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レオンハルト王子との邂逅と尋問

 隼人が窓辺で庭園を眺めながら静かに思索にふけっていると、部屋の扉が軽くノックされた。

 振り返ると、扉が開き、ミランダが姿を現す。

 その後ろには、金髪で威厳ある雰囲気をまとった男性が立っていた。

 その背後には複数の部下が控えている。


「ハヤト殿、レオンハルト王子がいらっしゃいました」


 ミランダが声をかけると同時に、部屋の空気が一瞬で張り詰めた。


 隼人は王子という言葉に反応し、即座に背筋を伸ばし、目の前の人物を見据えた。

 金髪に整った顔立ち、堂々とした立ち居振る舞い――王子という肩書に相応しい風格を持つ人物だった。


「ハヤト殿、失礼する」


 レオンハルト王子が穏やかだが威厳を帯びた声で語りかける。

 ミランダと他の部下たちは部屋の隅に控え、レオンハルト王子が応接机に向かって座るのを見届ける。


 隼人は少し驚きながらも、相手の意図を察して反対側の椅子に座った。


 王子は静かに視線を隼人に向け、話を始めた。

 

「私はアストレリア国第一王子、レオンハルト・フォン・アストレリア。王座の間での戦闘を指揮していた者だ。君にはその際、大いに助けられた」


 その言葉に、隼人の目がわずかに見開かれる。

 

(……あの戦闘時に指揮を執っていた人物が、まさか王子だったとは)


「第一王子……」


 隼人は思わずつぶやいたが、すぐに態勢を立て直し、椅子に深く座り直した。


「指揮を執られていた時点で偉い方だとは思っていましたが……まさか王子だったとは。驚きました」


 レオンハルト王子は口元に微かな笑みを浮かべたが、その目の鋭さは崩れないままだった。

 

「君たちのことは報告で聞いている。この王城を襲った混乱の中で、君たちがいなければ被害はさらに甚大だっただろう」


 王子の視線が隼人をしっかりと捉え、隼人もその視線を避けることなく受け止める。


「今回の件では助かった。君の活躍には感謝している」


 レオンハルト王子の威厳ある声が部屋の中に響いた。


 隼人は一瞬言葉を考え、丁寧な口調で返した。

 

「いえ、そのように仰っていただけるのなら幸いです」


 王子は隼人の礼儀正しい応答に満足したのか、軽く頷き、少し柔らかい口調に変えた。

 

「まあ、堅苦しい挨拶はこれぐらいにしておこう。どうだ、居心地は悪くないか?」


 隼人は少し肩の力を抜き、窓の外をちらりと見ながら答えた。

 

「正直、拘束というには随分と優遇されています。むしろくつろぎすぎて、どこか申し訳ない気分です」


 その言葉に、王子は低く笑った。

 

「そうだろうとも。君のような人物を牢屋に閉じ込めるなど無意味なことだと私も考えている。それより、きちんと話を聞くために互いに礼を尽くすべきだ」


 王子の毅然とした態度には、無駄な威圧感ではなく、隼人への信頼が垣間見えた。

 隼人はその場の雰囲気を感じ取りながら、次に来る本題を静かに待っていた。


 レオンハルト王子が立ち上がり、部屋に控えていたミランダや衛兵たちに視線を送った。

 

「ここから先は人払いだ。ミランダ、君たちは外で待機していてくれ」

「かしこまりました」


 ミランダは深々と頭を下げ、他の衛兵たちと共に部屋を出ていく。

 扉が閉まり、部屋には隼人、レオンハルト王子、そしてセフィロト機関の技術者らしき人物だけが残された。


 技術者たちは揃いの制服を着ており、腰にはタブレットの様な端末をぶら下げており、見た目からしても高度な専門知識を持っていることが伺えた。

 一人が手に資料を抱えながら、隼人の前に近づく。


 王子は隼人に視線を向け、切り出した。

 

「早速で悪いが、確認したいことが何点かある」


 隼人は少し身を乗り出し、真剣な表情で答えた。

 

「話せることであれば、何でもお答えします」


 王子は軽く頷き、後ろの技術者に指示を出す。

 

「資料をハヤト殿に渡せ」


 技術者の一人が隼人の前に資料を差し出した。

 隼人はそれを受け取り、手際よくページをめくりながら内容を確認する。

 その中には、魔石の構造やデータ解析の結果が詳細に記載されていた。


「まず一点目だ」


 王子が厳かに口を開く。


「君を狙った魔石の件についてだ。我々はこの魔石を解析し、いくつかの情報を得ることができた」


 技術者が続けて説明を始めた。

 

「魔石は現在初期化が完了し、システムの再インストール中です。初期化の過程で、魔石内に保存されていたデータにアクセスすることに成功しました。そのデータを解析した結果、ハヤト殿が狙われた原因がほぼ特定できました」


「原因が特定できた?」


 隼人は眉をひそめる。

 技術者は資料の一部を指し示しながら説明を続けた。

 

「この魔石は、元々首領格の魔獣が所有していたもの、と聞いております。その魔獣をハヤト殿が討伐したことで、魔石に記録されたデータ内に怨恨が刻まれました」


「怨恨……?」


 隼人は思わず言葉を繰り返した。


「はい」


 技術者が頷く。


 「魔石はセフィロト機関に届いた際に一度浄化されています。しかし、魔石の保存領域には複数の階層があり、データの一部が切り分けられて隠されていました。その領域に、ハヤト殿への恨みがプログラムとして強く刻まれていたのです」


 隼人は言葉を失い、一瞬だけ資料に視線を落とした。

 そして、呆れたようにため息をつきながら口を開いた。


「魔物に恨まれていたのは予想の範囲内だけど……まさか、魔石がパソコンみたいな感じとは……」


 王子が興味深そうに眉を動かした。

 

「どういう意味だ?」


 隼人は一瞬言葉を詰まらせたが、すぐに軽く笑みを浮かべてごまかした。

 

「いや、こんな精巧な仕組みになってるとは思わなかったってだけです。普通の石だと思ってたんで、少し驚いています」


 技術者は慎重に答えた。

 

「そうですね。魔石には通常の情報処理を超えた機能が備わっており、この機能を我々が解析、利用することで、様々な作業を行うことが可能となっております」


 隼人は資料を閉じ、軽く息を吐いた。

 

(自分の世界のコンピューターみたいな仕組みだなんて……。しかも、自我に近いものを持ってるとか、厄介すぎるな)


 王子が軽く咳払いをし、会話を引き締めた。

 

「君を狙った理由はこれで明確になり、浄化も進んでいる。今後はこの魔石がこのような動作を行うことはないだろう」


 隼人は軽く頷き、王子を見据えた。


 隼人が納得したことに王子は満足げに頷き、話題を切り替えるべく隼人をじっと見据えた。

 部屋の空気は再び重みを増し、次の確認事項が語られようとしていた。


 レオンハルト王子は椅子に深く座り直し、隼人を見据えた。

 その目には先ほどの話題とは違う重みが宿っていた。

 静かな空気が漂う中、王子はゆっくりと口を開く。


「二点目だが、『パラディン』について、だ」


 隼人は王子の言葉にわずかに身を正した。


 『パラディン』という名を聞いた瞬間、あの巨大な兵器が戦場で動いていた光景が頭をよぎる。


「現状、あの『パラディン』はまだ中庭に立っている」


 王子は視線を外さずに続けた。


「だが、誰もそれを動かすことができない。封印されていた場所に入る方法、それを動かす技術――全てが過去に失われていたものだ。」


 技術者の一人が資料を開きながら補足するように口を挟んだ。

 

「私たちセフィロト機関でも、過去の記録を調査しましたが、あの『パラディン』に関する操作方法や整備情報はほとんど残されていません。どうやってハヤト殿がそれを動かしたのか、非常に興味があります」


 レオンハルト王子が少し体を乗り出し、鋭い声で尋ねる。

 

「改めて確認したい。君はどうやって『パラディン』を動かした?」


 隼人は王子の真摯な態度に対し、少しの間考え込むように沈黙した。

 そして、静かに口を開いた。

 

「申し訳ありませんが……この件についてはお伝えすることができません」


 その言葉に、王子と技術者たちは微かに眉をひそめた。

 だが、隼人は続けて言葉を重ねた。


「ただ、提案があります」


 隼人はそう言うと、少し前のめりになりながら言葉を紡いだ。


「もし許可をいただけるなら、私があの『パラディン』の操作方法や整備方法に関するデータを確認できるか、試してみます」

「データを確認?」


 王子が問い返す。


「ええ」


 隼人は短く答えると、内心でシステムにアクセスを試みた。

(システム、この『パラディン』についての操作マニュアルや整備方法に関する情報はあるか?確認してくれ)


――「確認します……対象:パラディンへのアクセスを実行中……情報取得完了。操作マニュアルおよび整備方法の資料を取得。データの出力も可能です」――


 隼人は微かに表情を引き締め、王子に目を向けた。

 

「確認した結果、操作方法や整備方法に関するデータを出力できそうです。ただ……一つお願いがあります」

「何だ?」


 王子が即答する。


 隼人はタブレット状の端末を所持しているセフィロト機関の技術者に視線を向けた。

 

「そちらの方が持っているその機械――それを少し貸していただけますか?」


 技術者の一人が目を丸くしながら隼人を見つめた。

 

「この端末を、ですか?何に使うおつもりですか?」

「その端末にデータを出力します。直接見てもらった方が早いです」


 隼人は淡々とした口調で答えた。

 技術者たちは互いに目を見合わせたが、レオンハルト王子が短く頷いて指示を出した。

 

「貸してやれ。彼が何をするか見届ける」


 一人の技術者が端末を隼人に手渡した。隼人はそれを受け取りながらシステムに指示を送る。

(システム、この端末にデータを出力できるか?)


――「端末にアクセス中……接続完了。データ出力を開始します」――


 次の瞬間、端末の画面が淡い光を放ち、隼人の指示通りにパラディンに関する操作マニュアルや整備情報のデータが次々と表示されていった。

 技術者たちは目を見開き、驚きの声を漏らす。


「な……端末が勝手に……、それに……操作方法の詳細だと?」

「こちらの端末にも共有されているぞ!整備手順まで……驚くべき情報量だ……!」


 レオンハルト王子も端末の画面に目をやり、その内容に深く感心した様子を見せた。

 

「これほどまでに詳細な情報を、それに操作しているように見えない……。君は一体どうやって……」


 隼人は苦笑しながら端末を机の上に戻した。

 

「方法については……ご容赦ください。ただ、これで『パラディン』を再び動かすための手がかりは掴めるはずです」


 王子は深く頷き、隼人を見据えながら言葉を紡いだ。

 

「君の協力に感謝する。この情報を基に、『パラディン』の秘密を解き明かせるだろう」


 セフィロト機関の技術者たちは、端末に映し出された詳細な情報に目を輝かせ、声を潜めながらも興奮気味に議論を始めた。

 その様子を見た隼人は、彼らの専門性の高さを改めて実感し、静かに息をついた。

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