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旅への決断

 隼人たちは領主との面会を終え、再び馬車に乗り込んだ。

 夕方の陽が傾き、館の壮大な姿が次第に遠ざかっていく中、馬車は静かに街へと向かって進んでいた。

 馬車の揺れに合わせて、外の風景がゆっくりと流れていく。


 ノアは窓から外を眺め、少し安堵した表情を浮かべていた。


「領主との面会、なんとか無事に終わったね……」


 彼女の声には、面会が終わったことへの安心感がにじんでいた。

 隼人も少し肩の力を抜いて頷いた。


「そうだな。思ったよりも大きな問題にはならなかったけど、やっぱり緊張したよ」

「でも、ちゃんと礼儀を守って話せてよかった。マナー講師に教えてもらって正解だったね」


 ノアがほっとした様子で言うと、隼人も微笑みを浮かべた。

 その時、リーシャが隣に座っていた隼人に小声で話しかけてきた。


「ねえ、隼人……透明化するヴォルクハウンドのこと、本当に話さなくてよかったの?」


 リーシャの声には少し疑問が含まれていたが、それでも慎重に言葉を選んでいた。

 彼女は透明化するヴォルクハウンドの件を隠したことに対して、まだ不安があるようだった。


 隼人は一瞬、外の風景を見つめたまま返事をしなかった。

 彼も迷っていたが、最終的に冷静に答えた。


「……あの話は今しなくてもいいと思った。エルミオンがどんな人物なのか、まだ完全にはわからないし、今は様子を見た方がいい。それに、透明化するヴォルクハウンドの魔石もないしな」


 隼人の声は静かだったが、確信を持っていた。

 透明化する魔獣の存在は、領主にとって有益な情報である可能性があるが、魔石を持っていない現状では話しても証拠がない。

 さらに、それを話すことでどんな結果を招くかもわからない。


「そうね……でも、もし何かあったらすぐに話すべきかもね」


 リーシャは不安そうにしながらも、隼人の判断に納得した様子で頷いた。


「そうだな。エルミオンが本当に信用できるか、もう少し見極める必要がある」


 隼人はそう言いながらも、心の中ではエルミオンの意図を見抜こうとしていた。

 透明化するヴォルクハウンドの情報を出すには、まだ時期が早いと感じていた。


 馬車は静かに街へと戻り、夜の帳が降り始めた頃、彼らは再び宿の前に到着した。

 隼人たちは馬車を降り、夜の街の静けさに包まれながら宿へと戻った。


「さて、今日は少し休んで、明日に備えよう」


 隼人が軽く言うと、ノアとリーシャも疲れた様子で頷いた。


 こうして、隼人たちは領主の館での面会を終え無事に宿へと戻ったが、透明化するヴォルクハウンドの件は、まだ彼らの中で謎を残したまま静かに封じられた。


 宿に戻った隼人たちは、それぞれ部屋で少し休んだ後、食堂に集まり、これからのことについて話し合った。

 夕方の穏やかな光が窓から差し込み、街は徐々に静まっていった。


 隼人は、エルミオンとギルドマスターとの面会を振り返りながら、どこか気まずそうに話し始めた。


「そういえば、ギルドマスターが言ってた『アルテウム・ギア』って話……あれがどうも気になってるんだ。王族だけが使う特殊な装備で、今回の魔石と関係があるらしい」


「アルテウム・ギア……確か、ギルドマスターがそう言ってたわね」

 

 ノアが軽く頷いて応じた。


「そうなんだ。それで思ったんだよ。俺、自分が起動兵器だってこともあって、その『アルテウム・ギア』が自分に関係してる可能性があるんじゃないかって。王都に行けば、もっと詳しい情報が得られるかもしれないと思う」


 隼人は少し考え込むように腕を組みながら続けたが、同時に心に引っかかっているものがあった。

 それは、エルミオンに対して嘘をついたことだ。

 ヴォルクハウンドの透明化の件を話さなかったことに対する後ろめたさが、じわりと心を押しつぶそうとしていた。


「それに……エルミオンに対して、なんだか後ろめたい気持ちがあるんだ。俺たち、あの時『何もなかった』って言っちゃったから……ちょっとこの町にいるのが気まずい気もしてきてさ」

 

 隼人の口から漏れた言葉には、彼自身の正直な感情がにじみ出ていた。


 ノアがその言葉に反応し、少し表情を曇らせた。


「そうね、私も少し後ろめたい気持ちはある。あの時話すべきだったかもしれないけど、エルミオンさんがどれだけ信じられるか分からなかったし……だから、話さない方が良かったんだと思う」


 リーシャが軽く頷いて、落ち着いた声で言った。


「でも、こうして何かを隠してしまった以上、少し距離を置いた方が良いのかもしれないわね。王都に向かうのは、情報を集めるだけじゃなくて、少し気分を変えるためにもいいんじゃない?」


 隼人はリーシャの言葉に感謝しながら微笑んだ。


「そうだな、少し町を離れて、頭を冷やすのも悪くないかもしれない。王都には色々な情報が集まっているだろうし、俺たちがここで得られなかったものが見つかるかもしれない」


 ノアが頷きながら、考え込むように口を開いた。


「それなら、王都に向かう途中で、私の母さんが帰省している町にも寄ってもいい?久しぶりに会いたいし、少しだけ様子を見に行きたいの」


 隼人はその言葉に軽く頷いた。


「もちろん、寄っていこう。町を離れるついでに、そういう寄り道もいいんじゃないか?時間も調整できるだろうし、気持ちも整理できると思う」


 ノアはほっとしたように微笑んだ。


「ありがとう。それなら、王都に行く前に母さんに会っておこうと思う」


 リーシャも軽く笑いながら、旅の計画を進めるように言った。


「それなら、町を離れて少しゆっくりできるかもしれないわね。途中で寄り道して、少し落ち着いたら、王都に向かう準備を進めましょう」


 隼人は二人の意見を聞いて、旅の計画に柔軟さを持たせることを決めた。


「よし、じゃあまずはノアの母親がいる町に向かって、その後王都に行こう。何が待っているかわからないけど、そこで得られる情報はきっと重要だ」


 リーシャも明るい表情で賛成した。


「新しい冒険が待ってるわね。それに、少し気分転換にもなるわ」


 こうして、隼人たちは少し町を離れ、気持ちを整理するための旅を始めることを決意した。

 エルミオンに対して嘘をついた後ろめたさを抱えつつも、次の目的地へ向け、新たな一歩を踏み出そうとしていた。

 

 隼人たちは、王都への旅を考えつつも、まずは準備を整えるために数日間ギルドの依頼をこなすことにした。

 朝早く、彼らはギルドに立ち寄り、受付嬢に挨拶をする。


「おはようございます、ハヤトさん、ノアさん、リーシャさん。今日は何かご用ですか?」

 

 受付嬢はいつものように、優しい笑顔で迎えてくれた。


「おはよう。実は、しばらくこの街を離れる予定があるんだけど、その前にいくつか依頼をこなしておこうかと思って」

 

 隼人は少し曖昧に言葉を選びながら、旅の準備を匂わせた。


「しばらくこの街を?もしかして……どこかへ?」

 

 受付嬢は少し驚いたように、彼の言葉を引き出すように尋ねた。


「そうだな、実は近いうちに王都へ向かうつもりなんだ。ただ、すぐにというわけじゃなく、まだ準備が必要でね。数日間、ギルドの依頼をこなしながら、旅の準備を進めておこうと思ってる」

 

 隼人は控えめに笑みを浮かべ、旅の予定を説明した。


 受付嬢はそれを聞いて少し寂しそうな表情を浮かべたが、すぐに笑顔に戻った。


「王都へ向かうんですね……。寂しくなりますね。ハヤトさんたちがいなくなるなんて、ギルドも少し静かになりそうです」


 彼女は冗談交じりに言ったが、その中には本当に隼人たちがいなくなることを惜しむ気持ちが込められていた。


 ノアが軽く笑いながら応じた。


「そう言ってもらえると嬉しいです。でも、まだしばらくはここにいるから安心してください。王都に行く前に、少し依頼をこなして準備を整えようと思ってるんです」


「そうなんですね。それなら少し安心しました。では、いくつかの依頼をお受けになるということですね。ちょうど短期間で終わるものもありますので、どうぞ確認してください」


 受付嬢は依頼票を差し出し、隼人たちはその中から数日でこなせる依頼を確認した。


「この小型モンスターの駆除や、森の調査なんかは短期間で片付けられそうですね。どちらも報酬はそこそこありますし、準備にも余裕ができると思います」


 リーシャが楽しそうにその依頼票を確認して提案した。


「じゃあ、この駆除の依頼がいいんじゃない?モンスター退治なら、王都に行く前のいい経験になるわ」


 隼人はリーシャの提案に頷きながら依頼を引き受けることに決めた。


「よし、じゃあこの依頼をやってみよう。数日間はこんな感じで準備しながら、少しずつ進めていこうか」


 受付嬢は少し寂しげな笑顔を浮かべながら応じた。


「それでは、詳細はここにあります。ハヤトさんたちがいなくなる日が来るまでは、ギルドのためにぜひお力をお貸しくださいね。」


 こうして、隼人たちは旅の準備を進めつつ、ギルドの依頼をこなしていくことになった。

 彼らは次のステップに向けて、余裕を持ちながら準備を進める決意を固めた。

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