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王子とセフィロト機関の不穏な報告

 レオンハルト王子の執務室に、重々しい足音が響いた。

 扉がノックされ、セフィロト機関の技術者が慌ただしい様子で入室してくる。

 王子は机に向かいながら書類を整理していたが、その気配に顔を上げた。


「どうした?こんな急ぎの様子で」


 技術者は小さく頭を下げながら、切迫した声で口を開いた。


「失礼します、レオンハルト王子。セフィロト機関で行っている人型ロボットの最終テスト中に、不明な通信を確認しました。それが……非常に不可解な内容でして、至急ご報告に参りました」


 王子は眉をひそめ、椅子を引いて身を乗り出した。


「不明な通信だと?詳しく説明してくれ」


 技術者は一枚の報告書を手渡しながら続けた。


「現時点では詳細をすべて解析しきれておりませんが、その通信は王城内部への制御信号のように見えます。対象や目的は不明ですが、まるで何かを指揮しているような構造を持っています」


 王子の目が鋭く光った。手渡された報告書に視線を落としつつ、冷静ながらも厳しい口調で問いかけた。


「……まさかとは思うが、その通信源は例の自立型ロボットではないのか?」


 技術者は硬い表情で頷いた。


「はい、間違いありません。通信の発信元は自立型ロボット内部の魔石に起因していると考えられます」


 王子は重い沈黙を保ちながら、報告書を読み進めた。

 人型ロボットに使用された魔石は、領主エルミオンが献上した魔物の魔石であり、その特異性と危険性が常に議論されていたものだ。


 王子は書類を机に置き、深く息を吐いた。


「魔石の暴走か……。何か予兆や異常が現れているのか?」


 技術者は首を振った。


「現在、ロボット自体の挙動には特に異常は見られません。ただ、この通信が王城内部に影響を及ぼしている可能性があるため、慎重に調査を進めております」


 レオンハルト王子は額に手を当て、しばらく考え込んだ。

 そして、決意を固めたように顔を上げ、厳しい声で命じた。


「……念には念を入れろ。この魔石が暴走した場合、被害は計り知れない。全王族の安全を最優先とするよう、近衛兵に伝達しろ。非常事態に備えて、即座に動ける体制を整えるんだ」


 技術者はその言葉に力強く頷き、すぐさま指示を遂行するため部屋を出て行った。


 王子はその場で立ち上がり、執務室の窓の外に目を向けた。

 窓の向こうには、祭りの喧騒に包まれた王都の街並みが広がっている。

 しかし、その平和な光景がどこか不安定に見えるのは、ただの気のせいではないのだろう。


「……直接確認する必要がありそうだな」


 レオンハルト王子は自らセフィロト機関へ向かう決意を固めた。

 部屋を出て、早足で廊下を進む彼の背中には、次第に広がる不穏な影が重なって見えた。


 セフィロト機関に到着したレオンハルト王子は、施設内に漂う緊張感に眉をひそめた。

 彼が足を踏み入れた途端、技術者たちが慌ただしく作業する光景が目に入った。

 コンソールには警告の赤い光が絶え間なく点滅し、不穏な空気が充満していた。


 王子がその場を見渡し、指揮を執っている技術者に声をかける。


「状況を説明してくれ。王城内部ので制御信号が出ていると聞いたが、何が起きている?」


 技術者は一瞬手を止め、深刻そうな表情で王子の前に進み出た。


「王子、現在、自立型ロボットが発する制御用通信の量が異常な速度で増大しています。通常の稼働範囲を大きく逸脱しており、対象が何を指示しているのかを解析しきれていません」


 王子は目を細め、技術者の背後にあるコンソールのスクリーンを覗き込む。

 そこには複雑な通信ログが次々と記録されていた。


「解析が追いつかないということか?」


「はい。この通信は非常に高密度かつ断続的で、既存のアルゴリズムでは意味を解析するのに時間がかかりすぎます。それに、王城内部のみならず、どうやら外部との通信も検出されています」


 その報告に、王子は眉間に皺を寄せた。


「……外部通信だと?それが一体何を意味する?」


 技術者は肩をすくめるような仕草で答える。


「まだ完全にはわかりません。ただ、通信が外部にまで広がっているとなると、何かを制御しようとしている可能性があります」


 王子は即座に判断を下した。


「通信を切断しろ。内部で暴走するのもまずいが、外部への影響はさらに許容できない」


 技術者は頷き、制御コンソールに指を走らせた。だが、コンソールの表示が赤く点滅し、警告音が鳴り響く。


「……だめです、通信が切断できません!通常の手段では制御システムに干渉できない状態です!」


 王子の表情が険しくなる。


「ならば物理的に切るまでだ。通信ケーブルを見せてくれ」


 技術者がすぐさま案内し、王子と数人の兵士たちが機械の中枢に向かった。

 そこには通信ケーブルが何本も束ねられており、機械に深く接続されていた。


 王子は近くに置かれていた作業用の斧を手に取り、ケーブルに向かって一振りした。

 鋭い音を立ててケーブルが切断され、通信が途絶えたかに見えた。


 だが、次の瞬間、切断されたケーブルがまるで生き物のように蠢き始め、見る間にナノマシンが絡み合い、元の状態に修復されてしまった。


「……なんだこれは!」


 王子は目を見開き、驚愕の声を上げた。技術者たちも呆然としながら修復されるケーブルを見つめる。


「まさか、これはナノマシン……?しかし、そんなものを組み込んだ覚えは……!」


 王子は再び斧を振り下ろし、切断を試みた。

 だが、何度繰り返しても結果は同じだった。

 切断したケーブルは即座に修復され、通信が再開されてしまう。


「これでは埒が明かない……」


 王子は歯を食いしばりながら技術者に問いかけた。


「このナノマシンについて、他に何かわかることはないのか?これを止める方法を探れ!」


 技術者は必死でコンソールを操作しながら答えた。


「現時点では、ナノマシンがどうやってこのシステムに組み込まれたのかすら不明です。ただ、このままでは通信がさらに増大し、システム全体が乗っ取られる可能性があります!」


 王子は深く息を吐き、険しい目つきでナノマシンに侵食されるケーブルを睨みつけた。


「くそ……一刻の猶予もないな。さらに詳しい調査が必要だ」


 混乱の中、王子は迅速な対応を決断し、別の打開策を模索するため新たな指示を出す準備を始めた。

 ナノマシンに隠された謎が、事態をさらに複雑にしていった。

 

 セフィロト機関の中枢は、警告音と警報ランプが点滅する中で、緊迫感に包まれていた。

 レオンハルト王子は険しい表情で技術者たちを指揮しながら、自立型ロボットの暴走を止めるための次なる手を考えていた。


「電源を完全に落とせ。外部通信が止まらない以上、稼働そのものを封じるしかない」


 技術者の一人が首を振りながら答える。


「王子、既にロボット自体が内部の自己生成されたエネルギー源に切り替わっており、外部電源の遮断では何の効果もありません!」


「自己生成されたエネルギー源だと?」


 王子は驚きと苛立ちを隠せずに問い返した。技術者は続ける。


「おそらく魔石の影響です。魔石がロボット内で未知のエネルギー反応を起こし、完全に独立した状態になっています。外部からの制御は不可能に近い状況です!」


 王子はその言葉を飲み込むと、無駄を省くように新たな指示を下した。


「ならば通信を優先的に監視しろ。制御用通信がさらに拡大すれば、被害が拡大する危険がある」


 技術者が急いでコンソールを確認し、声を上げた。


「王子、通信がさらに増大しています!……待ってください。これは……」


 彼の手が一瞬止まり、顔色が変わる。


「警備兵のインカムと、王城内のロボットの通信ネットワークに接続されています!」


「何だと?」


 王子の声が厳しく響き渡る。

 技術者が続ける。


「セフィロト機関から指示を出しているはずの警備兵とロボットが、今、ロボットの通信網に乗っ取られています!セフィロト機関との通信は強制的に切断され、すべての命令が自立型ロボット経由で行われている状態です!」


「……完全に制御を離れた、ということか?」


 王子の言葉に技術者は頷き、悔しそうに唇を噛み締めた。


「はい。その通りです。今や警備兵もロボットも、このセフィロト機関の指揮下にはありません」


 その瞬間、廊下から足音と怒号が響き渡った。

 扉が開かれ、近衛兵が慌ただしい様子で駆け込んできた。


「王子、緊急事態です!」


「何があった?」


 王子が鋭い声で問いただすと、近衛兵は息を切らしながら答えた。


「王城内の警備兵とロボットの様子がおかしくなっています!彼らが全員、こちらの指示を完全に無視し、王座の間へ向かっています!」


「王座の間だと……?」


 王子は驚愕の表情を浮かべた。技術者もその報告を聞いて顔を青ざめる。


「どうやら、通信網を掌握したロボットが王座の間を標的に定めた可能性があります……!」


 王子は大きく息を吐き、近衛兵に命じた。


「至急、王座の間へ向かえ。警備兵やロボットが侵入しないよう、防衛線を築け」


 近衛兵が敬礼し、その場を駆け出していく。王子は技術者たちに振り返り、声を張り上げた。


「この状況を打開する方法を探し出せ!時間がない!」


 技術者たちは再びコンソールに向き直り、解析を続けるが、目の前にある状況はますます悪化の一途をたどっていた。


「……王座の間が攻撃を受ける前に、何とかしなければ」


 王子は焦りを隠しながら、事態を収拾するための次なる手を模索するのだった。

 

 レオンハルト王子は、王座の間を思い浮かべながら、眉間に深い皺を刻んでいた。

 現在、王城は「星降りの大祭」の本祝に合わせて一般開放されており、多くの民が王座の間を訪れている。

 豪華絢爛なその空間は、観光客にとって一番の見どころだった。


「……まずいな。王座の間には、無防備な民が集まっている……」


 王子は冷や汗を浮かべ、状況の深刻さを噛み締めた。

 もし暴走した警備兵やロボットがそこに到達すれば、取り返しのつかない事態になりかねない。


 その時、緊急の報告が入った。

 技術者が、息を切らせながら駆け寄ってくる。


「王子!緊急です。王座の間の非常用脱出口が解放されました!」


「非常用脱出口だと?一体誰が……?」


 王子は即座に問いただしたが、技術者は困惑した顔で首を横に振る。


「それが……非常用脱出口は完全に独立して稼働しているため、外部からの操作は不可能なはずです。しかし、現在、扉が解放されていることが確認されています」


「王族以外には解放できない仕組みではなかったのか?」


「はい。そのはずですが、何らかの方法で扉が開かれたようです。現状ではその理由を確認できておりません」


 王子は不信感を募らせながらも、頭を切り替えた。

 扉が開かれている以上、それを有効活用する以外に選択肢はない。


「……いいだろう。その脱出口を使い、王座の間にいる民を避難させる。理由の確認は後回しだ」


 王子は決意を込めて言葉を続けた。


「近衛兵に通達しろ。インカムをつけていなかった兵士たちを集め、非常用脱出口を利用して民を守るんだ。操られている兵士やロボットを止める手段が見つかるまで、時間を稼ぐぞ」


 技術者が敬礼し、王子の指示を伝えるために走り去った。


 その数分後、王子の指揮のもと、兵士たちが急ぎ集合した。

 王子は彼らを前に立ち、力強く声を上げる。


「皆、聞け!王座の間に民が集まっている。このままでは暴走した兵士やロボットによる被害が避けられない。私たちの任務は、何としても彼らを守ることだ」


 兵士たちの目が真剣さを増し、王子の言葉に集中している。


「非常用脱出口が解放された。理由は不明だが、これを使って民を避難させる。そして、暴走した者たちが王座の間に到達する前に、阻止するための布陣を整える。指示を徹底的に守れ!」


 一同が敬礼し、王子の命令に応じて動き出す。


 王子は近衛兵と共に、急ぎ王座の間へ向かった。廊下を駆け抜ける中、頭の中で不安が渦巻く。


(非常用脱出口が解放された理由……一体誰が、どうやって?だが、今は民を守ることが最優先だ)


 決意を胸に秘めながら、レオンハルト王子は王座の間へと急いだ。その背中には、指揮官としての重責と、王族としての誇りが強く宿っていた。

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