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バステオン・アークに乗船

 町の復興も一段落し、隼人たちは穏やかな朝を迎えていた。

 ノアが窓の外に目をやり、平和な町の様子を楽しんでいると、ふいにペンダントに通信が入った。

 ルクシアからの連絡だ。


「ノア様、こちらルクシアです。ご報告があります」


 ルクシアの声に、ノアはペンダントを耳に近づけた。


「実は、バステオン・アークの偽装が完了しました。現地の方々に気づかれることなく、運用できる準備が整っています」


 その言葉に、ノアは軽く息を飲んだ。

 バステオン・アークが人目に触れずに活動できるのは心強い知らせだ。

 そして、ルクシアはもうひとつ報告を続ける。


「また、ハヤト様の新しいバックパックも完成しております。よろしければ、ぜひ一度バステオン・アークにお越しください」


 隼人がその言葉を聞いて驚き、ノアに視線を向けた。


「新装備、完成したのか……? それなら確かめてみたいな」


 ノアは隼人の反応にうなずき、ルクシアに返事をした。


 ルクシアは最後に付け加えた。


「現在、バステオン・アークは空中に浮いた状態ですので、乗船には小型の人員輸送艇を使用いたします。着陸場所は町から少し離れた草原を予定しておりますので、そちらにお集まりいただければと存じます」


 ルクシアがそう伝えると、隼人はリーシャにもルクシアからの連絡を伝えるため、彼女を呼び出した。


「リーシャ、ルクシアから連絡があった。どうやら、あの巨大な船に乗船できるらしい。行ってみるか?」


 その言葉に、リーシャの目が一気に輝いた。


「もちろん行くわよ!またあの巨大な船に乗れるなんて、ワクワクする!」


 隼人はリーシャの反応に微笑みを浮かべつつ、準備を進める様子を伺う。

 新しい冒険への期待感に包まれながらも、彼らは冷静に明日の計画を立て始めた。


「明日の朝に指定された合流地点へ向かおうか」


 隼人が提案すると、ノアはペンダントを手に取り、ルクシアに向けて通信を始めた。


「ルクシアさん、明日の朝、私たち行くから。合流地点を教えてくれる?」


 少し間をおいて、ペンダントからルクシアの声が応えた。


「了解いたしました。合流地点が確定しましたら、再度ご連絡差し上げます。安全な場所を確保しておきますのでご安心ください」


 ルクシアの落ち着いた声に、ノアも安心した表情を浮かべる。

 隼人たちは通信が切れるのを待ち、顔を見合わせた。


「よし、準備を整えよう。明日の朝には万全の状態で出発するぞ」


 隼人が意気込んで話すと、リーシャもすぐに応えた。


「了解!荷物の整理もあるし、早めに休んでおかないとね」


 三人は明日に備えて装備や荷物を整理し始め、町の夜が静かに更けていく中、隼人たちはそれぞれの思いを胸に、準備を着々と進めていった。


 翌朝、隼人たちは目を覚ますとすぐにルクシアから連絡が届いた。

 合流地点は町から徒歩で約1時間ほど離れた草原。

 人目に付きにくく、静かな場所だという。

 隼人たちは朝食を済ませた後、カイエンとノアの母親であるミレイに出発の挨拶をするために応接室へと向かった。


「カイエンさん、申し訳ないのですが、しばらく付近の探索に出かけてきます。数日で戻る予定です」


 隼人が告げると、カイエンはにっこりと笑い、背中をポンと叩いた。


「そうだな!最近は町の手伝いばかりさせてたし、冒険者はたまには外に出て風を感じてこそだ!」


 その言葉に隼人たちも思わず笑顔を返した。

 冒険者としての自分たちの役割を再確認し、気持ちが引き締まる。


 一方、ノアの母親であるミレイは、少し心配そうな顔を見せたものの、優しく娘に微笑んで言葉をかけた。


「ノア、あなたがまた外に出るのは心配だけど……」


 ノアはその言葉に少し気後れしつつも、母の期待に応えようと笑みを浮かべてみせると、ミレイは優しく頷いた。


「好きにしなさい。自分で決めたことなら、応援するわ」


 ノアは母の手を握り、安心したように頷いた。

 そして隼人、リーシャとともに玄関へ向かう。

 町を見渡しながら、隼人たちは新しい冒険の始まりを感じて胸を弾ませた。


「よし、それじゃあ行こうか」


  隼人が振り返り、二人を促すと、ノアとリーシャも頷き、三人は町を後にして、草原へと歩き出した。


 町を出て草原に向かって1時間ほど歩くと、隼人たちは指定された合流地点に到着した。

 辺りには広がる草原の緑が一面に広がり、特に人の気配もない静かな場所だ。


「ここで合ってるみたいだけど……」


 と隼人が言い、周囲を見渡すが、ただのどかな風景が続くだけだった。


 ノアはペンダントを握り、ルクシアに連絡を取った。


「ルクシアさん、私たち、到着したよ」


 その直後、空の方から何かがこちらに向かってくるのが見えた。

 小さな点がみるみる大きくなり、やがて隼人たちの目の前にバスほどの大きさの人員輸送艇が降り立つ。

 静かに風を切りながら、草原の上空で一瞬ホバリングし、地面にぴたりと着地した。


 人員輸送艇の側面の扉が自動で開き、ペンダントから再びルクシアの声が聞こえてきた。


「お待たせしました。どうぞ、こちらにお乗りください」


 隼人たちは顔を見合わせて頷くと、人員輸送艇へと足を踏み入れた。


 隼人たちは人員輸送艇の椅子に座り、扉が閉まるとともに期待が高まっていった。

 艦内からルクシアの声がアナウンスされる。


「それでは、これより出発いたします。飛行中は多少揺れますので、どうぞお気をつけください」


 人員輸送艇が静かに浮かび上がり、隼人たちはわずかな揺れを感じながら、上昇する感覚に身を委ねる。

 機体がふわりと浮かんだ感覚に、隼人は驚きの声を漏らした。


「おお……浮いてるのか」


 ノアとリーシャも窓の外を覗き込むと、地面がどんどん遠ざかっていく。

 草原や町の全景がみるみる縮小され、彼らはまるで鳥のように空を飛ぶ感覚に心を奪われていた。

 リーシャは窓に顔を寄せ、さらに興奮した様子でつぶやいた。


「本当に浮いてるのね、すごい……!」


 数分も経つと、草原ははるか下に広がり、周囲の景色が青空の中に吸い込まれるように見えていく。

 隼人はその高さに少し驚きつつも、不思議な感覚に満たされていた。


 そんな時、ふいにルクシアの声が再び艦内から流れた。


「間もなくバステオン・アークへ到着いたします」


 隼人たちは窓の外を見つめ、バステオン・アークを探したが、空には何も見えない。

 疑問に思っていると、空間に突如として巨大な穴が開き、その向こうにバステオン・アークのドッキングベイが姿を現した。

 隼人たちは目を見張り、その壮大な景色に圧倒されたまま、人員輸送艇はドッキングベイに向かって滑らかに接近していった。


 人員輸送艇がバステオン・アークのドッキングベイに接続し、わずかに振動が伝わって停止した。すぐにルクシアの声が響く。


「バステオン・アークに到着いたしました。皆様、ブリッジまでお越しください」


 隼人は少し驚いた様子で呟く。


「もう着いたのか。思ったより早かったな」


 三人は人員輸送艇から降りると、待っていたフロリアがにこやかに迎えてくれた。


「皆様、お待ちしておりました。ブリッジはこちらです。ご案内いたします」


 フロリアの先導でドッキングベイを出ると、その先には大きなターボリフトの入口が見えた。

 バステオン・アークの広大な船内を見渡しながら歩く隼人たちは、そのスケールに圧倒されながらも好奇心を抑えられない様子だ。

 フロリアがターボリフトの前で立ち止まり、振り返って言った。


「こちらのカーゴにお乗りください」


 三人がターボリフトに入ると、フロリアは「ブリッジへ」と静かに告げた。

 すると、ターボリフトは軽い振動とともに自動で動き出し、周囲の景色が静かに流れていく。


 移動中、フロリアは隼人たちに向かって感謝の意を込めて話し始めた。


「本日は来ていただきありがとうございます。ノア様がいらっしゃったことで、ついにこの施設も本来の役割を果たせる状態に近づくことができました」


 そう話すフロリアに、ノアは本来の役割とは何かを尋ねた。


「フロリアさん、本来の役割って、具体的にはどういうことなの?」


 フロリアは少し微笑みを浮かべ、説明を始めた。


「以前にもお伝えいたしましたが、この施設――バステオン・アークは、マスターユニットのコアが持つ指揮権があることで、施設内のさまざまな装備や機能が制限なく稼働するのです」


 ノアは少し驚いたように頷き、さらに耳を傾ける。


「逆に、マスターユニットの指揮権がない場合には、施設の操作が限定され、制約が多く発生します。ただ、基本的な防衛機能や機動兵器の運用、それに施設の移動は、マスターユニットの指示がなくとも可能となっています」


 フロリアは静かに顔を伏せ、少し申し訳なさそうに続けた。


「ただ、現在はノア様の指示が御座いませんので、バステオン・アークは待機状態です。しかし、ノア様の意思次第で、この要塞の機能がどのようにでも役立つように調整できます」


 ノアはフロリアの言葉に軽く頷きつつも、自分が果たすべき役割について少しずつ理解し始めていた。


 ターボリフトが静かに停止し、ブリッジの扉がゆっくりと開いた。

 目の前には広々とした空間が広がり、そこにはルクシアが待ち構えていた。

 ルクシアは隼人たちを迎え、優雅な声で話しかける。


「ようこそおいでくださいました。そして、ノア様……お帰りなさいませ。どうぞ、こちらへ」

「え、えっと……ただいま……?」


 その丁寧な歓迎に、ノアは少し戸惑った表情を浮かべて応えた。

 自分がこの場所に受け入れられ、指揮権を持つ「マスターユニット」として迎えられていることに、まだ完全には馴染めないでいる。

 目の前に広がる壮大なブリッジ、そして自分を「帰るべき存在」として扱うルクシアたちの姿は、どこか夢のようで現実味がない。

 とはいえ、心の奥底には不思議と温かい感覚が宿っていた。

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