脅威の去った後
虫型機動兵器の脅威が去り、町は少しずつ静けさを取り戻していた。
住民たちも救援活動が一段落し、復旧作業が始まっていた。
屋敷の一部も大きな被害を受けていたが、壊れていない応接室に、カイエン、ノアの母ミレイ、そして隼人、ノア、リーシャが集まっていた。
瓦礫の山の中、唯一無事だった部屋にそれぞれが腰を落ち着ける。
「ようやく落ち着いたわね……」
ミレイが深い溜息をつきながら静かに言った。
彼女の顔には疲労がにじんでいたが、無事に終わった安堵も感じられた。
「本当に……あの虫たちが何だったのか、まだよくわからないけど、助かって良かった」
ノアも小さく頷きながら、母の無事を確認して安心したように言葉を続けた。
「まさかあれほどの脅威が町を襲うとはな……だが、一体どうやってあれが止まったのか」
カイエンは、静かに応接室の窓から外の町の様子を見つめた。
彼も、突然動きを止めた虫型機動兵器の理由が理解できないまま、不思議に思っていた。
隼人はそれを聞きながら、ノアの方を見た。
彼女が止めた可能性があることはわかっていたが、確証がなかったため、黙ってその様子を見守っていた。
応接室で話が一区切りついた頃、隼人がふと思い出したように口を開いた。
「少し落ち着いたし、もう一度噴水広場に行ってみないか?」
隼人の提案に、ノアとリーシャが顔を上げた。
彼らも広場での出来事が気になっていたが、まだ足を運んでいなかった。
「噴水広場か……実は、今の噴水広場はちょっとした異変が起きているんだ」
カイエンが重い声で話し始めた。
その言葉に隼人たちは興味を引かれたように身を乗り出した。
「異変?」
隼人が問うと、カイエンは続けた。
「広場にある噴水の下には、あの虫が出てきた筒のようなものが地中から現れた影響で、大きな穴が何か所も開いてしまっているんだ。地下にはまだ未知の空間が広がっているらしいが、その全貌は把握できていない」
カイエンは少し眉を寄せながら説明した。
「埋めようにも再びあの筒が出てきては埋めた意味がないからな。今、町ではその地下の探索を進めるために冒険者を募っている。まだ手付かずの部分も多くて、危険が潜んでいる可能性が高いからな」
彼の言葉に、隼人たちはますます興味を抱いた。
「なるほど……」
隼人は腕を組みながら、少し考え込んだ。
「私たちも一応冒険者だし、その募集って今も行われているの?」
リーシャがカイエンに尋ねた。カイエンは頷いた。
「もちろんだ。広場の穴はかなり大きくて複数あり、地下の探索には多くの冒険者が必要だ。もし君たちが参加するなら、すぐに手配もできる」
カイエンはそう言って、手配の準備が整っていることを伝えた。
「それなら……考えてみる価値がありそうだな」
隼人はそう言いながら、広場での探索について真剣に考え始めた。
隼人、リーシャ、ノアの三人は、カイエンの提案を受けて地下の探索に参加することを決めた。
広場前に集合すると、既に多くの冒険者が集まっており、準備が進められていた。
「思った以上に多いな……」
隼人は周囲を見回しながらつぶやいた。
広場には何組もの冒険者チームが結成されており、それぞれが装備を整えて準備に余念がなかった。
「やっぱり、みんな気になるんだろうね。地下に何があるのか……」
ノアも同じように周囲を見渡しながら、少し緊張した面持ちを見せていた。
「私たちも気を引き締めていかないとね」
リーシャは拳を軽く握りしめながら、探索に向けた決意を固めていた。
やがて、広場の担当者が隼人たちの前にやってきて、探索チームを編成するために声をかけた。
「君たちは新人か?」
担当者が書類を確認しながら話しかける。
隼人たちは冒険者としての経験はまだ浅いため、頷いた。
「そうか。なら、ベテランの冒険者とチームを組んでもらうことになる。君たちのチームには、槍使いの男性と魔法師の女性が入る」
そう言って担当者が指し示すと、少し離れた場所に、二人のベテラン冒険者が立っていた。
「やあ、よろしくな」
男性は軽く笑みを浮かべながら近づいてきた。背が高く、筋肉質な体型に長い槍を携えている。
「俺はエディだ。槍使いとして戦闘の前線を担当している。あまり緊張しなくていいから、俺に任せてくれ」
エディと名乗る槍使いの男性は、気さくな雰囲気で隼人たちに声をかけた。
「私はフィオナ。魔法師よ。戦闘の後方支援やサポートを担当するわ」
フィオナと名乗る女性も、冷静な表情で挨拶を交わした。
彼女の持つ杖は、魔力の宿った光を放っている。
隼人たちも軽く自己紹介をすることになった。
隼人は自分の右腕の秘密を隠すため、カイエンから借りた剣を腰に下げていた。
「俺はハヤト。この剣で戦うつもりだ。正直、剣はあまり得意じゃないが……できる限り頑張るよ」
隼人は少し照れくさそうに剣を見下ろしながら言った。
普段の武器とは違うため、やや不安を感じている様子だった。
「私はリーシャ。この金槌が得意武器なの。よろしくね!」
リーシャは大きめの金槌を軽く振ってみせ、元気よく挨拶をした。
彼女の武器は鍛冶職人である父親譲りのものだ。
「私はノア。弓を使って援護射撃を担当するわ」
ノアは背中に背負った弓を示しながら控えめに挨拶をした。
彼女は弓を引く腕に自信を持っている。
エディとフィオナへの挨拶を終え、全員が探索の準備を整えている時に、リーシャがフィオナの持つ杖に興味津々で尋ねた。
「フィオナさん、その杖、魔法が使えるってことですよね?どんな魔法を使えるんですか?」
彼女は魔法師という存在に憧れを抱いているらしく、目を輝かせている。
「ええ、この杖を使って、火系と水系の魔法を使えるわ。それに生活魔術も多少は得意よ」
フィオナは冷静に答えながら、杖の先端に軽く触れた。
そこから小さな火花が飛び散り、すぐに消えていった。
「すごい……魔法が使えるなんて、やっぱりかっこいい!」
リーシャはワクワクした様子でフィオナを見つめ、まるで魔法使いになりたい子供のように興奮していた。
「魔法は確かに便利だけど、使いこなすにはそれなりの魔石と訓練が必要よ。特に戦闘用の魔法はね」
フィオナは少し微笑みながらリーシャに言葉をかけた。
「そうか……でも、いつかは私も魔法が使えるようになりたいな!特に火系の魔法!」
リーシャは笑顔で答え、フィオナに憧れの視線を送り続けた。
そんな事を話しつつ、隼人たちのチームは広場に開いた大穴の1つに向かって移動を始めた。
先頭を歩くのは槍使いのエディで、彼の力強い歩調がチームを率いていた。
「ここが入口か……随分と大きな空洞だな」
エディが呟きながら、ゆっくりと穴の中を覗き込んだ。
中は暗く、下がどれほど深いのか見当もつかない。
「降りるわよ。慎重に進んで」
フィオナが冷静に指示を出し、エディが慎重に先頭を進んで降り始めた。
隼人、リーシャ、ノアも後に続き、慎重に足を運んでいく。
空洞に降り立つと、周囲は完全な暗闇に包まれていた。
音さえも吸い込まれるような静けさが広がり、不気味な空気が漂っていた。
「暗いな……全く見えない」
隼人が前を見つめながら小さく呟いた。
「私が明かりを灯すわ」
フィオナが杖を取り出し、魔法の詠唱を始める。
数秒後、杖の先端から柔らかい光が放たれ、周囲を照らし出した。
「ライト」
その言葉と共に、杖の先から放たれた光は、近くの壁や地面を照らし出した。
空洞は予想以上に広く、ライトの光が届く範囲では、かろうじて岩壁や通路が見える程度だったが、奥までは全く届かなかった。
「少しは見えるようになったけど、これじゃ遠くまではわからないわね……」
フィオナが光を保ちながら辺りを見回しつつ言った。
「十分だ。これで進めるぞ」
エディが言葉を返す。
隼人たちは、フィオナの魔法の光を頼りに、大空洞の探索を続けていくことになった。




