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休日

 ギルドを後にし、隼人たちは夜の静かな町を歩いていた。

 夜空には星が瞬き、町の灯りがぼんやりと照らしている。

 隼人は体に感じる重さはないものの、心がどっと疲れているのを感じていた。


「今日は……精神的に疲れたな……」


 その言葉にノアが頷きながら宿の方を見上げた。


「ねえ、せっかくだし食堂寄っていかない?ちょっとお腹も空いてきたし」


 彼女の提案に隼人は短く頷き、リーシャも同意した。


「そうだな。少し休もう」


 食堂での食事が進む中、リーシャが隼人に視線を向け、真剣な表情で問いかけた。


「ハヤト、あのイノシシを倒した時のことだけど……あの動き普通じゃなかったわ。あれ、一体何が起きたの?」


 隼人は一瞬戸惑ったが、しばらく考えてから答えた。


「そうだな……、何かに繋がった感覚があって急に頭の中に情報が流れ込んできたんだ。でも、どう説明すればいいのか……自分でも悩んでる」


 リーシャは少し驚いた様子で頷き、興味深そうに隼人の動きについて考え込んだ。


「なるほど……何か特別な力が働いていたのね。それって……新しい装備の影響なの?その新機能についてもっと知りたいわ。あれだけの動きをできるなんて、普通じゃない」


 リーシャの視線は隼人に鋭く注がれていた。

 彼女は隼人の装備やシステムに強い興味を示し、さらに詳しく知りたがっているようだったが、隼人は軽く肩をすくめながら答えた。


「新しいシステムの一部だよ。戦闘中にいろんな情報が流れ込んでくる感じで、即座に対応できるようになってる。でも、まだ俺も完全に理解できてるわけじゃないんだ」


 リーシャは隼人の答えに納得しながらも、その新装備の技術に関心を強めていた。


「なるほどね……情報があれば、戦場で圧倒的な優位に立てるわね」


 隼人は軽く頷いた。

 その後、リーシャは話の流れを切り替えるように、別の質問を投げかけた。


「それにあの巨大なイノシシ……普通の獣とは思えなかった。執念や動きも何か異常だった。何かが影響していたのかもしれない」


 隼人は少し考えた後、ふとノアとリーシャに問いかけた。


「そうだ、『ヴァルゴート・ナノスウォーム』って名前、聞いたことあるか?」


 ノアは首をかしげながら答えた。


「ヴァルゴート・ナノスウォーム? ……ううん、聞いたことないよ」


 リーシャも同じように考え込み、首を横に振った。


「私も聞いたことはないわ。でも、その名前、何か引っかかるわね。今は情報が足りないけど、時間がある時に調べてみるわ」


 隼人はリーシャの言葉に感謝しつつも、考えがまとまらない様子で頷いた。


「頼むよ。俺も何か引っかかってるんだ」


 ノアも少し不安そうな顔をしながら、会話に加わった。


「やっぱり今は魔石の鑑定結果を待つしかないのかな。それが分かればもう少し手がかりが見つかるかもしれないし」


 隼人は話を締めくくるように頷きながら言った。


「そうだな。鑑定結果が出るまで、できる限り情報を集めておこう」


 三人は再び食事を再開し、静かな宿の食堂でそれぞれ今後の行動を考え始めた。


 ▼次の日


 朝食を終え、隼人は何となく体に感じる重さを意識した。

 昨日の戦いは肉体的にはそれほどの負担ではなかったものの、精神的にはかなりの疲労が溜まっている。

 目の前のノアとリーシャも同じように疲れているように見えた為、隼人はふと提案した。


「昨日は色々あったし、今日は少し休もうか?」


 ノアは嬉しそうに顔を輝かせた。


「うん、賛成!たまには休みも必要だよね!」


 リーシャも静かに頷き、微笑みながら言葉を返した。


「そうね。休息も大事な仕事だから、今日は体を休めましょう」


 こうして隼人たちは今日を休日にすることを決め、それぞれの時間を過ごすことにした。


 隼人が宿のロビーで少しのんびりしていると、リーシャがペンと手紙を手にして出て行くのが目に入った。

 彼女が手紙を書く様子を見るのは珍しく、隼人は少し気になったが、特に声をかけることはしなかった。


(リーシャも何か確認したいことがあるのかもしれないな)


 どうやら彼女は父親に手紙を書き、「ヴァルゴート・ナノスウォーム」について確認するつもりのようだった。


 しばらくするとノアも手紙を抱えて宿を出て行った。

 彼女は家族に宛てた手紙を書いていたようだ。

 普段は明るく振る舞っているが、やはり家族のことを気にかけているのだろう。

 隼人はノアが家族へ向けて書いた手紙を送るのを見送り、少し安心したような気持ちになった。


(ノアもしっかりと家族に報告しているんだな。元気でいることを伝えるのは大切だ)


 彼はリーシャとノアの行動に少し微笑みを浮かべ、家族に対する思いを大切にしていることに共感を覚える。


 二人が手紙を出しに行っている間、隼人は町に出て屋台を巡ることにした。

 隼人は町の賑やかな通りを歩き、次々と並ぶ屋台に目を奪われていた。

 焼き立てのパンや甘い香りのするお菓子、そしてジューシーな串焼きが香ばしい匂いを漂わせている。


「こういうのも悪くないな……」


 彼は串焼きを手に取り、焼き加減を確かめながら一口かじる。

 香ばしい肉の味が口いっぱいに広がり、隼人は自然と笑みを浮かべた。

 周囲の賑わいを楽しみながら、彼はもう二本、串焼きを買い足した。


(ノアとリーシャにも食べさせてやりたいな)


 串焼きを手にした隼人がふと顔を上げると、ちょうど手紙を出し終えたノアとリーシャが彼の方へ向かってくるのが見えた。

 二人は手紙を無事に出し終えたようで、軽やかな足取りで歩いていた。


「おかえり。ちょうどいいところだ」


 隼人は買っておいた焼き肉の串を二人に差し出した。


「これ、うまかったから買っておいたんだ。食べてみるか?」


 ノアは目を輝かせながら、すぐに手を伸ばした。


「ありがとうハヤト!おいしそう!」


 リーシャも少し驚きつつ、笑顔を浮かべて串を受け取った。


「気が利くわね。ありがとう」


 三人は一緒に串をかじりながら、しばしのんびりとした時間を楽しんだ。

 忙しい日常から少し離れ、こうして平和なひとときを過ごすのは彼らにとっても大切なリフレッシュだった。


 隼人、ノア、リーシャの三人は買い食いしつつ広場の端の方にあった道具屋へ入ると所狭しと並んだ道具に目を奪われた。

 普段使いできる小物から冒険者が頼りにする装備品まで豊富な品揃えが自慢のこの店は、冒険者たちの間でも評判だった。


 ノアが目を輝かせながら、小さな携帯用火打ち石セットを手に取った。


「これ、便利そうだね!」


 軽くてコンパクトな作りが彼女の冒険心を刺激しているようだった。

 リーシャもその隣でポーチや防水マントを手に取りながら品質を確かめている。


「火を起こすのが簡単にできるのはありがたいわね」


 彼女も感心しながら他の品物にも目を向けている。

 隼人も棚を見回しながら小物を手に取ってその使い道を考えていた。


「こういう基本的な道具は持っておくに越したことはないな」


 三人がそれぞれのアイテムを物色していると、店主がニヤリと笑いながら近づいてきた。


「お客さん、今日は特別なものがあるんだ。ちょっと見てくれよ」


 そう言うと店主はカウンターの奥から一冊の古びた本を持ち出した。

 見た瞬間にただ者ではないことが分かるほど威圧感のある魔導書だった。


 隼人が目を細めて本を見つめた。


「これは……?」


 疑問の声を漏らす隼人に店主は得意げに説明を始めた。


「こいつは『魔導書』だ。今じゃあ魔法を使える奴はほとんどいないが、この本には古代の魔術の知識が詰まってるって言われてる。滅多に手に入らない代物だぜ」


 ノアは興味津々でその本に目を向けた。


「すごい……こんなものがまだ残ってるんだね。でもどうやって手に入れたの?」


 店主はニヤリと笑って肩をすくめた。


「商売の秘密さ」


 それ以上は言わないという態度だったが、ノアはその古びた本の背表紙にそっと触れた。


「ただし、この本は高価だ」と言うと、店主は値札を見せた。


 その額を見てノアとリーシャは思わず息を呑んだ。

 隼人も驚いたが笑みを浮かべながら首を振った。


「これは……さすがに高すぎる」


 ノアも苦笑しながら頷いた。


「うん、さすがにこれは無理だね」


 リーシャも値札をじっと見つめながら言った。


「確かに貴重な品なのは分かるけど、今の私たちには手が出ないわね」


 店主は肩をすくめながらあきらめたように笑った。


「ま、そうだろうな。だが、何か興味があったらまた寄ってくれ。この本は、そう簡単には誰の手にも渡らない品だからな」


 隼人たちは本をもう一度見つめつつ、道具屋を後にしようとした。

 すると、ノアがふと思い出したように尋ねた。


「でも、この魔導書って実際に役立つの魔法なのかな?」


 店主は意味深な笑みを浮かべながら答えた。


「さあな、だが古代の知識は時に今の時代でも力を発揮することがある。それがいつ、どこで役に立つかなんて誰にも分からないさ」


 ノアはその言葉を聞いて少し考え込んだが、結局手を出すことなく店を後にした。

 道具屋を出た三人は再び通りを歩き始めた。

 ノアは魔導書のことが気になっている様子で、時折振り返って店の方を見ていたがやがて前を向き直った。


「本当に貴重なものなんだろうね。でも、今は無理だし、何かもっと現実的な方法で冒険を進めていかないと」


 リーシャもそれに同意し、頷いた。


「確かに。でも、いつかそういう知識が役に立つ時が来るかもしれないわね。今はまず目の前のことに集中しましょう」


 隼人は二人の会話を静かに聞きながら思考を巡らせていた。

 魔導書は確かに興味深い品だったが、今の彼らにはまだ必要なものではないと感じていた。


「そうだな、焦ることはない。今は必要なものだけをしっかり揃えておこう。それで十分だ」


 こうして三人は次なる冒険に向けて準備を進めるため、日常のひとときを楽しんだ。

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