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パラディンと魔石の解析情報

 部屋を出たセフィロト機関の技術者たちは、隼人から提供された資料を手にして廊下を急いでいた。

 隼人の端末を通じて得られた情報は膨大で、未解読の部分も含めて彼らを興奮させるのに十分だった。


「これを基にすれば、『パラディン』の解明が進む!」

 

 先頭を歩いていた壮年の技術者、グレイがそう口にすると、外で待っていた他の技術者たちも期待に満ちた表情を見せた。


「それにしても、どうやってこんな資料を?」

 

 若い技術者が疑問を漏らすが、グレイは軽く首を振る。

 

「それは今は考えるな。まずは解析を進めるのが優先だ」


◆パラディン搭乗口の解析

 

 数時間後、技術者たちは中庭に立つ『パラディン』のもとに集合していた。

 その巨大な機体は、古代の遺産と現代技術の結晶のように威圧的で美しい。

 グレイは資料を手にして前に進み、搭乗口と思われる箇所を見上げた。


「ここだ。ハヤト殿の資料によると、この部分が搭乗口になっているらしい」

 

 彼は手元のデバイスを操作し、指示通りに一つ一つの手順を実行していく。

 手順は複雑だったが、資料に書かれている情報は驚くほど正確だった。


「……これで最後のステップだ」

 

 指示通りの操作を終えた瞬間、巨大な機体が低く唸るような音を立てた。

 次いで、搭乗口のパネルが音を立てながらゆっくりと開いていく。


「開いた!」


 周囲の技術者たちが歓声を上げ、グレイも目を見張った。

 

「ハヤト殿の資料が本物だということが、これで証明されたな」


◆封印の解放方法の調査

 

 一方、別の技術者チームは、『パラディン』が封印されていた場所に注目していた。

 過去の記録では、厳重な封印と結界が施されていたと言われているが、その解放方法は隼人の資料に細かく記されていた。


「この部分の制御機構が壊れていたんだな」

 

 技術者の一人、レナードが呟きながら操作を進める。

 資料に基づいて復元手順を試みると、見えない結界が解かれたように空間に微かな揺らぎが生じた。


「これで封印を我々の手で解放する事も可能だ」

 

 レナードはその瞬間に感じた謎めいた力に胸の鼓動を速めつつも、冷静に報告をまとめていった。


◆整備の準備

 

 その頃、整備を担当する技術者チームは、機体の周囲を駆け回りながら必要な物資を集めていた。

 

「燃料系統にはこの特殊な触媒が必要だな」

「装甲の修復には、現代の技術では代替品を作れないかもしれない……古代の技術を調査しないと」


 資料に基づき、『パラディン』の整備には通常の設備だけでは到底対応できないことが明らかになりつつあった。

 しかし、その情報は隼人の資料に細かく記されており、必要な道具や素材がリストアップされていた。


 若手技術者の一人がため息をつきながら言った。

 

「それにしても、これだけ詳細な整備情報があれば、この『パラディン』を動かせる日も近いかもしれないですね」


 リーダー格のグレイが頷きながらまとめた。

 

「動かすことは可能だろう。ただ、これを完全に理解し、現代の技術で新たに作成、運用できるかどうかは別問題だ。引き続き、解析を進める必要がある」


 セフィロト機関の技術者たちは、それぞれの専門分野で忙しく動き回りながら、『パラディン』の謎を一つずつ解明していった。

 隼人からの資料を基に、古代の機体が再び動き出す日が少しずつ近づいていることを誰もが感じていた。


◆魔石の正体

 

 執務室に戻ったレオンハルト王子は、静かに机に向かい、目の前に置かれた資料に目を落としていた。

 豪奢な装飾が施された机の上には、隼人が入力した端末が一台置かれている。

 使用している端末はセフィロト機関の使用している端末と相違ないが、その中身はまったく異なるものだった。


「これが……魔石の解析結果か」


 王子は低く呟き、ため息をついた。


 技術者たちは隼人から提供された『パラディン』の情報に歓喜し、先ほど興奮気味に足早に中庭へと向かっていった。

 その後、技術者たちに渡しそびれた隼人が別途王子に渡してきたのが、この資料だった。

 隼人が技術者たちに渡した『パラディン』関連の情報とは一切関係のない、今回の騒動の原因となった魔石――その解析情報である。


 レオンハルト王子は資料を開き、細かな字で書かれた解析報告に目を走らせた。

 解析結果は驚愕の一言に尽きた。

 魔石は単なる魔力の塊ではなく、ある種の高度な技術によって制御されていることが明らかになった。

 資料の中で、それは「ヴァルゴート・ナノスウォーム」と記載されている。


「ヴァルゴート・ナノスウォーム……無数のナノマシンで構成され、自己で増殖、再構成可能。破壊されても短時間で復元する」


 王子は額に手を当てながら読み進める。

 その内容は王城で極秘裏に研究されているナノマシンを遥かに凌駕していた。

 

 ナノマシン自体は極小の機械であり、単体ではほとんど無力に近い存在だ。

 王城で研究されているナノマシンは古のダンジョンから持ち寄られたごく少数しかなく、増殖もせず一度故障してしまうともう修理などはできない物であった。


 しかし、ヴァルゴート・ナノスウォームのナノマシンは無数に集まり、魔石の形を取り、魔力を生成し、制御し、再構成、自己増殖する。

 それらは一種の「群体意識」を持ち、独自の指示に従って行動することが可能だった。


「これが……この魔石を動かしていた正体なのか」


 さらにページをめくると、その技術形態に関する記述が目に留まる。


「ナノマシンの技術形態は、王城で使用されている魔法や工学技術の少なくとも数世代先に進んでいる。現在の技術ではその再現は不可能と思われる」


 この記述を読んだ瞬間、レオンハルト王子の眉間に深い皺が刻まれた。


 頭を抱える王子

 王子は資料を閉じ、しばらくの間手を組んで考え込んだ。

 

「無数のナノマシンが集合し、増殖して破壊しても復元する……これでは完全に無力化する手段がない」


 魔石が隼人を狙った理由についてはセフィロト機関から既に報告を受けていたが、その制御に関与する技術の正体がこれほどまでに異質なものだったとは予想外だった。


「ヴァルゴート・ナノスウォーム……」


 王子はその名を呟きながら、深くため息をつく。

 

「なぜ今になってこれ程の技術が?」


 王子の胸には次々と疑問が湧き上がった。

 隼人から提供された技術の正体、そして魔石が使用していた異次元の技術。

 どれもが今の王国にとって未知の領域だった。


「これでは……王城で使用している技術がまるで玩具のようだ」


 レオンハルト王子は頭を抱えつつ、次の一手を模索し始めた。

 この魔石の技術が王国全体にとって吉と出るのか、凶と出るのか、それを見極めるためには隼人とさらに深く話をする必要があると感じていた。


 執務室の静けさを破るノックの音が響いた。

 レオンハルト王子は資料を閉じ、深い考えから抜け出すように顔を上げた。

 

「入れ」


 扉が開き、セフィロト機関の技術者が姿を現した。

 先ほど隼人から受け取った『パラディン』の資料を基に解析を進めていた技術者とは別の人物であり、彼の表情はどこか興奮と緊張が混じったものだった。


「王子、失礼いたします。」

 

 技術者は軽く頭を下げると、すぐに本題を切り出した。

 

「例の魔石の浄化が完了しました。これからシステムの再構築を行います」


 その報告に、レオンハルト王子は深い関心を示し、椅子に背を預けながら目を細めた。

 

「浄化が完了したか。再構築が可能な状態になったということだな?」

「はい」


 技術者は頷いた。


「魔石の機能が完全に停止しました。この状態を維持しながら、新たな指示体系を構築し、制御下に置く準備が整っています。ただ、ナノマシン群を直接制御するのは現在研究中の非常に難しい作業であり、手順を誤れば再び暴走する可能性があります」


 王子はその説明を聞き、腕を組んで考え込んだ。

(暴走を完全に防ぐ保証はないか……だが、これを放置するわけにもいかない。)


 やがて、彼は静かに口を開いた。

 

「わかった。私もその再構築の場に立ち会う。状況を直接確認する必要があるだろう」


 技術者は少し驚いた様子を見せたが、すぐに表情を引き締めて答えた。

 

「かしこまりました。準備が整い次第、お迎えに参ります」


 レオンハルト王子は軽く頷いた後、何かを思い出したように手を挙げて技術者を止めた。

 

「待て」


 技術者は足を止め、王子に向き直る。


「この作業には、ハヤト殿も立ち会わせてくれ」


 王子の言葉は静かだが、確固たる意思が感じられた。


「彼には何か技術を解析する方法があるようだ。あの男の洞察力と知識は、今後の手がかりになる可能性が高い」


 技術者は少し躊躇する様子を見せた。

 

「ハヤト殿を……ですか?」


「ああ」


 王子は断言した。


「彼には関与するだけの理由があるし、隠されている謎を解く鍵も握っている可能性が高い。それに、彼が立ち会えば、今回の作業に何か異常が起きた場合でも、即座に対応できるだろう」


 技術者は一度深く頭を下げた。

 

「承知しました。ハヤト殿にもお声がけします」


「よろしく頼む」


 王子はその返事を聞き、立ち上がった。


「準備が整い次第、すぐに知らせてくれ」


 技術者が退出した後、レオンハルト王子は窓の外に目を向けた。

 夕暮れの光が差し込み、城内の雰囲気を一層重くしているように感じられる。


(ハヤト……あの男の正体をまだ完全には掴めていない。だが、あの魔石をまた我々の手で再構築するとまたあのような暴走が起きないとも限らない)


 王子の中で謎が一層深まる中、再構築作業の場に向かう準備が進められていた。

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