魔石と隼人の関連性
戦場の混乱が徐々に収束し、夕暮れが血のように赤く染まった空が広がっていた。
破壊されたロボットと建物の瓦礫の中で、レオンハルト王子は鎧に付着した泥を払いながら、巨大な「パラディン」の傍らに立っていた。
その巨大な機械は今、動きを止めて沈黙している。
王子の顔には安堵と疑念が交差していた。
この「パラディン」は、本来王城の地下に封印され、動かす方法も喪失していた古代の機械。
過去の大戦時に利用され、その後長らく封印されていた。
今それが目の前で動き、街の防衛に大きく貢献したことは間違いないが、その方法が不可解だった。
彼は視線を隼人に向けた。
「今回の件、本当に助かった。だが、どうしてこの『パラディン』を動かせた。封印されているだけでなく、動かし方もわからない代物だったはずだ」
隼人は一瞬言葉を詰まらせた。
王子の鋭い視線が、自分の秘密に迫ろうとしていることがわかったからだ。
(システムによる制御だなんて言ったら、どうなるか……。)
隼人は冷静を装い、軽く肩をすくめた。
「さあ、俺もどうやって動いたのか正直わからない。ただ、この場にいたから、どうにかできたのかもしれない……運が良かっただけかもな」
レオンハルト王子はしばらく隼人を見つめたが、それ以上問い詰めることはなかった。
彼は一つ息を吐き、微かに笑みを浮かべると肩をすくめた。
「まあ、言いたくないこともあるだろう。それに、今はこの被害を収拾するのが先だな」
王子は背筋を伸ばし、部隊を見回した。
魔石を浄化している魔法師達、ロボットや瓦礫の除去を行っている衛兵たちが忙しく動き回っている。
王子はすぐに指揮の現場へ戻るため、隼人に軽く頷いて立ち去った。
隼人はその後ろ姿を見送りながら、複雑な思いを胸に抱えていた。
(俺の中のこの『システム』が、古代の技術やこの世界にどう関わっているのか……言っても信じてもらえないだろうしな)
その時、遠くから聞き慣れた声が聞こえてきた。
「ハヤトー!無事だったのね!」
振り返ると、ノアとリーシャがこちらに駆け寄ってきた。
二人とも埃まみれで、顔には疲労の色が浮かんでいたが、隼人の姿を見てほっとしたように笑みを浮かべた。
「避難民の誘導は終わった?」
隼人が尋ねると、ノアが大きく頷いた。
「うん、なんとか全員安全な場所に移動させたよ。だけど、途中で突然建物が崩れて怪我をしてる人が多くて、まだ治療が必要な人がたくさんいるけど……」
リーシャがその横で「パラディン」に触れる。
いつもなら機械に対して目を輝かせているリーシャも、流石に物が物だけに険しい顔をして言葉を続けた。
「それに、こんなの動かしたんじゃ、ハヤトがどういう扱いになるかわからないわよ」
隼人は頷きながら周囲を見渡した。
「まあ、とにかく次の動きは王城の人と相談だな。俺たちも何か手伝えそうなことを探そう」
隼人がそう言うと、ノアとリーシャも頷き、それぞれの役割を再確認しながら動き出した。
赤い夕焼けが戦場を覆う中、瓦礫の街にわずかな静寂が訪れ始めていた。
隼人たちは瓦礫の撤去作業を手伝っていた。
作業の合間に、王座の間の案内役だった衛兵が隼人たちのもとへ急ぎ足でやってきた。
金髪のショートヘアが戦場の埃に汚れていたが、その瞳は真剣そのものだった。
彼女は息を整えながら、隼人たちを呼び止めた。
「そこのお三方、少しお時間をいただけますか?」
その声に、ノアが振り返り驚いた顔をした。
「あなた、避難民の誘導してくれた……!」
女性衛兵は軽く頷き、柔らかい笑みを浮かべた。
「はい、王座の間を案内していた者です。覚えていただけて光栄です。私はミランダと申します」
隼人たちもその場で自分たちの名を名乗ると、ミランダは隼人たち一人一人に視線を向け、軽く頭を下げた。
「突然で申し訳ありませんが、詰め所でお話を伺わせていただけますか?今回の件について、少しでも状況を整理したいのです」
隼人たちは顔を見合わせた後、ノアが頷いて答えた。
「もちろんです。私たちでわかることがあれば」
隼人達は衛兵詰め所に案内された。
詰め所は簡素だが、清潔に保たれていた。
ミランダは隼人たちを中に通し、別の衛兵たちが書類整理や装備の点検を行っている姿を横目に、個室に案内した。
「お疲れのところ、申し訳ありません。では、まずは確認させていただきたいことを――」
そう切り出すミランダの声はきびきびとしていたが、どこか親しみやすさもあった。
隼人は椅子に腰を下ろし、まず口を開いた。
「俺も一つ確認しておきたい。操られていた警備兵たちはどうなった?」
ミランダは少し微笑んで答えた。
「ご安心ください。操られていた警備兵は全員意識を取り戻しました。怪我を負った者もいましたが、重傷者はいませんでした」
リーシャがほっと胸を撫で下ろした。
「よかった……。ハヤトがあまりにもズバズバ切っていくから心配していたのよ」
ノアも頷き、表情を緩めた。
「本当に無事でよかったです」
その穏やかな空気に一瞬の沈黙が流れたが、ミランダの次の言葉がその場を引き締めた。
「ただ――王城内の組織が状況証拠を基に検討した結果、今回の件は、ハヤト殿、あなたが中心に狙われていた可能性が高いと考えています」
隼人の眉がぴくりと動く。
「俺が……狙われた?」
ミランダは隼人の反応を注視しながら言葉を続けた。
「はい。あなたが王座の間に入った後に王座の間に閉じ込められた事、操られていた兵やロボットたちがあなたにのみ攻撃していた事、そして最終的に巨大なロボットがあなたを執拗に狙っていたことに至るまで、すべてがあなたを取り囲むように仕組まれていたと推測されます」
隼人は腕を組み、顎に手を当てながら思案した。
(狙われる理由……心当たりなんてない。ただ、魔石……あれには見覚えがある。)
彼は慎重に言葉を選びながら言った。
「狙われる覚えはない。ただ、あの魔石は――記憶にはある」
ミランダは少し身を乗り出して尋ねた。
「ハヤト殿、その魔石にどのような記憶が?」
ミランダの真剣な声が詰め所の静けさを切り裂いた。
隼人は眉をひそめ、記憶をたどるようにゆっくりと口を開いた。
「あの魔石は、俺たちが以前、首領格の魔獣を倒したときのものだ。巨大なイノシシのような魔獣だった。そのイノシシも今回のように周りの生物を操っていたんだ」
ノアとリーシャもその時の出来事を思い出し、小さく頷いた。
「あれね……確かにあの時の魔石は領主に渡したわ」
ノアが補足する。
隼人は続けた。
「その魔石は、領主が引き取り、その領主が王城に献上したという話は聞いた。俺たちはその後のことは何も知らない」
ミランダは隼人の言葉を記録用の手帳に書き留める手を止め、目を伏せながら考え込む。
やがて顔を上げ、真剣な眼差しで隼人を見た。
「領主からの献上……なるほど。最近特殊な魔石が管理下に置かれたという話を聞いていましたので、その件でしょうか……」
隼人はその言葉を受け、腕を組んで考え込んだ。
「王城に献上されていたことは確かなんだな。なら、俺たちが渡した魔石が間違いなく王城に届いていたんだ」
ミランダは深く頷きながら答えた。
「はい、その点については間違いありません。ただ、どうしてその魔石が今回の件に関係しているのかは、私ではまだ断言できません。上層部と相談して、さらに詳しい情報を確認がありそうですね」
彼女は席を立ち、隼人たちに向かって軽く頭を下げた。
「この情報は非常に重要です。上司に報告し、状況を整理して参ります。少しだけお待ちいただけますか?」
隼人は軽く頷き、短く答えた。
「ああ、頼む。」
ノアとリーシャも彼女を見送りながら頷き、ミランダが詰め所の奥へと去る姿を見送った。
室内には、彼女が去った後の微かな緊張感が残された。




