闇との対峙
扉の前で何かがうごめいていた。
微かな光の中で、正体ははっきりとは見えないが、何かがその扉を叩いているのが分かる。
光は薄暗く、影のようなものが動くのが見えるが、その正体を突き止めることはできなかった。
「気をつけろ、何かいる……あの扉の向こうに入りたがっているみたいだ」
エディも警戒を強めながら、槍を構えた。
緊張感が場に漂う。
更に近づき、姿を確認すると、その姿はまるで人型のようだったが、その挙動には何か異様なものが感じられた。
「……あれ、人か?」
エディが小さく呟きながら、警戒心を強めて槍を構えた。
「いや……でも、何かがおかしい」
隼人は剣を握りしめ、慎重に一歩前へ進んだ。
目の前の存在には何か不自然な違和感を感じていた。
――「対象の分析を開始……エラー発生」――
――「対象の特定に失敗。再試行中……」――
――「エラー。情報取得不能」――
「……何だこれは?」
隼人は眉をひそめ、再度目を凝らしてその影を見たが、システムは何の情報も提供できないままだった。
「どうしたの?」
ノアが後ろから心配そうに尋ねた。
「わからない……あれは人のようだが……」
隼人は冷静に応じ、謎の存在に視線を向けた。
その存在は明確には認識できないが、何かが確かにそこにいることだけは感じられる。
「あれ……本当に人間なの?」
リーシャが不安そうに影を見つめながら、金槌を構えた。
彼女もまた、その異様な雰囲気を感じ取っていた。
扉を叩く音はますます強くなり、その存在が何かを焦っているかのように感じられた。
だが、その正体は依然として不明だった。
「とにかく、警戒しながら近づこう。何があってもおかしくない」
隼人たちは足音を殺し、洞窟の奥にある扉へと慎重に歩を進めていた。
扉を叩いていた異様な人型の影は、気配を感じたのか、ゆっくりと隼人たちの方を向いた。
その姿はまるで漆黒の闇が形を成したかのようで、顔の輪郭や手足の細部さえも曖昧だ。
その場にいる全員が、息を呑む。
影の存在は攻撃をしてくるわけでもなく、ただじっとこちらを見つめているだけだった。
まるで、彼らの行動を観察しているような、不気味な静寂が続く。
「なんだ……?動かない……」
エディが小さく呟いた。
隼人は目を細めながら、その闇のような存在に目を離さずにいた。
何かがおかしい、警戒心を強めるが、敵の意図は読み取れない。
仲間たちも緊張を高めていたが、攻撃を仕掛ける気配は今のところない。
「今のうちに……近づいてみよう」
フィオナが慎重に進言する。
隼人が小さく頷き、一歩踏み出す。
リーシャも続いて一歩、さらにノアが後に続いた瞬間――
「――っ!」
突如、闇の影が閃くように動き出した。
その速度は予想を超えており、まるで一瞬で距離を詰めたかのようにノアの方へと疾走していた。
空気が重く沈み、黒い腕のようなものがノアの方へ一直線に襲いかかる。
「ノア、危ない!」
隼人の叫び声が響く。
ノアは驚きに目を見開き、その場に固まったように感じた。
足が動かない――目の前で迫り来る闇の腕が、すぐそこまで迫っている。
隼人は反射的にノアの元に駆け寄り、剣を持つ右腕を振りかざした。
金属の響きと共に剣が闇に触れると、衝撃が走り、腕が痺れるような感覚が全身に広がる。
「くっ……!」
隼人の剣がかろうじて闇の攻撃を逸らすも、その威力は凄まじく、隼人は数歩後退した。
ノアもその場に崩れ落ちそうになりながらも、なんとか持ちこたえる。
リーシャがすぐに隼人の横に駆け寄り、盾のように立ちはだかった。
フィオナは呪文を詠唱しながら、背後で準備を進める。
「ノア、大丈夫か?」
隼人は焦りながらも問いかける。
ノアは荒い息をつきながら、震える手で体を支えて立ち上がろうとしていた。
「……平気、でも……あれ、一体……?」
目の前には再び姿勢を正した闇の影が、冷たい視線を隼人たちに向けていた。次の攻撃に備え、全員が緊張し、戦闘態勢を整える。
隼人は剣を構え、闇の存在に向かって一歩踏み出した。
後ろではリーシャとエディが武器を構え、フィオナが詠唱を続けている。
闇の存在はじっとその場に立ち、まるで挑発するかのように微動だにしない。
「行くぞ!」
エディが叫び、全員が一斉に動き出した。
まず、隼人が一気に距離を詰めて剣を振り下ろす。
剣は風を切り、鋭い斬撃が闇の身体に直撃する――はずだった。
だが、刃はまるで空気を切るように、何の抵抗もなく通り抜けた。
「……くっ!?」
隼人は驚愕に目を見開き、もう一度剣を振り下ろす。
しかし、何度攻撃しても手応えがない。
まるで相手の身体が実体を持っていないかのように、剣は通り抜けてしまう。
その間に、エディが横から槍で突進した。
鋭い一撃は正確に闇の存在を狙っていたが――
「なんだこいつ、槍も……効かない!」
エディの槍も同じように、闇をすり抜けた。
まるで無意味な攻撃のように、何度突いても影のような存在は揺らぐことすらしない。
「フィオナ、頼む!」
隼人は叫び、フィオナの方向を振り返った。
フィオナは即座に詠唱を終え、杖を掲げて高らかに叫んだ。
「ファイアボール!」
燃え盛る火球が勢いよく闇の存在に向かって放たれる。
灼熱の炎が一瞬にして空間を照らし出し、闇に包み込まれた存在に直撃――しかし、その場で消えた。
炎が闇を包んだ瞬間、まるでその炎自体が吸い込まれるように消失した。
「嘘……?炎も効かないなんて……」
フィオナは驚愕の声を漏らす。
次に、水系の魔法も試みたが、同じ結果だった。
すべての攻撃は闇の中で吸収され、跡形もなく消えていく。
「何これ……どんな攻撃も……!」
リーシャも焦りを隠せない。
金槌での攻撃も、まるで相手に当たった感触がないまま虚しく終わっていた。
隼人たちは一斉に距離を取り、闇の存在を睨みつけた。
全力で攻撃を仕掛けたにもかかわらず、その闇はまるで無傷だ。
全員の攻撃が無力化されてしまったことで、緊張がさらに高まる。
「くそ、どうなってるんだ……!?」
隼人の呼吸は荒れ、次の手を考えようとするが、闇の存在は依然として不気味に立ち続けていた。
その目は彼らを冷ややかに見つめ、まるで彼らの力を試しているかのようだった。
全員の焦りが頂点に達する中、次の攻撃の糸口すら見えないまま、闇の存在は再び動き出した――。
その目が鋭くノアを捉える。
「……ノアに狙いを定めた……?」
エディが警戒しながら言葉を漏らす。
その瞬間、闇の影が一気に距離を詰め、ノアに向かって鋭く手を振りかざした。
鋭い風圧がノアを襲い、冷たい闇の手が空気を切り裂く。
「避けろ、ノア!」
隼人が叫び、ノアは反射的に身を翻した。
攻撃は辛うじてかわしたものの、次々と襲いかかる闇の影は止まることなくノアに向かってくる。
「なんで……私だけ……?」
ノアは必死に回避しようとするが、闇のスピードは尋常ではない。
再び攻撃が彼女を捉えようとしたその瞬間――隼人が剣を振り、闇の手を弾いた。
「――!」
剣が闇に触れた瞬間、手応えがあった。
いつものようにすり抜けることなく、確かに剣は闇の手を弾き返している。
しかし、ただそれだけだ。闇の存在にダメージを与えることはできず、攻撃を逸らすのが精一杯だった。
「防御はできる……でも、攻撃は効かない……?」
隼人は必死に攻撃を弾き返すが、それはほんの一瞬の猶予に過ぎない。
次々とノアを狙って襲い来る闇の手に、隼人とリーシャは防御に回るしかなかった。
エディも槍を使ってなんとか攻撃を弾こうとするが、闇の攻撃は尽きることなく、執拗にノアに向かって繰り出される。
ノアは息を切らしながら、必死にその場を逃れようと動き続けていた。
闇の攻撃が迫り来るたび、彼女は身をかわし、時には隼人たちが攻撃を弾き返すことで命拾いしていた。
「……なんで私なの……?」
ノアは苦しげに呟いた。自分だけが狙われている理由がわからず、恐怖が彼女を支配し始める。
隼人もリーシャも、フィオナも、攻撃が効かないこの状況に追い詰められていた。
防御はできるが、相手にダメージを与えることができない。
このままでは、いずれ誰かが倒れるだろう。
「何か……何か突破口はないのか……!」
隼人は必死に考えるが、目の前の闇は彼らの攻撃に一切怯むことなく、ノアを追い詰めていく。




