セフィロト機関での最終テスト
王宮内の執務室で、レオンハルト王子は書類に目を通していた。
そこへ、セフィロト機関から派遣された技術者が恭しく頭を下げて入室してきた。
レオンハルトは彼に気づき、軽く視線を上げると、促すように頷いた。
「レオンハルト王子、本日は例の献上品である魔石を使用した自立型の人型ロボットの件について、ご報告に参りました」
その言葉を聞いたレオンハルト王子は表情を引き締め、注意深く耳を傾けた。
領主エルミオンから献上されたこの「特殊な魔石」は、ここ何十年も産出されておらず、極めて珍しい力を秘めているとされ、王都に送られてきた後にセフィロト機関の技術者たちによって徹底的に調査と検証が行われてきた。
魔石を搭載した自立型機械は、王都の防衛強化や各種用途で使用されている。
技術者は手元の資料を確認しながら、淡々と説明を続けた。
「現在、この魔石を動力源とした自立型の人型ロボットの開発は最終段階に入っております。システムはおおむね安定しており、予想以上のエネルギー供給を確認しております。類を見ない特殊な魔石である為、従来の動力を凌ぐ持続力が得られる見込みです」
レオンハルトは頷きながらも、内心ではその報告に少なからずの懸念を抱いていた。
魔石がもたらす力は非常に強大で、適切に制御できない場合、制御を失ったロボットが暴走する危険性も捨てきれないからだ。
彼は技術者を見据えながら、冷静に口を開いた。
「……順調そうで何よりだが、その魔石は、そもそも魔物から得られたものだったはずだ。その特異な力に、何らかの悪影響が潜んでいる可能性も否定できない。試験中もくれぐれも慎重に進めてほしい」
技術者は、その忠告を肝に銘じたように深く頷き、誓うように答えた。
「承知しました、レオンハルト王子。最終テストも厳重に行い、異常が発生した際にはただちに報告いたします」
レオンハルト王子はその返答を聞き、少しだけ安心した様子で再び頷いた。
「異常があれば迷わず知らせるように。何か問題が起きる前に、私に報告してほしい」
技術者は再び深く一礼し、慎重に背を向けて部屋を後にした。
レオンハルトは技術者の去った後、窓の外を見つめながら、魔石と、それが秘める未知の力に対する不安を振り払えずにいた。
王都を守るための強力な兵器を得るための魔石。
しかし、その力を手にすることで得られるものと失うものが、果たしてどちらが大きいのか──王子の心に、静かにその問いが残っていた。
▼セフィロト機関
セフィロト機関の実験室では、王都に献上された特殊な魔石を搭載した自立型の人型ロボットが最終テストを受けていた。
そのロボットは、成人男性ほどの大きさを持ち、金属光沢を帯びたボディには滑らかなラインが入っている。
シンプルだがどこか洗練されたデザインで、まるで静かに眠る巨人のように、実験室の中央に立っている。
ロボットはまだ起動しておらず、静かに台座に固定されているが、内部システムはすでに稼働中だ。
ロボットの胸部に埋め込まれた魔石から、微かに光が漏れ、そのエネルギーが全体に行き渡っているようだった。
ガラス越しに、複数の技術者たちが真剣な表情でモニターを見つめ、ロボットの各機能が安定して稼働しているかを確認している。
魔石が供給するエネルギーが正常に流れ、システムが適切に動作しているかどうか、細かなデータが監視されている。
「現在、システム稼働状態は安定しています。エネルギー供給量も計画通りで、予想範囲内です」
操作盤に向かう若い技術者が報告する。
彼は表示されたデータを慎重にチェックしながら、わずかな変動も見逃さないよう目を光らせていた。
別の技術者も画面を眺めながら感心したように呟く。
この魔石は、王都の防衛システムや探査にも使えるかもしれないと期待が高まっていた。
「この魔石の安定性は驚異的ですね。従来のエネルギー源では到底実現できない精度だ」
しかし、年配のベテラン技術者がその言葉に冷静に口を挟む。
「だが、気を緩めるわけにはいかない。忘れてはいけないが、この魔石は魔物から採取されたものだ。いまだに未知の力が潜んでいる可能性もあり、常に注意が必要だ」
彼の指摘に、若い技術者たちも再び緊張感を取り戻し、データの監視に集中した。
魔石の力は驚異的だが、それが何らかのリスクを伴うものかもしれないという警戒は、彼ら全員に共通していた。
実験室内には、起動待機中のロボットと、それを取り巻く技術者たちの真剣な空気が漂っている。
人型ロボットは、静かに立ち尽くしながらも、内蔵された魔石の輝きが微かに光を放ち、まるでその深遠な力を秘めた眠れる巨人が静かに呼吸しているかのようだった。
▼人型ロボット
セフィロト機関の実験室に静かに佇む人型ロボット。
ロボットの内部では、技術者たちが知らないところで、隠密裏にシステムが稼働していた。
隼人によって討伐された魔物の魔石を動力源としたこのロボットは、その魔石の残留記憶により隼人を「撃破ターゲット」と認識し、セフィロト機関のシステムを利用して追跡するための操作を始めていた。
システムログ開始
[ログ: 10:23:01] セキュリティプロトコル起動……システム異常なし
[ログ: 10:24:12] 外部接続確立……セフィロト機関へのアクセス準備中
[ログ: 10:24:56] リモートアクセスプロトコル起動……隠密転送開始
対象:セフィロト機関システム
[ログ: 10:25:21] ターゲット確認……内部システムへのバックドアアクセス試行
[ログ: 10:25:47] セキュリティバイパス中……アクセスレベル拡張
[ログ: 10:26:31] セフィロト機関システム認証ポイント接続確立
王都システムへのアクセス承認ハッキング
[ログ: 10:27:14] 王都システム承認申請プロセス起動……転送経路確立
[ログ: 10:28:08] セキュリティ承認コード取得……セフィロト機関に偽装アクセス
[ログ: 10:29:22] 承認操作中……ハッキング進行中
王都システム承認通過
[ログ: 10:30:54] 王都システムアクセス承認通過……ターゲット「ハヤト」の入場許可を偽装
[ログ: 10:31:32] ハッキング痕跡隠蔽完了……セフィロト機関システム内ログクリア
監視モード移行
[ログ: 10:33:45] ターゲット「ハヤト」追跡モード開始……王都内位置データ受信待機中
[ログ: 10:34:21] 状態:セキュリティ侵入完了……ターゲット位置追跡モード移行
[ログ: 10:35:01] 次回アクセス命令待機中
システムログ終了
このシステムログは、セフィロト機関の技術者には一切知られることなく、ロボットの内部で密かに記録されていた。
ロボットは王都内のセキュリティシステムをハッキングし、隼人が王都に入れるように承認を通し、追跡体制を整えていた。




