未知の通路
隠し扉を見つけた隼人たちは、さっそく開こうと試みたが、扉はまるで山の一部そのもののように固く閉ざされ、びくともしない。
隼人が手を当てて少し押してみるものの、かすかに動きそうな気配はあるが、通常の力ではとても開きそうにない。
「うーん、普通に押すだけじゃ無理そうね」
ノアが扉の隙間を覗き込みながら呟く。
リーシャも周囲を見渡し、鍵やスイッチなどの仕掛けが隠されていないか探し始めたが、特に変わった部分は見当たらない。
扉の周囲にも手がかりらしきものはなく、隼人たちは顔を見合わせて少し困惑した。
「鍵もスイッチもないし……かなりしっかり造られてるわね」
リーシャが軽くため息をつくと、隼人が少し考え込んだ後、決意を固めた表情を浮かべた。
「よし、こうなったら力で開けてみるしかないな。バックパックの出力を全開にして試してみる」
隼人は背中のバックパックを展開し、強化されたパワーを全身に行き渡らせる準備を整えた。
ノアとリーシャが少し下がり、隼人が扉の正面に立ち、両手を扉に当てる。
バックパックのシステムが起動し、隼人の視界にシステムメッセージが浮かび上がる。
――「最大出力モード起動。圧力制御モードに移行。周囲構造への影響を最小限に抑えます」――
「よし……出力全開!」
隼人はシステムのサポートを得て、全身の力を込めて扉を押し始めた。
背中から伝わるバックパックの圧倒的なパワーが腕を通じて扉に伝わり、ゴゴゴッという重厚な音が響き渡る。
扉はゆっくりと軋み、わずかに開き始めたものの、まだ完全には動かない。
隼人はさらに力を込めて体重をかけ、体全体で押し込むと、ついに扉が完全に開き、奥へと続く通路が目の前に現れた。
「やった!これで中に入れるわね!」
ノアが喜びの声を上げ、隼人の背中を見て誇らしげに微笑む。
リーシャも隼人の奮闘に感心した表情で頷きながら、扉の奥へと興味津々に視線を向けた。
奥には薄暗い通路が広がっており、わずかに冷たい空気が流れてくる。
隼人、ノア、リーシャの三人は互いに頷き合い、未知の空間へと足を踏み入れる準備を整えた。
隠し扉の奥へと進むと、そこには荒々しい岩肌ではなく、しっかりとしたレンガで組まれた通路が続いていた。
古びたレンガはわずかに苔むしており、かなりの年月が経っていることがうかがえるが、それでも整然と積み上げられた石材からは、人の手が加えられた痕跡が見て取れた。
「この通路、完全に人工物ね。誰かがここを造ったのかしら……?」
ノアが低い声で呟きながら、興味深そうにレンガの壁を指でなぞった。
「でも、最近人が通った感じはないな。すごく古いし、ここまでくると誰も来ていないみたいだ」
隼人が周囲を慎重に見渡しながら答える。
しばらく進むと、通路は緩やかな下り坂に変わり、さらに奥へと続いている。
階段と呼ぶには少し傾斜が足りないが、坂道としては少し急な感じもあり、どこか不安定な構造になっている。
「なんだかどこに繋がっているか分からない感じね」
リーシャが周囲を警戒しながら歩を進める。
「でも、敵も出てこないし、今のところは安全そうだな」
隼人がそう言って少し肩の力を抜いたが、内心ではこの異様な静けさに違和感を感じていた。
ダンジョン内では戦闘も順調で、新装備の手応えも確かめられている。
少しの油断が生まれそうになるが、ここは慎重に進むべきだろうと心を引き締める。
「まあ、これまで順調だったし、このまま気をつけて進めば大丈夫よね!」
リーシャが軽く笑顔を見せると、隼人とノアも微笑み、再び歩を進めることにした。
三人は互いに頷き合い、警戒を保ちながらも、レンガ造りの下り坂をゆっくりと降りていった。
この静けさの先に何が待ち受けているのかを探るため、彼らは慎重に奥へと足を進めていく。
ダンジョンの壁は、何世代も前からそこに佇んでいたような風格を持ち、薄暗い空間が独特の冷たさと重厚さを醸し出している。
ノアがふと立ち止まり、指先でそっと壁をなぞりながら口を開いた。
「このダンジョン、何だかバステオン・アークを見つけた時とは、まったく違う雰囲気ね。ダンジョンからバステオン・アークが眠っていたあの町から近いから何か関係があるかと思ったんだけど……」
「そうだな。あの時見つけたバステオン・アークの壁は、どこか『近未来的』っていうか、俺の知ってる現代の技術を超えた感じがしたな」
隼人がうなずき、レンガの壁を少し眺めながら話を続けた。
その言葉にリーシャが首をかしげ、不思議そうな顔を浮かべた。
「近未来的? それって聞いたことない言葉だけど、どういう意味なの?」
隼人は自分の説明が少しわかりにくかったことに気づき、笑いながら補足した。
「そうだな、説明が足りなかったな。バステオン・アークの壁って、今のこのダンジョンの壁とは違って、まるで特殊な金属でできたみたいだっただろ?あの滑らかで冷たい素材はどこか現代を超えた『未来』の技術を想像させるんだ。そういうのを『近未来的』っていうことがあるんだ」
「なるほどね。今のこの場所とは、確かに全然違うわね……」
リーシャが周囲の石造りの壁を見つめ、納得したように頷いた。
「でも今のこのダンジョンは、明らかに古い石造りでできてるし、風化が進んでる部分もある。あの滑らかな金属の感じもないし、あの場所とは技術も時代も全く別ものなんだろうな」
隼人がそう言いながら、レンガの隙間に手を触れ、冷たい石の感触を確かめるようにしながら話した。
ノアもその話を聞き、バステオン・アークの無機質な壁と、この古びたレンガの質感を思い返す。
彼女の目には、今のこの通路がどこか荘厳で神秘的に映っているようだった。
「確かに、ここはまるで古代の遺跡って感じね……何かが封じられているような雰囲気さえあるし、バステオン・アークとは全く別の世界が広がっているみたい」
三人は、これまでの探索で得た異なる空間や技術の印象を胸に、改めて目の前の階段を見つめた。
隼人、ノア、リーシャの三人は、長い階段を下り続け、ようやく広がる開けた通路にたどり着いた。
その場所はこれまでのレンガで組まれた狭い通路とは違い、壁が高く天井もかなり高くなっており、まるで古代の神殿のような荘厳さを漂わせていた。
通路の両側には一列に並んだ石灯篭のようなものがあり、かつては火が灯されていたようだが、今はその残骸だけが静かに佇んでいる。
誰も触れていないのか、古ぼけた燭台には埃が積もり、青白い苔が薄く広がっている。
「……ここはまた雰囲気が変わったね」
ノアが驚いた表情で周囲を見回し、静かに呟いた。
「確かに、今までとは違うな。まるで儀式か何かに使われたような……」
隼人も壁の模様や装飾に目を留め、不思議そうに見つめている。
壁には古代文字のような模様が刻まれており、薄暗い空間にその模様が浮かび上がって見える。
どこか荘厳な雰囲気が漂い、この通路が何か特別な目的を持って造られたことを感じさせた。
「でも、この奥に何があるんだろう……」
リーシャが通路の先を見つめて呟く。
通路はまっすぐに奥へと続いており、暗闇が視界を遮っているため、その先がどうなっているのか全く見通せない。
「進むしかないな。気をつけながら行こう」
隼人が合図を送り、三人は再び歩みを進めた。
足音だけが石造りの通路に響き、まるで彼らの存在を静かに告げているかのようだった。
不気味な静けさと、どこか神秘的な雰囲気が交差する中、三人は心の中にわずかな不安と期待を抱きながら、未知の空間へと足を進めていった。
どれだけ歩いたのかわからないほど長い通路を進んだ隼人たちは、やがて広がりを感じる空間に出た。
これまでの狭い通路とは異なり、目の前には途方もない広がりがあるようだが、松明の小さな明かりでは全体を照らしきれない。
「ここ……すごく広いわ。だけど暗くて全然見えない」
ノアが周囲を見回し、不安そうに呟いた。
隼人も薄暗闇に目を凝らし、わずかに見える影に気づきながら、ノアに向き直った。
「ノア、ライトの魔法を使えたりするか?」
隼人が確認すると、ノアは頷き、杖を掲げて魔力を込め始めた。
「ええ、任せて」
ノアが杖を掲げると、ふわりと温かな光が広がり、ぼんやりと闇を押し返していく。
光が空間を照らすにつれ、目の前に隠されていた荘厳な姿が浮かび上がってきた。
彼らの視界の先には、重厚な石造りの建物が姿を現し、まるで古代の神殿のような威容を放っている。
「……すごい、まるで神殿みたい。こんな場所が隠されていたなんて……」
ノアが息を呑んで神殿を見つめる。
「確かに。ここまでのダンジョンとはまるで別物だな。誰かがこの空間を意図的に造ったのかもしれない」
隼人もその姿に圧倒されながら、神殿を見上げた。
神殿の正面には巨大な石柱が何本も並び、柱には不思議な文様や古代文字が刻まれている。
建物全体は年季が入っているものの、どこか聖なる力が宿っているかのような崇高さを感じさせる。
「もしかして、ここには何かが封じられているか、重要な何かが眠っているのかも……」
リーシャが緊張した様子で呟きながら、神殿に見入っている。
広大な空間に佇むこの神殿の存在に、三人は自然と慎重になりつつも、その謎に引き寄せられるように、足を一歩ずつ神殿へと向けていった。




