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神々の監視網

 静寂に包まれた薄暗い部屋。

 そこは、何か重々しい空気が漂っているにもかかわらず、どこか居心地の良さを感じさせる場所だった。

 壁一面には幾つもの画面が浮かび、それぞれが異なる世界を映し出している。

 その中の1つ、中央にある画面には隼人たちが旅を続け、ノアの母親が滞在している町に到着しようとしている様子が映っていた。


 部屋の中央には、一人の男がだらしなく座っている。

 彼の姿は一見、リラックスしているように見える。着ているのは、場違いなほどカジュアルなアロハシャツ。

 だが、その目は画面に映し出された映像を鋭く見つめ、時折、眉をひそめていた。


「……思ったより覚醒が遅いですね……ちょっと、調整しなきゃならないかな」


 アロハシャツを着た神様は小さな声でぼやきながら、浮かんでいる画面を指でなぞった。

 指が触れるたびに、画面の中で隼人たちの動きが一瞬、静止したかのように見えたが、すぐに再び動き出す。


 神様はその仕草に何の躊躇もなく、まるで長年慣れ親しんだ手つきで画面を操作していた。

 だが、その穏やかな動きとは裏腹に、目には一瞬だけ冷たい光が宿る。


「もう少し早く進んでもらわないと困るんですよ……ねえ、隼人君」


 神様はまるで画面の中にいる隼人に直接語りかけているかのように言葉を続けた。

 その声にはどこか楽しげな響きがあるが、言葉の裏には何か含みがある。

 まるで自分の手のひらで全てを操っているかのような、自信と余裕が感じられた。


 その時、ふと部屋の隅から微かな音が聞こえた。

 ごく小さな物音だったが、神様はすぐに反応した。手を止め、目を細めて辺りを見回す。


「……ん?」


 男の声には、鋭さが増していた。

 まるで部屋に潜む存在に気づいたかのように。

 だが、視線を向けられたその先、部屋の片隅には何もないように見える。


 しかし、その場所には確かに何者かがいた。

 姿を消し、音すらも立てずに潜んでいたのは、一人の若い神。

 彼は厳格な神様の命令で、このアロハシャツを着た神の動向を監視していた。


 若い神は、盗聴のために独自の能力を使っていたが、神様の気配に気づかれたことを察すると、心の中で冷や汗が流れた。


「なっ……まさか、バレたか……?」


 若い神は内心で焦りながら、息を潜めた。


 アロハシャツの神様は再び口元を歪め、穏やかだが不気味な笑みを浮かべた。


「ソコニ、ダレカイル?」

 

 神様はふわりとした調子で、だがその声には明らかな疑いが含まれていた。


 若い神はその瞬間、逃げるべきだと悟った。

 だが、その決断を下す前に、神様が画面を消して部屋の中心を見渡しながら、カタコトの言葉で声をかけた。


「ハーイ! ユー、ホワット?ナニヤッテルノー?」


 神様は全く威圧感のない調子で若い神に話しかけたが、その鋭い目つきは決して穏やかではなかった。

 若い神は一瞬、動けなくなりそうな感覚に襲われたが、何とか冷静さを保って返事をした。


「……ハ、ハイ! すみません、失礼しました……」


 若い神は能力を解除し、短く挨拶をした後、即座にその場から飛び去ろうとした。


「マタキテクダサーイ! シーユー!」


 アロハシャツの神様は、追いかける気配もなく軽く手を振りながら、逃げ出す若い神を見送った。


 若い神は振り返らずに、ただひたすら逃げるように天界の中を飛び去っていった。

 彼の心は緊張でいっぱいだった。

 まさか、あの気配を察知されるとは思っていなかった。


 逃げる若い神の姿が消えるまで、アロハシャツの神様は鋭い目つきで彼を見送り続けた。

 だが、やがてその姿が完全に見えなくなると、再び気だるそうに椅子に腰掛け、肩をすくめた。


「まあ、核心はばれてないでしょうから、いいでしょう……ふふ」


 そして、再び画面を呼び出し、隼人たちの様子を監視し始めた。

 神々の思惑が絡み合い、彼らの未来に暗雲が垂れ込めるかのように、天界での動きが静かに進行していた。


▼厳格な神様への報告


 天界の中央にそびえる荘厳な大殿堂。

 光り輝く大理石の柱がずらりと並び、神聖な光が天井から降り注いでいる。

 この場所は、天界の最高位に位置する神々が集う神殿だ。

 堂々たる玉座がその中心にあり、そこには一人の神が鎮座していた。


 玉座に座る神は、威厳に満ちた表情で前を見据えていた。

 その眼差しは、天界の広大な領域とその下に広がる無数の世界を統括する存在のような重みを感じさせる。

 彼の前に、若い神が一人跪いていた。

 つい先ほど、アロハシャツを着た神の動向を監視して戻ってきたばかりだ。


 若い神は緊張感に包まれながら、報告を始める。


「神様、ご命令に従い、アロハシャツの神の動向を監視して参りました。しかし……途中で彼に気づかれてしまい、完全な監視を続けることはできませんでした」


 若い神の声には焦りと申し訳なさが滲んでいた。

 彼は報告を続けるが、額には冷や汗が浮かんでいる。

 天界におけるこの場での失敗は重大なものであり、軽々しく許されるものではない。

 彼は、失敗を報告するたびに、心の奥底に重いプレッシャーを感じていた。


 玉座に座る神様は、じっと若い神の言葉を聞いていた。

 彼はすぐには言葉を返さず、数秒間の沈黙が場を支配した。

 堂々としたその姿からは、あたかも彼がすべての出来事をすでに把握しているかのような威厳が感じられる。


「……気づかれたのか」


 神様の声は低く、だが圧倒的な威厳を持っていた。

 まるで空気が震えるかのようなその言葉に、若い神は再び身を引き締めた。


「それでも戻り、報告を怠らなかったことは評価しよう。しかし、肝心の情報は得られたのか?」


 若い神は神の声に応じるように深く頭を下げ、息を整えた。


「はい。彼は、隼人の覚醒が遅れていることに対して不満を漏らしていました。また、“調整”を行うつもりだと……その言葉には、何か不穏なものを感じました」


 若い神の報告に、神様の顔に微かな変化が現れた。

 覚醒の遅れ、そして“調整”という言葉が、何か重大な計画を暗示していることを理解したのだ。

 神の表情は鋭さを増し、しばらく思索に沈んだ。


「調整か……奴が何をしようとしているのかは、まだ読み切れぬ。しかし、今後の事態に影響を与える可能性は高い」


 神様はゆっくりと立ち上がり、その威厳をさらに増していった。

 玉座の前に立つと、まるで天界全体を見渡すかのように周囲を見回し、再び口を開く。


「奴は油断ならぬ存在だ。今後も目を光らせ続けなければならない。隼人が覚醒することで、我々の計画が成功に向かうのか、それとも破滅を迎えるのか、すべてはそこにかかっている」


 若い神はその言葉を重く受け止め、再び深く頭を垂れた。

 自分の任務がいかに重要なものであるかを理解し、失敗が許されないことを改めて実感していた。


「次は気を抜くな。奴は何かを隠しているに違いない。アロハシャツの神の行動を今後も監視し、異常があれば即座に報告しろ」


 厳格な神様の言葉は、若い神にさらなるプレッシャーを与えるものであったが、同時に彼を鼓舞する力を持っていた。

 若い神は深く頷き、決意を新たにした。


「かしこまりました。次こそ、必ず有益な情報を持ち帰ります」


 若い神は玉座に座る神に向かって最後の礼を述べ、再び天界の広い廊下を歩いてその場を後にした。

 その背中には、緊張と共に、次の任務への強い意志が表れていた。


 荘厳な空間に、再び静けさが戻る。玉座に戻った神様は、何かを考えながら遠くを見つめていた。

 隼人の覚醒を巡る神々の動きは、ますます複雑に絡み合い始めていた。

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