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再構築のサポート

 隼人が目を覚ましたのは、まだ外が薄暗い早朝だった。

 下級貴族用の部屋は快適そのもので、久々に深い眠りを得た感覚があった。

 隼人は身支度を整えていると、控えめなノック音が響いた。


「どうぞ」


 隼人が声をかけると、扉が開き、ミランダと近衛兵らしき男性が姿を現した。


 男性は背が高く、浅黒い肌に短い黒髪、そして冷静な眼差しを持つ人物だった。

 肩には王城の紋章が刺繍された制服を纏っており、立ち居振る舞いからも厳格な性格が伺えた。


「隼人殿、おはようございます」


 男性が低く響く声で挨拶をした。


「私はエルバート・クラウス。この度、あなたをお連れする任務を仰せつかりました」


 隼人は少しだけ目を細め、エルバートに視線を向けた。

 

「お連れする任務、というのは……?」


 エルバートは軽く首を振るようにして答えた。

 

「詳細はお話できませんが、すぐにわかります。それでは、私についてきてください」


 ミランダが一歩前に出て付け加える。

 

「ハヤト殿、私はここで待機するよう指示を受けています。どうか安心して、エルバートにお従いください」


 その言葉に隼人は軽く頷き、エルバートの後に続いて部屋を出た。


 王城の廊下は早朝の静けさに包まれていた。

 隼人がエルバートの後について歩く間、廊下には他の人影は見当たらない。

 規則正しい靴音だけが響く中、エルバートは無言のまま先を進む。


 やがて、彼は人目のない一角にある扉の前で立ち止まった。

 その扉は他のものよりも簡素で、城内にそぐわない質素な作りをしていた。


「ここです」


 エルバートが短く告げ、扉を開ける。

 中に入ると、部屋は思った以上に狭く、四方に装飾もない無機質な空間だった。


 隼人は一瞬眉をひそめた。

 

「こんなところに入る理由があるのか?」


 エルバートは扉を閉め、微かに笑みを浮かべた。

 

「ここから先は機密区域ですからね。普通の廊下や階段からは行けないんですよ」


 隼人はその言葉にわずかに肩をすくめた。

 機密区域という響きに嫌な予感を覚えつつも、言われるがまま部屋の奥へと進む。


 エルバートは部屋の奥に設置された置物――王城の紋章が彫られた金属製の装飾――を掴み、力を込めて横にずらした。

 重い音とともに装飾が動き、その下から操作盤が現れた。


「さて、少し驚くかもしれませんが……」


 エルバートが操作盤に触れ、いくつかのスイッチを押し込む。


 次の瞬間、小部屋全体が微かに振動し始めた。

 

「……エレベーターか?」


 隼人が小さく呟いた。

 エルバートは操作を続けながら、軽く振り返る。

 

「エレベーター……というのは把握しておりませんが、この王城には古代技術を利用した垂直移動装置がいくつかあります。この小部屋もその一つ。今、地下の施設へ向かっています」


 隼人はその言葉に驚きつつも、すぐに冷静を取り戻した。

(古代技術か……この世界ではこういったものが未だに機密として扱われているんだな)


 小部屋の振動はしばらく続き、やがて静かに止まった。

 エルバートはスイッチを一つ押し、ゆっくりと扉が開く。


「さあ、着きました」


 エルバートが淡々とした口調で告げる。

 隼人はその先に広がる空間を見つめながら、一歩踏み出した。

 地下施設への道が今、開かれた。


 隼人はエルバートに導かれ、動きを止めたエレベーターから外へ足を踏み出した。

 そこにはさらに長い廊下が伸びており、左右に配置された窓ガラス越しに複数の部屋が見える。

 室内では白衣を着た技術者たちが、忙しなく研究作業に取り組んでいる姿が目に入った。


 廊下には冷たい空気が漂い、どこか張り詰めたような雰囲気がある。

 エルバートは足早に進みながら、隼人に説明を始めた。


「こちらは、王国でも最も機密性の高い研究施設です」


 エルバートは淡々と語る。


 「魔法や古代技術、さらには未解明の現象に至るまで、幅広い研究が行われています。この施設、そしてここで行われている全ての内容は極秘扱いとなっており、詳細についてはお話しできません」


 隼人はガラス越しに作業を続ける技術者たちの様子を見ながら尋ねた。

 

「そんな場所に、俺みたいな人間が入っても問題ないのか?」


 エルバートは微かに笑みを浮かべ、首を振った。

 

「問題ありません。レオンハルト王子の許可が出ています。王子自らの指示でここにご案内している以上、心配される必要はありません」


 隼人は軽く眉を上げながら前を向き直し、エルバートの後についていった。

(レオンハルト王子の許可か……。これほど厳重な施設に招かれるなんて、ますます状況がただ事じゃないことを実感するな。)


 廊下の突き当たりに到着すると、エルバートが無言で手を伸ばし、厚い金属扉の端に取り付けられた操作盤を使って扉を開けた。

 低く唸る音とともに扉がスライドし、隼人は中の光景に思わず目を見張った。


 部屋の中央には、筒状の巨大な機械が鎮座していた。

 透明な容器に囲まれたその中には、異様な存在感を放つ魔石が浮かんでいる。

 それはまるで生き物のように微かに脈動し、淡い光を放っていた。


「これは……ヴァルゴート・ナノスウォームの魔石か?」


 隼人は思わず呟いた。


 部屋の中では、複数の技術者たちが慌ただしく動き回り、計器や端末に向かって次々と指示を飛ばしている。

 緊張感が部屋全体を包み込む中、その手前に立っていたのは他でもないレオンハルト王子だった。


「お待ちしていた」


 王子が隼人に気づき、落ち着いた声で語りかける。


 「ようこそ、ハヤト殿」


 隼人はその威厳ある声に軽く頷きながら、一歩踏み出した。


 部屋の中央にある筒状の機械の周囲では、技術者たちが計器に向かい、次々と操作を続けている。

 隼人はその様子を眺めながら、異様な光を放つヴァルゴート・ナノスウォームの魔石に目を奪われていた。

 その脈動する光はどこか不気味でありながらも、目を離せない不思議な魅力を持っていた。


 レオンハルト王子が隼人に歩み寄りながら話し始めた。


「彼ら技術者は今、準備に追われていて、私自身が直接説明した方が早そうだ」


 隼人は軽く頷き、王子の言葉に耳を傾けた。


「この魔石――ヴァルゴート・ナノスウォームの制御システムを再構築する作業をこれから開始する」


 王子の瞳には微かな緊張が宿っていた。


「しかし、これだけ高度な技術を扱う以上、ふたたび予想外の事態が発生する可能性もある。そこで、君にサポートをお願いしたい」


その言葉に、隼人は一瞬戸惑いを見せた。

 

「サポート……ですか?」


 レオンハルト王子は短く頷き、その威厳ある声でさらに言葉を重ねた。

 

「そうだ。技術的な支援というより、君が先日提供してくれた情報を元に、状況を冷静に見守り、必要があれば助言をしてほしい。君には、我々が持ち得ない視点があるだろうからな」


 隼人は少し苦笑しながら答えた。

 

「ですが、正直に言えば……こういったことについては素人なんですが、大丈夫でしょうか?」


 レオンハルト王子はその言葉に微かに笑みを浮かべ、肩をすくめる。

 

「あのような詳細な情報を提供してくれた者が、素人とは思えないが?」


 その冗談めいた言葉に、隼人は思わず苦笑を漏らした。

 

「そういえば、そうでしたね……。わかりました。ご協力させていただきます」


 観念したように言う隼人に、王子は満足げに頷き、話を切り上げる。


 その時、一人の技術者が王子に近づき、小声で報告をした。

 

「王子、準備が整いました」


 レオンハルト王子は報告を受け、表情を引き締めると技術者に向かって静かに答えた。

 

「わかった」


 そして、部屋全体を見渡し、集まった全員に向けて力強い声を響かせた。

 

「これより、ヴァルゴート・ナノスウォームの魔石の再構築を行う。各自、最大限の注意を払い、全力で取り組むように」


 その言葉に技術者たちは一斉に頷き、それぞれの持ち場へと散った。

 緊張感に包まれる中、隼人も軽く息を吐き、自分の役割を再確認する。


――「対象:ヴァルゴート・ナノスウォームの観測を開始します……接続準備完了」――


 隼人のシステムが静かに稼働を始め、彼の視界に複数の情報が流れ込む。

 魔石の動き、装置の稼働状況、技術者たちの操作ログ――全てがデータ化され、隼人の思考にフィードされていった。


「さて……どうなるか」


 隼人は心の中で呟きながら、再構築の作業が始まるのを静かに見守った。

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