領主からの招集
次の日、隼人たちはギルドへ向かい、いつものように受付嬢に声をかけた。受付嬢は微笑みながら彼らを迎えた。
「ハヤトさん、ノアさん、リーシャさん、ちょうど良かったです。ギルドからお伝えしたいことがあります」
隼人たちは受付嬢の言葉に耳を傾けた。
「領主との話し合いがようやくまとまりました。招集日は一週間後です。その間に、準備を整えておくようにとのことです」
隼人は腕を組みながら軽くため息をついた。
「一週間後か……思ったより早いな」
ノアが笑みを浮かべながら隼人に目を向ける。
「領主に会えるのは滅多にないことだから、これは大きな機会だよね」
リーシャも少し心配そうな顔をして、声を上げた。
「領主に直接会うなんて、ちょっと緊張しちゃうな……」
隼人はリーシャを安心させるように微笑んだ。
「まあ、何とかなるさ。準備さえしっかりしておけば大丈夫だろう」
ノアが少し考え込んだ後、ふと気が付いたように隼人に尋ねた。
「そういえば、どんな服装をしていけばいいんだろう?普通の服でいいのかな?」
「そうだね……」リーシャも同意するように頷いた。「あと、マナーとかもちゃんと知らないとまずいかも……。何か特別なこととかあるのかな?」
受付嬢は、隼人たちの疑問に答えるように柔らかく微笑んだ。
「服装については、あまり堅苦しいものではなくても構いません。ただ、なるべくきちんとした身なりで来ていただければ、礼儀を示すことになります。男性なら襟のあるシャツやジャケット、女性なら落ち着いたドレスが一般的です」
隼人は少し難しい顔をして、ノアとリーシャを見やった。
「襟のあるシャツとか、そんなに持ってないんだけどな……。まあ、何とか用意するか」
リーシャが心配そうに続けた。
「マナーとか……大丈夫かな。何か特別に気をつけることってありますか?」
受付嬢は軽く頷いて言った。
「基本的な礼儀作法さえ守っていただければ問題ありません。領主は格式高い方ですが、緊張しすぎる必要はありませんよ。ただ、最初に挨拶をきちんとして、目を合わせて会話することを心がけてください」
ノアが少し安心したように息をつき、笑みを浮かべた。
「ふう、それならなんとかできそうかな……」
隼人も彼女の笑顔を見て、軽く頷いた。
「よし、準備を整えておこう。服装やマナーのことも気をつけておくよ」
「それじゃあ、一週間後に向けて万全の準備をしましょう。領主との面会を楽しみにしていてください」
受付嬢が隼人たちを見送るように微笑んだ。
隼人たちはギルドを後にし、それぞれの準備に取り掛かることを決めた。
領主との面会までの一週間、隼人たちは準備に追われた。 まずは服装を整えるため、隼人たちは街の礼服店を訪れた。
「ハヤト、これどう?」
ノアが隼人に向けてシンプルな白いドレスを持ち上げた。
「うん、似合ってるんじゃないか?」
隼人は頷き、照れくさそうに笑った。
「でも、もう少し派手でもいいかもしれないな。領主に会うんだし」
リーシャは店の奥でアクセサリーを物色していた。
「アクセサリーも必要よね。こんな感じの、どうかしら?」
リーシャが持ってきたのは、小さな宝石があしらわれたシルバーのネックレスだった。
「いいんじゃないか。それなら目立ちすぎないし、上品だ」
隼人は同意しながらも、自分の格好に悩んでいた。
「俺も何かちゃんとしたのを買わないとな……。このシャツで大丈夫かな」
店の店員が寄ってきて、笑顔で提案してくれた。
「お客様、こちらのジャケットはいかがでしょうか?少しカジュアルな雰囲気でありながら、しっかりとした印象を与えますよ」
「なるほど、これなら動きやすそうだし、悪くないな」
隼人は試しにジャケットを羽織り、鏡の前に立った。
「これで準備はだいぶ整ったね」
ノアが満足そうに言ったが、ふと何かを思い出したように表情を曇らせた。
「でも……私たち、ちゃんとしたマナーとか知ってるのかな?領主に会うなんて初めてだし、失礼があったらどうしよう……」
リーシャも不安そうに頷いた。
「確かに、マナーは大事よね。誰かに教えてもらわないと……」
隼人は考え込んだ後、ギルドの受付嬢に相談することを提案した。
「じゃあ、一度ギルドに戻って受付嬢に聞いてみよう。彼女なら何か知ってるかもしれない」
その日の午後、隼人たちは再びギルドを訪れ、受付嬢に声をかけた。
「ハヤトさん、何かお困りですか?」
受付嬢は微笑んで彼らに応対した。
「実は、領主に会うってことなんですが、俺たち、マナーとかちゃんとできてるのかやっぱり不安で……」
隼人は少し恥ずかしそうに言った。
受付嬢は優しく頷いて、彼らの心配を理解した様子だった。
「それなら、マナー講師を紹介しますよ。彼女は街で評判の講師で、短時間でも基本的なことは教えてくれると思います」
「本当ですか?助かります!」
ノアがほっとしたように笑顔を浮かべた。
翌日、隼人たちは紹介されたマナー講師のもとを訪れ、短時間ながらも基本的なマナーを学んだ。
食事の際の礼儀作法や、領主との対話での注意点など、しっかりと指導を受けることができた。
「ふう、なんとか基本的なことは覚えたかな」
隼人が少し汗をぬぐいながら言った。
「これで少しは安心できるね」
ノアも頷きながら、練習したことを振り返っていた。
リーシャも満足そうに頷いた。
▼領主の館へ
領主との面会の日がついに訪れた。
隼人、ノア、リーシャの三人はそれぞれ準備を整え、今泊まっている宿の前で緊張しながら待っていた。
領主が手配してくれた馬車が、早朝にもかかわらず館までの道のりを迎えに来てくれるらしい。
「領主の館に行くなんて、初めての経験だね……」
ノアが緊張した様子でつぶやいた。
彼女はシンプルながらも上品な白いドレスを身にまとい、普段の彼女とは違った姿を見せていた。
「そうだな。こうして正式に招かれるのは、俺たちにとっても大きな経験だ」
隼人も襟のあるシャツとジャケットを整えながら、心を落ち着けようとしていた。
「でも……馬車まで迎えに来てもらえるなんて、少し恐縮しちゃうよね」
リーシャもアクセサリーを控えめに光らせながら、少し照れくさそうに微笑んだ。
その時、宿の前に立派な馬車が到着した。
黒く光沢のある車体に、立派な装飾が施されており、一目で領主の館へと向かうための馬車だとわかる。
「お迎えに上がりました。どうぞ、乗車ください。」
馬車の御者が礼儀正しく声をかけ、隼人たちはそれぞれ馬車に乗り込んだ。
車内も豪華でありながら落ち着いた装飾が施されていて、緊張を和らげるような雰囲気が漂っていた。
馬車が静かに動き出すと、ノアが少しほっとした表情でつぶやいた。
「少し緊張してたけど、こうして座ってると少し落ち着くね」
「そうだな。きちんとした礼装で来てよかった」
隼人は馬車の窓から外を見つめ、街が徐々に遠ざかっていくのを感じながら、心を落ち着けようとした。
しばらくすると、馬車は領主の館の前に到着した。
館は威風堂々とした佇まいで、その壮大さに隼人たちは圧倒されていた。
大きな門が開かれ、彼らを迎えるように館の使用人たちが整列していた。
「ようこそ、領主様がお待ちしております」
使用人たちの丁寧な挨拶に導かれながら、隼人たちは館の中へと足を踏み入れた。
館内は豪華だが、どこか落ち着いた雰囲気があり、ただの威圧感だけではない、上品さが漂っていた。
「すごい場所だな……」
隼人は静かにそうつぶやきながら、館内の細やかな装飾や彫刻を眺めた。
「うん……なんだか、別の世界に来たみたい」
ノアも同様に周囲を見回し、緊張を隠せない様子だったが、同時にその美しさに見惚れていた。
「ここで失礼のないように、ちゃんと気をつけないとね」
リーシャが小声で隼人とノアに言い、三人は身を引き締め直した。
扉が静かに開かれ、広い応接室の中に領主が待っていた。
高貴な雰囲気を漂わせながらも、彼は柔らかな笑みを浮かべ、落ち着いた声で話し始めた。
「初めてお目にかかる。私はこの領地を治めているエルミオンと申す者だ。遠くから来てくれた君たちに感謝している。」
領主、エルミオンは優雅に頭を下げ、自己紹介をした。
その姿には高貴さだけでなく、どこか親しみやすさも感じさせた。
「お会いできて光栄です、エルミオン様。」
隼人が深く一礼し、自らの名を告げた。
「私は隼人と申します。この度の魔石の件でお世話になっております。」
続いて、ノアが続けて一礼しながら自己紹介をした。
「ノアと申します。隼人さんと共に魔石の回収を行いました。よろしくお願いします。」
最後にリーシャが少し緊張しながらも笑顔で言った。
「リーシャです。私も彼らと共に行動しておりました。どうぞよろしくお願いいたします。」
エルミオンは満足そうに頷き、彼らを座るよう促した。
「座ってくれ。君たちには大いに感謝している。特に、今回の魔石の回収は大変貴重なものだ。魔石について、もう少し詳しく聞かせてもらえないか?」
領主は深い声で語りかけ、隼人たちの顔を見回した。
隼人は少し息を整え、今回の魔石回収の経緯を1つ1つ説明し始めた。
彼らがどのようにして魔石を発見し、異常な魔獣との戦いに挑んだのかを語った。
エルミオンは隼人たちの話をじっくりと聞き終えた後、微笑みながらゆっくりと頷いた。
その目には明らかな満足感が漂っていた。
「なるほど……非常に興味深い話だ。君たちが発見した魔石、そしてその魔獣に関する報告は、私にとって非常に大きな意味を持つ。領地においてこれほどの異変が起きたのは実に異例なことだが……」
エルミオンは軽く笑みを浮かべ、隼人たちに感謝の意を示すように続けた。
「正直なところ、君たちがあの魔石を回収してくれたことで、私も大いに助かった。今回の件は、王族への献上品としても大変価値のあるものだ。私としても、非常に大きな利益を得ることができるだろう。」
彼は満足そうに目を細め、少し肩の力を抜くような雰囲気で言った。
「いやぁ、君たちのおかげで私の立場もかなり良くなりそうだ。正直、こういう異変は頭を抱えることが多いんだが、今回はまさに『棚ぼた』というやつだな。」
隼人は彼の率直な言葉に少し驚きつつも、軽く笑って頷いた。
「それはよかったです。私たちはただ、その場でできることをしただけですけど。」
エルミオンは隼人の言葉に軽く手を振って応じた。
「謙遜することはない。君たちの行動がなければ、ここまでうまく運ばなかっただろう。特に、この魔石を献上することで、私も王族からの評価が高まる。君たちのおかげで、この領地にさらなる発展の機会が訪れることになるだろう。」
彼は嬉しそうに笑いながら、再び椅子に深く座り直した。
エルミオンは嬉しそうに笑いながら、再び椅子に深く座り直した。
「いやぁ、今回の件は本当に助かったよ。君たちのおかげで、王族に対する顔が立つし、領地も安泰だ。しかし……他に何か気になることはなかったか?」
彼は軽く首を傾げながら、隼人たちを見つめた。
その視線は柔らかいものだったが、どこか鋭い観察眼を感じさせた。
隼人は一瞬、どう答えるべきか迷った。
何も隠すことはないようにも見えるが、あの透明化するヴォルクハウンドの件を話すべきかどうか、判断が難しかった。
ノアが小さく息を吸い、隼人に目を向けた。
彼女も同じく迷っているのがわかった。
リーシャも緊張した表情で隼人に視線を送ってくる。
「……いや、特に他に変わったことはありませんでした。」
隼人は穏やかな声でそう答えた。
できるだけ自然に、エルミオンに疑念を抱かれないよう気をつけたが、内心では慎重な気持ちが渦巻いていた。
エルミオンはしばらく隼人の顔をじっと見つめていたが、やがて笑みを浮かべた。
「そうか、特に問題がなかったのならそれで良い。まあ、こういう異変が起こるのは珍しいことだからな。これからも警戒はしておいた方が良さそうだ。」
彼の声はどこか軽いが、意味深な響きが含まれていた。
隼人はエルミオンが本当に信頼できる人物なのかどうか、まだ見極められないと感じた。
「はい、それはもちろんです。何かまた異常が起きたら、すぐに報告します。」
隼人はそう返答したが、ヴォルクハウンドの件を話すことは避けた。
透明化する魔獣の存在は、更なる厄介ごとに繋がる可能性が高い。
エルミオンにすべてを話して良いのかどうか、まだ判断するには早すぎると感じたのだ。
ノアとリーシャもそれに続くように軽く頷き、エルミオンに笑顔を向けた。
「わかった。君たちには今後も頼りにしているから、何かあればすぐに知らせてくれ。」
エルミオンは軽く笑いながらそう言い、話を締めくくった。




