宿探しと10年に一度の大祭の話
隼人たちは、王都の正門を無事に通過した。
何事もなく門をくぐれたことに隼人は少し安堵しつつ、目の前に広がる光景に心を奪われた。
王都は彼らが想像していた以上に活気にあふれており、石畳の道には多くの人々が行き交い、商人たちが盛んに客引きをしている。
そこかしこに露店が並び、色とりどりの布地や香辛料の香り、焼き立てのパンの匂いが漂っていた。
ノアが目を輝かせながら辺りを見回す。
「すごい……こんなに賑やかな町、初めて見たわ」
リーシャも興奮気味に頷き、感嘆の声を漏らした。
「確かに、これはさすがに田舎町とは規模が違うわね。なんだか見ているだけで楽しくなってくる!」
王都の独特の喧騒が、三人の心を一層浮き立たせていたが、次の目的は宿を見つけることだった。
長い道のりを歩いてきたこともあり、早めに休息を取って翌日に備える必要がある。
隼人たちは門の正面に数軒並ぶ宿屋を見つけ、早速そこに向かってみることにした。
最初の宿屋の扉を開け、受付の女性に空室を尋ねてみるが、返ってきたのは予想外の答えだった。
「申し訳ないけど、祭りの時期で今はどの部屋も埋まってるのよ」
次の宿でも同じように断られ、さらにその次の宿屋でも「祭りのために満室」の看板が掲げられていた。
どうやら、この王都で祭りが開催される時期は、宿屋はどこも満員になってしまうらしい。
ノアが少し肩を落としながら、ため息をつく。
「大規模な祭りがあるみたいだね。そのせいで宿屋がいっぱいになるのね……」
「うーん、こうなると寝る場所を見つけるのも一苦労ね」
リーシャも困った顔を見せる。
困惑する三人だったが、隼人はふと冒険者ギルドのことを思い出して提案した。
「そうだ、冒険者ギルドを訪ねてみよう。もしかしたら、そっちに泊まる場所があるかもしれない」
ノアとリーシャもその提案に同意し、ギルドを目指すことにしたが、王都の広さに加え、道に迷わないよう地図もないため、どの方向に向かえばいいか分からない。
先ほど断られた宿屋に戻り、受付のおばさんに再び声をかけてみる。
「すみません、冒険者ギルドの場所を教えていただけませんか?」
隼人が丁寧に尋ねると、おばさんは親切に地図の簡単な描き方をしてくれ、道順も教えてくれた。
「大通りをまっすぐ進んで、左手に大きな時計台が見えたらその先よ。分かりやすいと思うから、迷わず行けると思うわ」
「ありがとうございます!」
三人が感謝を伝えると、おばさんはにこやかに手を振って見送ってくれた。
人の波を避けながら、隼人たちは教えられた通りに大通りを進み、街の奥に見える大きな時計台を目指して歩みを進める。
そして、冒険者ギルドの前に辿り着いた時、三人は改めて王都の規模と賑わいに感動しつつも、早く休息できる場所を確保しようと気持ちを引き締めた。
大通りに面して立つそのギルドは王都らしく大きな施設で、入口から中の賑わいが溢れ出している。
扉を開けて一歩中に入ると、想像以上の活気に包まれていた。
ギルドの職員たちは忙しそうに書類を運んだり、受付で次々とやってくる冒険者たちの対応に追われたりしている。
「これが王都の冒険者ギルドか……さすが、規模が違うな」
隼人が感心しながら周囲を見回す。
ノアとリーシャもその賑やかさに少し圧倒されている様子だったが、目的は空いている宿探しだった。
幸い、受付カウンターがあったので、三人はその列に並ぶことにした。
列がゆっくりと進み、ついに自分たちの番が回ってくると、隼人が一歩前に出て丁寧に尋ねた。
「こんにちは。自分たちは冒険者なんですが、王都での滞在中に宿が見つからなくて。祭りの影響でどこも満室で……もし空いている宿をご存じであれば教えていただけませんか?」
受付の職員は一瞬だけ思案した後、申し訳なさそうに頭を下げた。
「申し訳ありませんが、この時期はやはりどの宿も予約でいっぱいでして、ギルドとしてもすぐに空けられる宿はご紹介できない状況です」
三人は少し落胆したが、職員は続けて話を続けた。
「ですが、長期間滞在用の賃貸物件であれば、いくつか空きがございます。旅人や冒険者が長く王都に滞在する際に利用することも多く、通常の宿泊施設よりも充実した設備が備わっています。4部屋とリビング、キッチンがあり、住むには問題ないかと思います」
「賃貸ですか……便利そうね。でも、家賃はどうなんでしょう?」
ノアが顔を上げ、職員に確認すると、控えめに説明した。
「はい、宿泊よりも割高にはなりますが、祭りの時期には宿が取りにくいため、長期滞在者の方には重宝されている物件です。少し高めの料金設定にはなりますが、それでも割安なものをご案内できるかと」
隼人たちは顔を見合わせた。旅の道中で得た領主からの報酬がまだ残っており、現在の手持ちで問題なく支払える額だという計算も立つ。
ノアもリーシャも納得した様子で頷き、隼人が決断した。
「それで問題ありません。その賃貸物件をお借りする方向でお願いします」
職員もほっとした様子で頷き、丁寧に説明してくれた。
「承知しました。ただ、現在ギルド内も立て込んでおり、すぐにご案内できる者がおりませんので、不動産屋の担当者を呼んで参ります。少しお待ちいただけますでしょうか」
三人は了承し、ギルドの片隅に設けられた待合スペースに腰を下ろした。
忙しそうに立ち回るギルド職員や、賑やかな冒険者たちを眺めながら、ようやく一息つき、王都での新たな住処が見つかることに胸を高鳴らせていた。
隼人たちがギルドでしばらく待っていると、不動産屋の男性が現れた。
年配ながらもきびきびとした動きで、どこか気さくな雰囲気を漂わせている。
彼は隼人たちに微笑みかけ、一礼して自己紹介をすると、早速物件への案内を始めた。
「お待たせしました。ご紹介する物件は、王都の中でも静かな場所にある住居です。滞在中の生活には十分かと思いますので、ぜひご確認ください」
隼人たちはその言葉に促され、不動産屋についていく。
王都の大通りから路地を抜け、人混みを避けて進むと、次第に落ち着いた住宅街が見えてきた。
大きな街並みから離れ、建物のひとつひとつがしっかりと手入れされた通りを歩いているうちに、ノアがふと疑問を思い出し、不動産屋に尋ねた。
「ところで、今日いろんな人に聞いたのですが、今は祭りの時期なんですか?」
その質問に、不動産屋の男性はにっこりと微笑み、誇らしげに語り始めた。
「ああ、そうだとも。いい時期に来たね。実は今から三日後に、『星降りの大祭』が開かれるんだ。この祭りは、10年に一度の大きな行事でね。王都の民だけでなく、各地から人が集まってくる特別な祭りなんだよ」
リーシャが興味津々に目を輝かせながら尋ねる。
「星降りの大祭、ですか?それって、どんなお祭りなんです?」
「星降りの大祭」と呼ばれたその祭りの話に、不動産屋の男性の目がさらに輝きを増した。
「この祭りは、王都の神話にちなんでいるんだ。10年に一度、星が夜空を美しく飾り、流星がいくつも降り注ぐ夜があると言われていてね。それに合わせて王都では街中に灯籠を並べ、夜には幻想的な光景が広がるんだ。流星の夜には、王都の聖堂で『星の祝福』という儀式が行われ、参加者はその祝福を受けて、運気が上昇すると信じられているんだよ」
隼人たちはその話を聞き、思わず顔を見合わせた。
10年に一度という希少な祭りに出会えるとは、まさに運命的な巡り合わせだ。
「なんだかすごいお祭りですね。私たちも見られるのかと思うと楽しみです」
ノアが微笑みながら話すと、不動産屋も嬉しそうに頷いた。
「そうだね。君たちもぜひこの機会を楽しんでくれ。祭りの夜には大通りで屋台も並び、特別な料理や品物もたくさん出るんだよ。街全体が星空に包まれるような、なんとも言えない幻想的な雰囲気になる。きっと忘れられない体験になるはずだ」
隼人たちはこの王都で、特別な体験をする予感を感じつつ、不動産屋と共に物件へと歩みを進めていった。




