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隼人の健康診断

 指揮官室には、隼人とフロリアの間に張り詰めた緊張が漂っていた。

 フロリアは未だに隼人に向けて鋭い視線を向け、次の行動を警戒している。

 その眼差しから、容易には疑念を解かないという決意が感じられた。


「ハヤト様、率直にお尋ねします。ここにいる皆様に対して、何か攻撃の意思をお持ちですか?」


 その問いかけに、隼人は少し驚いた表情を見せたが、すぐに落ち着きを取り戻して首を横に振った。


「いや、そんなつもりはまったくない。俺はみんなを守りたいだけだ。仲間を攻撃する意思なんて、これっぽっちもないよ」


 隼人の真摯な言葉に、フロリアの表情はわずかに緩む。

 しかし、彼女はまだ隼人から視線を外さずにいる。

 ノアがその様子を見て、隼人をかばうように前に出た。


「フロリアさん、ハヤトはこれまでずっと私たちと一緒に戦ってくれて、何度も守ってくれたの。今までも、これからも、隼人は私たちにとって大切な仲間だわ」


 ノアの目には信頼の光が宿り、その一言には隼人への感謝と確信が込められていた。

 その言葉を聞いたフロリアは、しばらく考えるようにノアと隼人を見比べ、やがて深く息をつく。


「……マスターユニットの命令ですので、従います。ハヤト様、申し訳ございませんでした」


 フロリアはようやく警戒の色を解き、頭を下げて隼人に謝罪した。

 隼人はほっとしたように肩の力を抜き、微笑んで応えた。


「いいんだ、フロリア。俺も急に秘密を打ち明けて驚かせたしな。よろしく頼むよ」


 フロリアも小さく微笑み返し、部屋には再び穏やかな空気が戻った。

 その時彼女の後ろで自動扉がふわりと音もなく開いた。

 振り返りもせず、彼女は優雅に部屋の外へ向かいながら、一礼を忘れなかった。


「少し用事ができましたので、失礼いたします。また後ほどお戻りしますね」


 その言葉と共に、扉が静かに閉まり、部屋には隼人たちだけが残される。

 フロリアの姿が消えると同時に、しばらくの間、妙な沈黙が部屋を満たしていた。


 ふと、エディが隼人の右腕に視線を向け、今にも言葉を飲み込むような表情で考え込んでいる。

 だが我慢しきれなくなったかのように、隼人に向かって唐突に声を上げた。


「なあ、ハヤト……お前、右腕が変なことになってたが、人間じゃないのか!?ずっと普通の奴だと思ってたから、さっきの腕の変化には驚いたぞ!」


 エディの言葉にフィオナも興味津々の目を向け、少し不安そうに隼人の顔を覗き込む。

 隼人は居心地悪そうに眉をひそめ、視線を落として答えた。


「……俺も、あまり知られたくなかったんだ。みんなに誤解されるかもしれないし、正直、どこかで引かれるんじゃないかって……」


 エディはしばらく黙ったまま、隼人の表情をじっと見つめていたが、やがて考えを巡らせるように顔を上げ、少し笑みを浮かべながら語り始めた。


「……まあな、そんな事情があるなら、黙ってた理由も分かる。隼人、お前がこのことを話したくなかった理由もな。でも、お前が俺たちに何か危害を加える気がないってことはわかってるよ」


 エディは一呼吸置いてから、隼人の肩を叩くように、明るく宣言するように言葉を続けた。


「安心しろよ。事情は聞かないし、この話は俺とフィオナの胸にしまっとく。……仲間だもんな!」


 その言葉に、隼人は思わず安堵と感謝の表情を浮かべ、ほんの少し照れたように微笑んだ。


「……エディ、フィオナ、本当にありがとう。改めて感謝するよ」


 エディは照れ臭そうに笑い、フィオナも優しく微笑んで静かにうなずいた。

 部屋に戻った和やかな空気の中、隼人は心の中で、仲間として彼らが隣にいることの温かさと信頼を深く感じていた。


 その後、エディは何かを思い出したようにしばらく沈黙し、険しい顔で考え込んでいたが、やがてゆっくりと重い口調で口を開いた。


「なあ……結局、この状況をどうやって報告すりゃいいんだ?」


 その問いかけに、フィオナが眉をひそめて応えた。


「ここがかつて栄えた文明の防衛拠点で、しかもその指揮官がノアだったって……そのまま伝えるのも難しいわよね。何より、今回の虫たちの攻撃が、ノアに責任があると解釈される可能性が高いし……」


 リーシャは腕を組み、思案深い表情を浮かべた。


「確かに。ノアが指揮官というだけで、今回の町への攻撃がノアの意思だと捉えられる恐れもあるわ。でも、ノア自身は全くそのことを知らなかったわけだし、責任を負わせるのはどうかと思う」


 エディは頷きながら、難しい顔をして続けた。


「そうだ。仮に報告がそう受け取られたら、ノアの立場が危うくなるかもしれない。……でも、俺たちの信条からすれば、責任を追及するのは違うよな。今までのノアの行動を見れば、誰だって彼女が善意で動いてたって分かるはずだ」


 隼人もその話に加わり、真剣な表情で口を開いた。


「ノアは何も知らずに今まできた以上、彼女に責任を取らせるわけにはいかない。それに、彼女が“マスターユニット”だと知ったのも、俺たちと一緒だ」


 ノアは静かにうなずき、複雑な表情を浮かべていた。

 自分が知らないうちに過去の文明に関わり、無意識に町の攻撃にも影響していた可能性がある。

 その重みに心が揺れていたが、仲間たちの意見を聞いてほんの少しだけ気持ちが軽くなる。


「……みんな、ありがとう」


 エディはノアに頷き返しながら、穏やかな声で答えた。


「いいって。誰だって今まで通り、あんたのことを信頼してるさ。だからこそ、俺たちがどのように報告するか、よく考えないとな」


 彼らは少し肩の力を抜き、穏やかな空気の中で慎重に方針を話し合うことにした。


 隼人たちが報告内容についてあれこれと意見を交わしていると、扉が静かに開き、フロリアが部屋へ戻ってきた。

 自動扉がふわりと閉まる音と共に、彼女はまっすぐ隼人の方に視線を向け、落ち着いた口調で話しかけた。


「皆様、お待たせしました。ハヤト様、少しお話がございます」


 隼人が首をかしげると、フロリアは一瞬振り返り、少し躊躇するような表情を浮かべながらも話を続けた。


「ルクシアとも相談した結果ですが、一度ハヤト様の体の詳細を調べさせていただきたく思います。これは安全のためでもあり、またハヤト様ご自身がどういった構造をお持ちか知るためにも重要な検査になります」


 隼人はその提案に驚きつつも、内心の興味がわき起こるのを感じていた。

 自分自身の体について、隠された謎に対する答えを見つける機会がここにあるかもしれない。


「……わかった。俺も自分の体がどうなっているのか、ずっと気になってたからな。お願いするよ」


 フロリアは微笑みながら一礼し、隼人に手で案内する方向を示した。


「ではハヤト様、こちらの医務室にご案内いたします。他の皆様は、少しの間こちらでお待ちいただけますでしょうか?」


 ノアやエディたちは小さく頷き、隼人に軽く頑張ってと声をかける。

 隼人は少しだけ微笑んで頷き、フロリアの後に続いて部屋を出て行った。


 医務室に足を踏み入れると、隼人の前には既にルクシアのホログラムが待ち構えていた。

 普段の冷静さを保っているルクシアだが、今は明らかに様子が違っている。

 彼の表情には何かしらの高揚感が漂い、隼人の姿を認めると、軽く微笑みながら口を開いた。


「ハヤト様、お待ちしておりました!あなたの構造には未知の技術が含まれている可能性が非常に高く、大変興味深いと判断しています!」


 ルクシアの熱気のこもった言葉に、隼人は思わず少し引き気味に目を瞬かせる。

 その横で、フロリアが冷静に視線を投げかけ、ルクシアにたしなめるような口調で突っ込んだ。


「ルクシア、少し落ち着いてください。ハヤト様を怖がらせてはいけません」


 ルクシアは一瞬だけ表情を引き締め、少しだけ背筋を伸ばすようにして冷静さを取り戻そうとする。

 しかし、その瞳にはまだ隼人の構造に対する興味が消えず、どこか逸る気持ちを抑えられないようだ。


「申し訳ございません、フロリア……。ですが、これは非常に希少な機会でして……」


 再び隼人に向き直ると、ルクシアは多少抑えたトーンで、しかし明らかに期待を込めて話しかけた。


「隼人様、ではこちらの調査用ポッドにお入りください。すぐに詳細な検査を開始いたします!」


 その熱心な言葉に、隼人は再び少し気圧されるが、深く息をついて静かにうなずいた。


「……わかった。そこまで興味を持たれると、さすがに引くけど……まあ、いいだろう」


 隼人はルクシアの視線を受けつつ、調査用ポッドの中に足を踏み入れる。

 ポッドの内部は冷たい光に包まれ、未知の感覚が彼を包み込む。

 彼は自らの謎に触れる予感に胸の鼓動を少し早めながら、ポッドの中で静かに待ち構えた。


 隼人がポッドに入り、準備が整ったことを確認すると、ルクシアの表情にわずかな笑みが浮かんだ。

 彼は隼人に向かって何かしらの興奮を隠しきれず、目を輝かせながら告げた。


「ふふふ、ハヤト様。あなたの身体構造、全て暴いて見せますよ。未知の構造と機能、すべて明らかにいたしましょう」


 その言葉には抑えきれない好奇心と探究心がにじみ出ており、どこか楽しげな雰囲気すら感じられる。

 隼人はその勢いに少し引きつつも、内心は彼女のそのテンションに圧倒されていた。


 一方で、フロリアはルクシアの様子に気づき、ため息をつきながら額に指を当て、苦笑を浮かべる。


「……まったく、ルクシア。少し落ち着きなさい」


 その言葉に、ルクシアは我に返ったかのように表情を引き締めた。

 しかし、隼人の未知の構造に対する興味がやはり抑えきれないのか、再び興奮した様子がちらついている。


「……申し訳ありません、フロリア。しかし、ハヤト様の身体構造は非常に興味深いものであると確信しておりますので、早速開始いたします」


 フロリアは再び苦笑を浮かべながらも、隼人に向かって小さくうなずいた。

 隼人も軽く息をついて彼らのやり取りを見守りつつ、心の中で自身の秘密が解明される瞬間を待ち構えていた。

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