依頼:見えない脅威
隼人たちはギルドマスターの部屋を後にし、再び依頼掲示板の前に立った。
だが、すでにギルド内はかなりの賑わいを見せており、掲示板に貼られた依頼は少なくなっていた。
ノアが掲示板をじっと見つめながら、肩を落とした。
「結構時間が経っちゃったから、もういい依頼が残ってないね……」
リーシャも同じく掲示板を見て、少し不満そうに言った。
「そうね。あんまり報酬が良さそうな依頼は残ってないみたい」
隼人は肩をすくめて笑った。
「ギルドマスターに呼ばれてたから仕方ないさ。それに、報酬が少なくても、何かやることがあればいいだろう」
ノアは笑いながら頷いた。
「そうだね。でも、もう少し面白い依頼があったらいいんだけど……」
その時、受付嬢が慌てた様子で隼人たちに近づいてきた。
「隼人さん、ノアさん、リーシャさん、すみません!先ほどギルドマスターに呼ばれていた間に、他の冒険者がほとんどの依頼を受けてしまって、残りが少なくなってしまったようです。ご不便をおかけして申し訳ありません」
ノアは優しい笑顔を見せて、気にしないように言った。
「大丈夫ですよ。ギルドマスターに呼ばれていたのは私たちですし、仕方ないことです」
受付嬢はほっとした表情を浮かべたが、続けて言った。
「実は、ギルドマスターからの指示で、あなたがたに特別な依頼を出すことになりました。魔石の話し合いはまだ時間がかかるとのことですが、その間、指名依頼という形でお手伝いをお願いしたいのです」
隼人は少し驚いた顔をして尋ねた。
「指名依頼?それはどういう内容なんですか?」
受付嬢は書類を取り出し、説明を始めた。
「森とは反対側にある街道で、最近モンスターの出現が報告されています。『ヴォルクハウンド』と呼ばれる狼のような獰猛な生物です。この街道を通る商人たちが襲われていて、被害が広がっています。範囲が広いので、数日かかるかもしれませんが、討伐をお願いしたいのですが、いかがでしょうか?」
隼人たちは顔を見合わせ、リーシャが少し考え込んだ。
「ヴォルクハウンドか……それは危険そうだけど、やりがいがありそうね」
ノアも頷き、興奮した様子で言った。
「面白そう!数日くらいなら問題ないし、ちょうどいいかも」
隼人は二人の反応を見て、軽く笑みを浮かべた。
「俺たちで引き受けるか。街道の安全を守るのも立派な仕事だ。行こう」
受付嬢は笑顔を見せ、依頼書を手渡した。
「ありがとうございます。ヴォルクハウンドはとても強力なモンスターですが、あなたたちならきっと大丈夫でしょう。準備が整ったら、出発してください」
隼人たちは依頼書を手にし、次の冒険に向けて気持ちを引き締めた。
▼ヴォルクハウンド討伐の準備
依頼を受けた隼人たちは、準備のために町の道具屋や武器屋を訪れ、必要な物資を揃えていた。
ヴォルクハウンド討伐はただのモンスター討伐とは違い、数日間にわたるとの話だったので、しっかりとした準備が必要だった。
「食料はこれで十分かな?」とノアがリュックを背負いながら確認する。
リーシャは自身の体より大きなバックパックを背負いながら真剣な顔つきで道具屋の店先で手に取ったポーションを見ながら、慎重に頷いた。
「何日かかるかわからないから万全を期したほうがいいわ。今回の討伐対象のヴォルクハウンドは集団で襲いかかってくることが多いって聞いているから、ポーションは多めに持っておいたほうがいいかな」
隼人もリュックを背負い、道具や装備を最終確認していた。
「ポーションもそうだが、食料の準備も出来たし、これでほぼ準備は完了だな」
三人は準備を整え、いよいよ出発の準備が完了した。
▼街道への出発
翌日、隼人たちは街を出発し、指名依頼で指定された街道へと向かって歩いていた。
空は澄み渡り、柔らかな日差しが彼らを包む。だが、徐々に森が深くなり、街道も少しずつ険しさを増してきた。
「ここから先でヴォルクハウンドが出没している地域だってね」ノアが地図を確認しながら言った。
リーシャは周囲に警戒しながら歩き、すでに緊張感が漂っているのを感じ取っていた。
「昼間でも油断はできないわね。夜になればさらに危険が増すから、できるだけ明るいうちに進めるところまで進みましょう」
隼人は周囲を警戒しながら、リーシャの言葉に同意した。
「そうだな。夜になったら確実に守りを固める必要がある。今はなるべく進めるんでキャンプができそうなところを探そう」
三人は険しい街道を進みながらも、周囲に警戒を怠らず、注意深く歩を進めていった。
街道を歩み続けていると夕暮れが街道に静けさをもたらし、空がゆっくりと赤く染まっていく。
隼人たちは適切な野営地を見つけるために少し歩みを早めた。
「この辺りでキャンプを張るのが良さそうね」とリーシャが地形を確認しながら言った。
ノアは周囲を見渡しながら、「ここなら見晴らしも良いし、周りからの襲撃も防ぎやすいね」と賛成した。
三人は協力してキャンプの準備を始め、火を起こして食事を取ることにした。
まだヴォルクハウンドの姿は見えないが、彼らはヴォルクハウンドの夜襲に備えるため、見張りを立てることにした。
「じゃあ、今回も俺が最初の見張りをする。何かあったらすぐに起こすから、二人は先に寝てくれ」
隼人はリュックから防寒用の布を取り出し、ノアとリーシャに渡した。
ノアは隼人を少し心配そうに見つめながら、軽く頷いた。
「分かった。でも、無理はしないでね」
リーシャも深く頷いて、隼人に一言声をかけた。
「もし何かあったら、すぐに知らせて。私たちもすぐに対応できるようにしておくから」
隼人は軽く笑い、二人に優しい目を向けた。
「もちろんだ。安心して休んでくれ」
ノアとリーシャはそれぞれ寝袋に入り、静かに眠りについた。
隼人は彼らの様子を確認してから、自分の役割に集中した。
隼人は目を閉じ、静かに深呼吸をする。意識を集中させると、彼の視界に青白い光が点滅し、次々とコマンドが表示され始めた。
――「周辺環境をスキャン開始」――
目の前に情報が浮かび上がり、システムが静かに起動する。
衛星とのリンクが確立され、周囲の状況が精密にスキャンされていく。
「周囲の状況……よし、異常なし」
隼人は静かに辺りを見渡しながら、衛星のデータを確認した。
木々が風に揺れる音、夜の静寂に溶け込むような動きが感知されたが、それは危険を感じさせるものではなかった。
ヴォルクハウンドの気配も感じられない。
隼人は安堵しつつも、完全に気を抜くことなく見張りを続けた。
夜空には星々が瞬き、冷たい風が静かに肌を撫でる。
何も起こらなければ、このまま夜が明けるだろう。
だが、彼はいつでも対応できるように、集中を維持していた。
▼見えない脅威
夜が更け、静寂が街道を包み込んでいた。隼人は衛星とリンクし、周囲の状況を監視しながら見張りを続けていた。
ノアとリーシャはすでに寝袋に入り、しばらく眠りについていた。
突然、隼人の視界に表示されたシステムが異常を検知した。
――「異常検知……周囲に未確認の反応あり」――
隼人は眉をひそめ、システムの警告に耳を傾けた。
周囲は一見静かで、夜の風がわずかに木々を揺らすだけ。
何も変わった様子は見当たらないが、システムは確実に異常を捉えている。
「……気配がする」
隼人は慎重に周囲を確認しながら、ゆっくりと右腕を構えた。
彼の右腕は静かに変形し、ライフルに変化していく。辺りに目を光らせつつ、彼はノアとリーシャを静かに起こした。
「何かがいる。気をつけろ」
ノアとリーシャはすぐに警戒を始めたが、辺りは暗闇に包まれ、何も見えなかった。
「何かいるの?でも、何も見えない……」ノアが焦った様子で言う。
隼人はシステムに映るヴォルクハウンドを確認しながら、注意を呼びかけた。
「100メートル程先だ。だが、まだ動きがない。警戒を怠るな」
その瞬間、ヴォルクハウンドが突然動いた。
隼人のシステムが素早い動きを感知し、警告を発した。
――「対象が加速中……」――
「来る!」
隼人は叫び、素早くノアとリーシャの二人をかばった。
ヴォルクハウンドの動きは凄まじく、音もなく飛びかかってきた。
しかし、隼人はその動きをシステムで正確に捉え、ギリギリのタイミングで体を動かし、ヴォルクハウンドの攻撃を回避した。
「危ない……!」
かすかな風圧が隼人の頬をかすめ、ヴォルクハウンドの爪が彼のすぐ近くを通り過ぎた。
彼は瞬時に後退し、ノアとリーシャを守りながら距離を取った。
「大丈夫か!?」隼人が緊張した声で問いかけた。
ノアは震えながらも答えた。
「何だったの……今の……何も見えなかった……」
リーシャも息を整えながら、「そうよ、何が襲ってきたの?何も見えない……」と、不安げに言った。
隼人は二人の言葉を聞き、ハッとした。
「……見えないのか?俺の目にははっきりと見えている。オオカミの様だが……、透明化している……?」
隼人は冷静さを取り戻し、システムが捉える透明な敵を再び確認した。
ノアとリーシャには見えないヴォルクハウンドが、闇の中で再び動きを見せ始めていた。




