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長き眠りからの起動

 洞窟内に響いた閃光の一撃が収まると、闇の存在は音もなく散り、まるで霧が晴れるように姿を消した。

 隼人たちは、完全に消滅した闇の存在を見つめ、ようやく訪れた静寂に安堵の息を漏らした。


 だが、その光景の中心にいた天使のような存在は、全ての力を使い果たしたかのように、薄れた輝きを身に纏いながら動かずにいた。

 隼人たちは最大限の警戒をしつつ、ゆっくりと天使のような存在に声をかける。


 「大丈夫か?」


 隼人が問いかけると、天使のような存在は疲れた表情でわずかに目を開け、かすれた声で応じた。


「……エネルギーが不足しています……」


 彼の光は弱まり、今にも消え入りそうだ。


「このままでは……自律稼働が不可能……」


 ノアが不安げに顔を覗き込み、そっと尋ねた。

 

「どうすれば助かるの?」


 天使のような存在は少し考え、冷静に口を開く。


「……研究所に『エナジーリレー・コア』があります。それを利用できれば、私の力を回復することが可能です……」


 隼人は小さく頷き、周囲にいるリーシャとエディに目で合図を送る。


「わかった、急いで連れて行こう」


 隼人とノアは、力尽きた天使のような存在に肩を貸しながら慎重に歩みを進めていた。

 彼の輝きは微かで、先ほどまでの強大な力は感じられなくなっているが、その神秘的な姿に全員が敬意を抱きつつ進んでいた。


 天使のような存在が現れた扉の前に来ると、エディが手を挙げて皆を制止した。

 周囲を鋭い目で見回し、何もいないことを確認すると、小さく頷いて一言。


「よし、今のところは安全だな」


 隼人たちは慎重に扉をくぐり抜け、研究所の内部へと足を踏み入れた。

 薄暗い中に機械のかすかな光が浮かび上がり、無機質で静かな空間が広がっている。


 天使のような存在が、かすれた声で呟いた。


「……私を……あちらに、横にしてください……」


 視線の先には、滑らかな金属製の台が設置されていた。

 隼人とノアは彼の希望に応え、そっとその場所へ彼を寝かせるように横たえた。


 天使のような存在は疲れた表情を浮かべながらも、微かに安堵の表情を見せていた。

 天使のような存在を金属の台に横たえた後、隼人たちは一息ついてその場を見渡した。

 天使のような存在は、微かに安堵の表情を浮かべたまま、静かに目を閉じている。

 台の周囲に青白い光がともり、エネルギーが徐々に彼の体へと流れ込んでいくのが見えた。


「……これは……光を吸収している……?」


 リーシャが小声で呟いた。


 エディは目を細め、研究所内の異様な光景に目を向けた。

 壁一面に並ぶ見慣れない機械や、光を放つ複雑なパネル群、そして床を走る発光するラインが、エディたちの知る技術とは全く異なるものだった。

 どこか人工的な冷たさを感じさせ、無機質な空間が広がっている。


「ここ……俺たちの世界の建物とは全然違う。まるで異世界に迷い込んだみたいだな」


 エディが低く呟き、探索を開始する合図を出す。

 隼人も周囲の機械を調べ始めた。

 何かの情報を示すようなホログラムが浮かび上がるも、文字も内容も全く理解できない。

 リーシャが指で触れてみると、画面が反応して光が変化する。


「なに、これ……文字も、意味もわからない……」


 フィオナも別の装置を観察しながら興味深げに言った。

 

「全てが不思議で、どう機能しているのか全く見当もつかないわね」


 天使のような存在が眠るように静かに充電に入る中、エディたちは徐々に異世界の技術を感じさせる研究所の奥へと足を踏み入れていった。

 無機質な空間の中を進むと、いくつかの小部屋が並んでいるのが見えてくる。


 最初に見つけたのは、人が住んでいた形跡が残る部屋だった。

 金属製のシンプルなベッドや、収納スペースが整然と並び、床には書類や不明な装置が転がっている。

 隼人が手に取ってみるも、見慣れない形状で、何に使うのかさっぱり分からない。


「ここに住んでいた人間は一体どんな人だったんだ……?」


 エディが呟き、次の部屋へと足を踏み入れた。


 次の部屋は、簡素ながらも机と椅子が並ぶ休憩室のような場所で、壁には淡い光を放つパネルが埋め込まれている。

 食事スペースや仮眠用の椅子などもあり、ここが居住施設を兼ねていた可能性を感じさせた。

 壁に並ぶパネルは、かつてここで生活していた者たちの痕跡を思わせ、少しの哀愁が漂っている。


 さらに奥へ進むと、研究室とおぼしき部屋にたどり着いた。

 テーブルには様々な装置が並び、天井近くの棚には奇妙なガラス製の容器が幾つも収められている。

 その内の1つには何か液体が入っているようで、光を当てると微かに反応している。


「これが一体、何の研究をしていたのか……」


 フィオナが不思議そうに呟く。


 やがて、廊下の最奥に少し大きめの扉が見えてきた。

 先ほどまで見てきた部屋よりも重厚な造りで、まるでこの施設の中心に位置するかのように存在感を放っている。


「どうやら、ここが一番奥のようだな」


 エディたちは警戒しつつ最奥の部屋へと慎重に足を踏み入れた。

 部屋の中はひんやりとした静寂に包まれており、どこか無機質な空気が漂っている。

 だが、部屋の中央に近づいた瞬間、突然周囲の空間が微かに振動し、何かが動き出したかのように感じた。


 次の瞬間、見えない波動が部屋全体に広がり、彼らの体を一瞬で包み込む。

 全員がその場に立ち止まり、不安げに周囲を見渡した。


「……今の、何だ?」


 エディが眉をひそめたその時、どこかから冷たい機械音声が流れ始めた。


「生命体の反応を確認」

「スキャン実施します……」


 彼らの周りに青白い光が一瞬点滅し、何かが隅々まで全員を調べ上げているような感覚が伝わる。

 フィオナは驚いて一歩後ずさりし、隼人とリーシャも緊張した表情で様子をうかがっている。


「スキャン完了」

「……マスターユニットを確認」

「おかえりなさい、マスター」


 その最後の言葉と共に、部屋全体が徐々に明るくなり、壁や床に埋め込まれたラインが淡い光を放ち始めた。

 まるで長い眠りから覚めたかのように、施設が完全に起動していくのがわかる。装置の一部がわずかに動き、金属的な音が室内に響き渡った。


 エディたちは息をのむようにその光景を見つめていた。

 この施設が隼人たちを「マスター」と認識したことに、全員が静かな衝撃を受けているようだった。


 部屋が明るくなり、壁のラインが光を放ち始めた瞬間、前方の空間に何かが現れ始めた。

 まるで霧が晴れるようにホログラムが徐々に明確になり、やがて大きな顔の映像が宙に浮かび上がる。

 顔は無機質ながらもどこか親しげで、青白い光がその輪郭を描いている。


 ホログラムが完全に姿を現すと、瞳が静かに動き、隼人たちを見渡すように見つめた。

 その視線は温かさと冷徹さが入り混じった、不思議な存在感を持っていた。


「……起動を確認しました。6211年、9か月、3日と101秒ぶりの再稼働です」


 その言葉に、エディたちは驚きの表情を浮かべ、互いに顔を見合わせた。ホログラムは彼らの反応には気づかないかのように続けて話し始めた。


「ようこそ、再びこの施設へ。我が管理システムはこの地での調整・運営を担っております。長き眠りより覚め、ようやく皆様にお目にかかれる機会を得ました」


 ホログラムは口元を緩めるような動きで、笑みとも言える表情を作り出した。

 どこか皮肉めいた雰囲気も感じられるその笑みに、フィオナが小声で呟く。


「6211年……?そんなに昔の施設なの……?」


 しかし、ホログラムは無機質ながらも抑揚のある声で続ける。


「さあ、当施設の機能をご利用ください。我が役目は皆様の指示に従い、支援と情報提供を行うことにございます」


 このホログラムの言葉に、隼人たちは戸惑いを隠せないまま、再び視線を交わし合った。

 予期せぬ長い年月が示すこの施設の謎に、彼らの心は大きな興味と緊張に包まれていた。


 ノアが一歩前に出て、ホログラムに向かって質問を投げかけた。


「この施設は……一体、どんな目的で作られたんですか?」


 ホログラムは微かに目を閉じ、ノアの質問に応えるための言葉を慎重に選ぶように見えた。

 そして、やがて冷静な口調で語り始めた。


「こちらは『対侵略要塞施設』です。かつて我が管理組織は、敵対する存在からこの地域を守るべく防衛拠点を築き、その中枢として当研究所が配置されました」


 その説明に、ノアは思わず息を呑んだ。

 目の前の施設がただの研究施設ではなく、戦いのための要塞として機能していたことに驚きを隠せない。


 ホログラムは続けて、冷静な語調で補足を加えた。


「この研究所は、侵略者への対抗手段として、様々な兵器および防衛システムの開発・調整を行っておりました。また、周囲の防衛システムとの連携も担当していたのです」


 次にリーシャがホログラムに尋ねた。


「じゃあ、あの天使のような存在は何なの?この施設と関係があるの?」


 ホログラムはリーシャの質問に対し、表情を崩さぬまま静かに答えた。


「彼女は当施設の『マスターユニット支援用機動兵器』です。侵略に対する防衛ラインの中核を担い、マスターユニットの保護を最優先とする使命を持っています」


 隼人やエディも、要塞的な役割を持つこの施設とその「天使」のような存在のつながりに、圧倒されながらも深く理解を巡らせていた。


 施設の役割についての説明を聞き終えた後、フィオナがホログラムに向かって一歩進み出た。


「それで……もう1つ確認したいことがあるの。あの、虫のようなものが大量にこの施設から出てきたけど、あれは一体何だったの?」


 ホログラムの瞳が微かに動き、フィオナの質問に反応した。

 彼は冷静な口調で淡々と説明を始めた。


「あれは『No.12シリーズ 虫型機動兵器』です。敵の侵入に対する防衛兵器として当施設内に配備されております。施設起動時、周囲に存在していた身元不明の生命体を敵と判断し、即座に起動しました。」


 隼人たちは、その説明に驚きを隠せない表情を見せた。


 ホログラムは続けて説明した。


「通常、No.12シリーズは施設の外部侵入者に対する防衛ラインを形成し、状況に応じて敵対者を排除する役割を持ちます。今回、マスターユニットからの指示により防衛戦を終了しました。」


 リーシャが小声で驚いたように呟いた。

 

「つまり、私たちも敵と認識されていたってこと……?」


 ホログラムは小さく頷くような動きで肯定し、淡々と視線を彼らに向け続けていた。


「現在、施設は再起動プロセスの一環として外部環境のスキャンを実施しています。今後もマスターユニットの指示によって防衛機能を制御することが可能です。」


 隼人たちは、この施設が持つ強大な防衛システムと、その統制が「マスターユニット」によって行われていたことに驚きながらも、次の行動に向けて考えを巡らせていた。

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