最終決着
隼人が「パラディン」で敵のロボットと激闘を繰り広げている最中、突然、敵のロボットの動きが鈍り始めた。
その異変に気づいた隼人は、攻撃の手を一瞬緩めて様子を見た。
「……どうした?」
――「敵のロボットの動作パターンに異常を確認。修復機能が停止しています。推定原因を解析中」――
隼人は視界を巡らせながら、敵の挙動の変化に注意を払った。
すると、遠くでレオンハルト王子が衛兵たちに指示を出している姿が目に入った。
「何かやってるのか……?」
王子の指示に従い、衛兵たちは手に持った小型の装置を次々と設置しているようだった。
装置からは微かな電子音が発せられており、それが周囲に広がっているのが感じ取れた。
――「追加情報を取得しました。周囲に配置されている機器が、敵のロボットに影響を与えている可能性があります」――
「どういうことだ?」
――「敵のロボットはナノマシンの集合体による修復および制御機能を持っています。そのナノマシンは特定の周波数帯の信号を利用しており、現在、その周波数帯にノイズを発生させる機器が使用されています」――
「つまり、あの人たちが奴らを止めようとしてるってことか?」
隼人が確認するように問いかけると、システムは短い応答を返した。
――「推定は可能性の範囲内です。敵のロボットの挙動が鈍化し、修復機能が完全に停止しています」――
敵のロボットは鈍った動作で巨体を揺らしながら隼人に向かって手を伸ばそうとした。
しかし、その動きはこれまでの鋭さを失っており、修復もまったく行われていない。
さらに、装甲の一部に損傷が生じたまま放置されている。
「やるじゃないか……!」
隼人は苦笑しながらも、再び「パラディン」の操作に集中する。
敵のロボットの動きが鈍った今がチャンスだった。
遠くでレオンハルト王子が声を張り上げ、衛兵たちに次々と命令を下している。
「各班、配置完了したノイズ発生装置の状態を確認しろ!出力を最大に保て!これ以上、ナノマシンに自由を与えるな!」
王子の指示を受け、衛兵たちはそれぞれの装置の調整に取り掛かっていた。
装置から発せられるノイズが強まると、敵のロボットの挙動はさらに遅くなり、巨体がよろめくように揺れ始めた。
「敵が弱っているぞ!全員、準備を整えろ!魔石が露出次第、再度浄化を開始する!」
王子の声が響き渡る中、隼人は拳を握りしめた。
この状況を利用し、一気に勝負を決めるべきだと決意する。
隼人は再び「パラディン」のコントロールを強め、攻撃の準備を整える。
ナノマシンの制御を失った敵のロボットは、まだ完全に無力化されてはいなかったが、徐々にその威圧感を失いつつあった。
「今だ……仕掛けるぞ!」
隼人は「パラディン」を操り、敵ロボットに向かって猛然と突進した。
ナノマシンの修復機能を失った巨体は、攻撃を受けるたびに装甲が剥がれ、内部の構造が露わになっていく。
これまでの戦闘では、隼人の攻撃をあざ笑うかのように瞬時に修復していた敵のロボットだが、今ではその余裕を完全に失っていた。
――「現在の敵のロボットの状況:修復機能無効化。継続的な攻撃が有効です」――
システムの言葉を背に、隼人は「パラディン」の操縦桿を握りしめた。
思考と連動した動作で、機体がまるで生き物のように滑らかに動き、敵の攻撃をかわしながら猛攻を続ける。
隼人は右腕のライフルを構えた。
敵のロボットの脇腹の脆い箇所を狙い澄まして、エネルギー弾を放つ。
轟音とともにライフルの一撃が炸裂し、敵のロボットの巨体に大きな穴が空いた。
内部の機械部品が爆ぜ、火花が散る。
敵のロボットはバランスを崩しながらも、鋭利なブレードを振り回して隼人に向かってきた。
しかし、動きが鈍くなったその一撃は、もはや「パラディン」には届かない。
――「敵ロボットの損傷箇所が拡大中。次の攻撃で撃破可能です」――
「次で決める……!」
隼人は左腕のエネルギーブレードの出力を最大まで引き上げた。
ブレードから溢れるエネルギーが眩い光を放ち、空間を震わせるような音を立てる。
「これで終わりだ――!」
隼人は「パラディン」を疾風のように駆けさせ、敵のロボットの正面から急接近した。
その瞬間、敵のロボットも最後の抵抗とばかりに鋭利な爪を繰り出す。
しかし隼人はその攻撃を巧みにかわし、エネルギーブレードを振り下ろした。
ブレードが敵のロボットの中心部を貫いた瞬間、眩い光とともに内部のナノマシンが爆ぜ、ロボットの巨体が崩れ落ちた。
轟音が響き渡り、地面が振動する。
敵のロボットの部品が次々と地面に散らばり、巨大だったその姿は見るも無残に崩壊していった。
隼人は息を整えながら、視界に飛び込んできた光景に目を見張った。
「……魔石?」
崩壊した敵のロボットの中心部から、黒紫に輝く魔石が一つだけ残っていた。
まるでそれがこの敵のロボットを構成していたすべての源であったかのように、周囲には静寂が広がった。
――「魔石を確認。推定:ヴァルゴート・ナノスウォームの制御中枢。」――
隼人は「パラディン」の視覚システムで魔石を注視した。
薄暗い輝きを放つその魔石には、何か邪悪な気配が漂っている。
「これが……すべての元凶か」
崩壊した敵のロボットの中心に残された黒紫の魔石の輝きは、なおも不気味に空間を支配していた。
その邪悪なオーラが漂う中、騒然とする王城の広場にレオンハルト王子が指示を飛ばす。
「魔法師たちをここに集めろ! 今すぐだ!」
レオンハルト王子が鋭い声で命じると、近衛兵たちは一斉に動き出した。
王子の背後には、すでに準備を整えた数人の魔法師たちが控えており、それぞれの手には浄化の儀式で使われる杖や魔法具が握られていた。
戦闘が終わり、隼人が「パラディン」を降りると、王子の視線が隼人とへ向けられる。
「遅くなって済まない。ナノマシンの構造を解析し、その対抗策を準備するのに手間取った。だが、これ以上の被害は出させない」
隼人はわずかに息を整えながら、王子の言葉を受け止める。
レオンハルト王子は一瞬だけ視線を落としたが、すぐに毅然とした表情に戻り、手を魔石に向ける魔法師たちに向けて指示を出した。
「魔石の再浄化を開始する。この魔石を初期の状態へと戻す。二度と今回のような事態が起きぬよう、徹底的に行うのだ!」
魔法師たちは次々と呪文を唱え始めた。
その声が重なり、徐々に力強い波動が魔石を中心に広がり始める。
空気が震えるような感覚とともに、魔石の黒紫の輝きが揺らぎ始めた。
「これが再浄化の儀式か……」
隼人が息を飲みながら呟く。
――「浄化の影響を確認。魔石のエネルギーパターンが変化中。内部のナノマシン制御が低下しています」――
隼人のシステムからの通知に、彼は改めて事態が進展していることを実感した。
「魔石がこんなにも厄介なものだったなんて……」
隼人は独りごちるように呟く。隼人の言葉にレオンハルト王子が答える。
「この魔石は元々魔物から採取されたものだ。力の源ではあるが、不安定だ。そして先ほどのように暴走すれば手がつけられない」
王子の声には、悔しさと使命感が入り混じっていた。
「この浄化作業が完了すれば、魔石は再び初期設定に戻る。再度様々な学習を行う必要はあるが、今回のような事態は二度と起こらないだろう」
魔石の周囲に立つ魔法師たちの呪文はますます強まり、魔石から漏れ出していた黒紫の輝きが徐々に弱まっていく。
やがて、魔石の表面に浮かんでいた不気味な紋様が薄れていき、平穏な光が戻りつつあった。
「……浄化が順調に進んでいるようだな。」
隼人が安心したように呟くと、肩の力を抜いた。
その場を覆う空気には、静けさと希望が交錯していた。




