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王都への道と入城の行列

 青い海を越え、広大な空の下、バステオン・アークは王都近くの降下予定地点に到着寸前となっていた。

 しばしノアたちは旅の疲れを休めながら過ごしていたが、いつしか空も薄明るくなり、目的地が目前に迫っていることを感じさせる。

 静かなブリッジに、ルクシアの落ち着いた声が響いた。


「予定地点に到着いたしました。現在、周囲をスキャンしております」


 ブリッジの窓から見える風景は、海の青から地上の緑と山並みに変わっていた。

 彼方には王都の白い城壁がぼんやりと浮かんでおり、隼人たちはこれから始まる新たな旅の気配に胸を高鳴らせていた。

 数秒後、ルクシアがスキャンの結果を確認し、さらに詳細な報告を続ける。


「周囲に異常は確認されず、人影も感知されておりません。いつでも降りられる状態です」


 ルクシアの報告に一同は安堵の表情を浮かべ、旅の準備に取り掛かった。

 これから王都でどんな情報が手に入るか、どんな冒険が待ち受けているのか――期待と緊張が入り混じり、準備をする手にわずかながら力がこもる。


「それでは私たちは、ノア様たちをここでお下ろしした後、先程お教えいただいた神殿の調査へと向かわせていただきます」


 ルクシアは再び淡々と報告し、ノアたちに向き直った。


 「私どもへの連絡は、前回と同様にペンダントを通じて行ってください。いかなるご連絡でも、ノア様からの指示をお待ちしております」


 ノアは小さく微笑み、丁寧に頷いた。


 「ありがとう、ルクシアさん。あなたたちが調査を進めている間に、私たちも王都での情報収集をしてみるわ。きっと何か新しい発見があるかもしれないしね」


 フロリアも一歩前に出て、柔らかな表情で言葉を添える。


 「どうぞお気をつけて、ノア様。私どもも最大限の注意を払い、神殿調査を進めてまいります」


 隼人はその言葉を聞き、改めてルクシアやフロリアの存在に感謝を感じていた。

 強力な装備や知識を持ちながら、ノアを支えるために尽力する彼女たちの忠実さが、一行にとって大きな支えであることは疑いようもなかった。


 準備が整い、いよいよ降りる時が来ると、ノアは一瞬の静寂の中でルクシアとフロリアを見つめ、静かに「ありがとう」と心を込めて告げた。


 ドッキング・ベイへと移動した隼人たちはフロリアに見送られながら人員輸送艇へと乗り込む。

 フロリアは一歩下がり、隼人たちに穏やかな微笑みを向けながら軽く一礼した。


 ノアたちは感謝の気持ちを込めて彼女に手を振った。

 静かなドッキング・ベイでの別れの挨拶を済ませると、輸送艇の扉が静かに閉じ、船内の柔らかな光が彼らの旅立ちを照らしている。


 やがてバステオン・アークの広大なドッキング・ベイが視界から遠ざかり、外の景色がどんどん近づいてくる。

 地上の緑が視界の向こうに広がり、その向こうには王都のある大地が見えてきた。


 しばらくすると、輸送艇は地表に到着し、扉がゆっくりと開かれた。

 隼人たちは地面に降り立ち、柔らかな草地に足を踏み入れる。

 周囲には自然の静寂が広がり、バステオン・アークの存在感が遥か上空に消えていくのを感じながら、隼人たちはしばらくその場で見上げていた。


 輸送艇が再び上昇し、バステオン・アークへと戻っていくのを見送ると、隼人たちは地上に広がる景色をじっくりと観察し始めた。

 彼らが降り立った場所は、森の中に不思議なほど綺麗に開けた草原だった。

 緑が鮮やかに茂り、そよ風が心地よく草を揺らしている。


 ノアが辺りを見渡しながら感嘆の声をもらす。


 「なんだか、不思議な場所ね。森の中なのに、こんな広い空き地がぽっかりと開いてるなんて……」


 リーシャも彼女に同意しつつ、周囲の景色を眺め回した。


 「なんだか私たちに都合がよすぎる気はするわね」


 そんな事を感じながら、隼人たちは王都に向かうため、草原の端や木立の間を歩きながら、街道を探しつつ慎重に周囲を探索していった。

 やがて、木々の向こうに整備された道が見え始める。どうやら街道らしく、道の先には小さく王都の城壁も見えていた。


「街道を見つけたみたいだな」


 隼人が嬉しそうに言うと、ノアもリーシャも笑顔で頷き返した。


「それなら、この道を辿って王都まで向かえるね」


 ノアが言い、リーシャも元気に応じた。


 「じゃあ、早速進もうか!」


 草原を抜け、王都への道を歩み出した隼人たちは、新たな冒険の始まりを感じつつ足を踏み出した。


 隼人たちは王都に続く街道を進みながら、次第に遠くに見えていた王都の城壁が、視界いっぱいに大きくなっていくのを感じていた。

 古めかしいが堅牢な石壁がそびえ立ち、かつて数多の戦いを耐え抜いたかのような歴史の重みが感じられる。

 陽光が城壁に反射し、所々の苔や蔦が王都の威厳を増しているようだった。


 ノアが一歩一歩を確かめるようにしながら、感慨深そうに呟く。


 「やっと王都が近くに見えてきた……想像してたよりずっと大きいのね。どれだけの人が暮らしてるんだろう」


 リーシャもその壮大な光景に目を奪われていた。


 「ほんと……町の規模が違うわね。さすが“王都”って感じ」


 隼人も黙って頷きながら、初めての場所に胸を高鳴らせていた。

 長い旅の終わりと、ここから始まる新たな冒険が待っていることに、自然と期待が膨らむ。

 徐々に人の数も増え始め、王都に近づくにつれ、行き交う馬車や旅人の声が賑やかさを増していくのが感じられた。


 そして、やがて城壁の正門が見えるところまで来ると、その門の前には驚くほどの長い行列ができていた。

 地元の商人風の男性や、旅装束に身を包んだ冒険者、さらには観光に来た様子の家族連れ――様々な人々が並び、正門を待っていた。

 見渡す限り行列が続き、隼人たちはその光景に少し呆れた表情を浮かべた。


 リーシャが少しげんなりした表情で呟く。


 「これ……並ばなきゃいけないの?ずいぶん混んでるわね」


 ノアも苦笑しながらため息をついた。


 「王都だから、やっぱり入る人も多いのよね。でも仕方ないわ、とりあえず並びましょう」


 隼人は周囲を見渡し、他の行列の様子を確認しながら列の最後尾に向かって歩き出した。


 「王都ってだけあって、警備も徹底してるみたいだな」


 三人は行列の後ろにつき、少しずつ進む列の中でそれぞれの思いを抱きながら順番を待った。

 王都への期待、未知の世界に対するわくわく感がありながらも、行列の長さにやや疲れが漂っている。

 しかし、その疲れも、城門をくぐった瞬間に報われるのではないかと胸が高鳴っていた。


 隼人たちは列の中で待ちながら、少しずつ王都の正門に近づいていった。

 巨大な門には複雑な彫刻が施され、厳格で威厳ある姿を誇っている。

 門の周囲には衛兵たちが立ち、入城の際の確認や手続きを行っていた。

 隼人がその門をじっと見つめていると、彼の視界に不意にシステムの通知が浮かび上がった。


――「警告:正門のフィールドに特殊な検知システムが確認されました」――


 隼人は瞬時に緊張が走り、耳を澄ませるようにシステムの情報を確認した。


 システムの音声が続く。


 「この門には、一定の基準を満たさない“異物”が通過できないセキュリティフィールドが配置されています。不浄なもの、機械的な存在、魔物など、城内の安全を脅かす可能性のあるものを検知して遮断する機能があると推測されます」


 隼人はその言葉に息を呑んだ。

 自分が「機動兵器」という性質を持つことを思い出し、不安が押し寄せてきた。

 もし、この門が彼の本来の姿を見抜き、入城を拒んだとしたら――。


「……まさか、俺が引っかかるなんてことはないよな?」


 隼人は心の中で動揺しながら、前回のバステオン・アークでの調査のことを思い返した。

 確か、ルクシアやフロリアが自分を「人間」と認識していたことや、システムのスキャン結果でも「人間」として認識されていたはずだ。

 そうだ――彼は人間として王都に入る資格があるはずだと、自分に言い聞かせた。


 不安が少しずつ解けていく中、システムが再び彼を安心させるように告げた。


――「承認完了:システムにより通過可能と承認されました。問題なく通過可能です」――


 隼人は胸を撫で下ろし、ひとまず王都に入れると分かってほっとした表情を浮かべた。

 何事もないように周囲を見渡し、正門を前にしながら冷静を装っていたが、その内心では「もし通れなかったらどうしよう」と冷や汗をかいていたことは、彼自身の胸に秘めたままだ。


「……よし、これで大丈夫だ。さぁ、もう少しで俺たちの順番だな」


 隼人が小さく頷きながら呟くと、ノアとリーシャも安心した表情でその言葉に応えた。

 王都の正門がもうすぐそこまで迫り、隼人たちは新しい旅の一歩を踏み出す心の準備を整えながら、順番が来るのを静かに待った。

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