術者の声が響き、部屋のスクリーンには進行率を示すバーが表示された。

 それは着実に伸びていき、数値が少しずつ増加していく。

 主任技術者が再び声を張り上げる。

 

「エネルギー供給レベルを維持しろ!過負荷が発生すればシステムが破損する可能性がある!」

「了解!供給ラインは安定しています!」


 別の技術者が応じる。

 隼人のシステムも、技術者たちの動きを裏付けるようにレポートを送ってきた。


――「ナノスウォームの構造解析進行中。再構築の進捗:正常」――


(随分と高度な技術を駆使しているな……)


 隼人はその光景を見ながら、改めてこの施設が持つ技術力に感心していた。


「進行度40%!分子配置の安定化が進行中!」

 

 技術者たちの声が次々に響く中、部屋の緊張感は徐々に高まっていく。

 再構築が進むたびに、機械が放つ低い振動が強まり、魔石を覆う淡い光が徐々に変化していった。


――「エネルギー波動の異常なし。再構築は安定的に進行中」――


 隼人はシステムの報告に目を向け、内心で安堵した。

 今のところ、大きな問題は発生していない。


「順調だな」


 不意に隣から声が聞こえた。振り向くと、レオンハルト王子が冷静な表情で進捗を見つめていた。


「そうですね」


 隼人は短く答える。


 王子は魔石をじっと見つめながら、低く呟いた。

 

「だが、ここからが本番だ。この作業が最後まで安定して進む保証はない」


 隼人はその言葉に静かに頷き、再び視線を機械と魔石に戻した。

 部屋には操作音と技術者たちの声が絶え間なく響き、再構築の作業は着実に進んでいった。

 

「進行度90%!再構築フェーズ最終段階に入ります!」

 

 若い技術者の声が緊張に満ちた部屋に響き渡る。

 スクリーンに表示された進行バーはほぼ完成に近づいていた。

 筒状の機械内で光を放つ魔石は、安定した状態に見えた。


 隼人はその様子を静かに見守りながら、システムの報告に目を向ける。


――「再構築進行状況:正常。エネルギー波動の乱れなし」――


(順調に進んでいる……はずだ)


 隼人は心の中でそう呟いた。

 だが、次の瞬間、その考えは打ち消された。


 突如、魔石の淡い光が一瞬だけ強烈な輝きに変わり、機械全体が振動を始めた。

 室内の計器が警告音を発し、技術者たちは一斉に慌てた声を上げる。


「魔石が異常起動しました!」

「エネルギー波動が急上昇!制御不能です!」

「進行が停止しました!エラーコード不明!」


 部屋全体が騒然とする中、魔石は筒の中で脈動を強め、どこか意思を持っているような動きを見せた。

 そして――その輝く中心が隼人を正確に捉えた。


 隼人はその視線のようなものを感じ、思わず眉をひそめた。


(俺を……見ている?)


 再構築プロセスが完全に停止し、スクリーンには進行状況を示すバーが赤く点滅していた。

 技術者たちは次々に報告を上げるが、その内容はどれも芳しくない。


「エラーコード:未定義。プロセスが完全に停止!」

「再起動を試みますが、魔石が制御を拒否しています!」


 そのやり取りを見守っていた隼人の視界に、システムの新たなメッセージが浮かび上がる。


――「異常を検知。対象:ヴァルゴート・ナノスウォーム。強制介入を推奨」――


(強制介入……?これ以上悪化させないためには、やるしかないのか)


 隼人はシステムに即座に指示を送った。

 

(介入を実施してくれ)


――「承認を確認。強制介入を開始します」――


 隼人の視界に、新たな情報が流れ込む。

 魔石内のエネルギー波動、ナノスウォームの制御データ、システムの構造――その全てがリアルタイムで解析されていく。


――「ナノスウォーム制御中枢を特定。システムへの接続を試みます……接続成功」――


「ハヤト殿!何をしている?」


 レオンハルト王子が声をかけてきた。

 隼人は短く答えた。


「このままでは暴走する可能性が高いので、強制的に介入して制御を取り戻します」


 王子は少しの間目を見開いたが、すぐに冷静さを取り戻し頷いた。

 

「わかった。君に任せる」


 隼人の手には触れていないが、システムを通じて魔石との直接的なやり取りが続く。


――「再構築プロセスを再起動……進行度90%に復帰」――

――「ナノスウォームのエネルギー波動を抑制中……成功」――


 スクリーンに再構築の進行バーが再び動き始めた。

 技術者たちがその光景を見て驚きの声を漏らす。


「進行が再開しました!」

「何が起きた?誰が制御を取り戻した?」


 隼人は冷静さを装いながらも、システムの報告を確認し続けた。


(このまま最後まで持たせる。頼むぞ、システム)


 部屋の緊張感がさらに高まる中、魔石の再構築は最終段階へと向かっていた。

 技術者たちは計器の数値を読み上げながら、緊張した表情で最終段階の進捗を確認している。


「進行度95%!すべてのエネルギー波動は安定状態を維持!」

「100%に到達!ヴァルゴート・ナノスウォームの再構成が完了しました!」


 主任技術者が結果を確認し、大きく息を吐いた。

 

「再構築完了だ……やったぞ!」


 部屋に安堵の声が広がる中、隼人のシステムが新たなメッセージを表示した。


――「再構築が完了しました。介入中に魔石の全データを取得し、一部データの破損を確認したため、自動補正を実施し、書き換えを行いました」――


 隼人は眉をひそめ、システムに問いかけた。

 

(書き換えたデータって具体的にどんなものだ?)


――「破損部分は制御指示と自己認識に関連するデータです。動作を安定させるため、標準的な補正値を適用しました」――


(……標準的な補正値?おい、それは具体的にどう影響するんだ?)


――「現在影響を観測中です」――


 隼人がその回答に戸惑う間もなく、部屋の中央にある筒状の機械に異変が起こり始めた。

 透明な容器の中で魔石が微かに輝き、その周囲に無数のナノマシンが集まりだした。


 「何だ……あれは?」

 

 技術者の一人が思わず声を漏らす。

 ナノマシンたちは魔石を中心に次々と集結し、まるで粘土を練り上げるように形を構築し始めた。


「ナノスウォームが形を作り始めています!」

「形の制御を試みます!」


 技術者たちが端末に向かい、必死に指示を送る。

 しかし、スクリーンに表示された結果は容赦なく彼らの試みを否定した。


「形状制御が効かない!」

「他の指示は問題なく受け付けていますが……形状だけはまったく制御不能です!」


 魔石を中心に、人間の形が徐々に構築されていく。

 その動きは緻密かつ滑らかで、技術者たちがその光景を見守るしかないほどの完成度を持っていた。


「この形……」


 隼人はその成り行きを注視しながら、形が人型であることを認識した。

 そして、それは徐々に具体的な特徴を持ち始めた――小柄な体格、幼い顔立ち、そして長い髪。


 最終的にナノマシンが形作ったのは、完全に人間の幼女の姿だった。

 彼女の体は魔石の中心に集まるように生成され、白く輝く肌と大きな瞳を持つその姿は、人間と見紛うほどに精巧だった。


「まさか……これが魔石の新しい形状なのか?」


 主任技術者が呆然と呟く中、幼女は目を開けた。

 彼女は筒の中で浮かびながら、その瞳で周囲を見回し、突然にっこりと笑顔を浮かべた。


「はーい!みなさん初めまして!」


 その声は驚くほど明るく、無邪気なものだった。

 彼女は右手をピースサインの形にして顔の横に掲げる。

 

「よろしくね!」


 そのポーズと元気な挨拶に、部屋全体が一瞬静まり返る。


「……何だ、これは……」

 

 レオンハルト王子が呟く。

 その言葉は、この場にいる全員の心を代弁していた。

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