新たなる敵と新たなる力
隼人、ノア、リーシャの三人は、ついに目的地の畑に到着した。
畑は一見平和そうだったが、よく見ると一部の作物が荒らされており、畝が崩れ、土が踏み荒らされた跡が広がっている。
ノアは、その荒れた部分を指さして言った。
「ここが依頼のあった場所だよ。やっぱり、何かが作物を荒らしてるみたい……」
隼人は畑の周囲を見渡しながら、踏み荒らされた土を観察した。
明らかに野生動物の仕業だとわかる痕跡が残っている。
「そうみたいだな。依頼のイノシシの仕業か?」
隼人は眉をひそめ、土の中に埋もれている動物の毛を拾い上げた。
その時、低く唸るような音が茂みの奥から響いてきた。
リーシャが素早く反応し、身構える。
「気をつけて。何かいる……!」
茂みがガサガサと揺れたかと思うと、イノシシが突如として姿を現した。
その体は普通のイノシシよりも大きく、勢いよく彼らに向かって突進してきた。
隼人は驚きながらもすぐに構えた。
「くそ、来たぞ!」
隼人はすぐに対応しようとしたが、イノシシたちは予想以上に早く方向転換し、森の中へと逃げ込んでいった。
隼人はイノシシが逃げていくのを見て、すぐに駆け出した。
「追いかけるぞ!」
リーシャとノアも隼人に続いて、森の中へと走り出した。
逃げるイノシシは思いのほか素早く、木々の間を縫うように進んでいく。
隼人たちはなんとか距離を縮めようと全力で走った。
しかし、森の中を走り続けるうちに、ノアが少し違和感を感じ始めた。
逃げているイノシシは、まるで隼人たちの速度に合わせているかのようだった。
「待って、なんか変だよ……」
ノアが息を切らしながら言った。
「どうした?」と隼人が振り返りながら応じる。
「イノシシがただ逃げてるだけじゃないみたい……私たちが追いつきそうになると、少しだけスピードを落としてる気がするんだ」
ノアの言葉に隼人は前方のイノシシを再度見つめた。
確かに、速度が一定ではなく、彼らの追走に合わせるような不自然な動きが見られる。
「言われてみれば……ただの逃げ足とは違うな。まるで俺たちを誘導しているように……」
隼人は眉をひそめ、警戒を強めながら走り続けた。
その先に何が待ち構えているのか、徐々に不安が募っていった。
森の奥に進むにつれて、木々が揺れ、不気味な音が辺りを包み始めた。
隼人たちは次第に異様な雰囲気を感じ取り、慎重に足を進める。
「……ただのイノシシじゃないかもしれないぞ」
隼人は声を潜めて警戒を強めた。
そして、森の奥にたどり着いたその時、隼人たちの目の前に現れたのは他のイノシシとは一線を画する巨大なイノシシだった。
その体は人間の何倍もあり、異常な大きさを誇っていた。
リーシャが目を見張りながら言った。
「ちょっと待って、あれはヤバい……!」
首領格のイノシシは、ただ巨大なだけではなく、頭部に何かが絡みついていた。
それはまるで無数のナノマシンのようなものが這い回っており、機械的な光を放っている。
「……あれは、何……?」
ノアが不安そうに呟く。
ナノマシンのようなものが首領格のイノシシの体を侵食しているように見え、その存在が他のイノシシたちにも影響を与えていた。
首領格のイノシシが動くたびに、周りのイノシシたちも同じように動き出し、まるで1つの統制された群れのようだった。
隼人はその光景を見て、すぐに戦闘態勢に入った。
「このままじゃ、俺たちが囲まれるぞ!」
隼人の声に応じて、リーシャも金槌を構えながら言った。
「あのデカブツを倒さないと、他のイノシシたちは止まらないかもしれない……」
三人は一瞬の静寂の中、緊張感を高める。
「来るぞ!」
隼人は警戒し、右腕を上げ、ライフルに変形させる。
――「戦闘用システム起動。武装を展開します」――
瞬時にライフルの照準がイノシシに向けられる。
隼人はトリガーを引くイメージをすることで、弾丸が鋭い音を立てて放たれた。
――ドンッ!
しかし、その瞬間、首領格のイノシシは驚くほどの素早さで身体を翻し、弾を回避した。
「なに!?」
隼人の驚きは隠せなかった。
これほど巨大な体でありながら、敵は予想を超える速さで動き回る。
二発目、三発目の弾も放つが、全て空を切り、地面に無力に消えていく。
「くそっ、当たらない……!」
ライフルの精度とパワーに頼っていた隼人だったが、相手の素早さと機敏な動きに苦戦を強いられていた。
周囲に従えているイノシシたちも、首領の指示を受けて動いているかのように、巧妙に回避行動をとっている。
「ハヤト!後ろも気をつけて!」
ノアが叫んだ。
彼女は周囲を警戒し、隼人の背後に迫ってくる別のイノシシを防ごうと必死になっている。
隼人は焦りを感じながらも、再びライフルを構えた。
しかし、再度トリガーを引こうとした瞬間、首領格のイノシシが横から突進してきた。
「くっ……!」
隼人は咄嗟に回避するが、その圧倒的な力を前にして完全には避けきれず、地面に倒れ込んでしまう。
「ハヤト!大丈夫!?」
リーシャが駆け寄ろうとするが、首領格のイノシシがその隙を狙って襲いかかる。
「まだだ……!」
隼人は再び立ち上がり、歯を食いしばってライフルを構えた。
何とか敵の動きに対応しようとするが、目の前の敵はあまりにも素早く、攻撃を当てることができない。
「くそ……どうすれば……!」
戦況は明らかに不利だった。首領格のイノシシの動きを止める方法が見つからないまま、隼人は次の一手を考えていた。
隼人は倒れ込んだ地面に手をつき、息を切らしながら立ち上がった。
目の前には、首領格のイノシシが再びその巨大な体を翻し、隼人に向かって迫ってくる。
体力には自信があるはずなのに、この異様な敵を前に、焦りが募るばかりだった。
「……どうする……このままじゃ……」
隼人は必死に考えた。
これまで頼ってきたライフルも、相手の素早い動きに対応できず、ただ無力に弾を消費するだけだった。
何か、他に方法はないのか――。
「システム、何か他に手はないのか?」
隼人は無意識に、自分の体に埋め込まれたシステムへ語りかけた。
戦闘時に何度も彼を助けてきたこのシステムなら、きっと何か答えを出してくれるはずだ。
――「周辺環境をスキャン中……新しい支援システムの確認中」――
隼人の視界に、突然システムのコマンド画面が表示された。
周囲の環境を解析し、何か支援できるものがないか探索している様子だ。
――「スキャン完了。外部リソースを確認。静止衛星との接続が可能です。接続を開始します……」――
「衛星?そんなものがこの世界にあるのか……?」
隼人は驚きの表情を浮かべた。
衛星の存在に関しては聞いたことがなかったが、システムが正確にデータを解析し、利用可能なリソースを見つけ出していた。
――「接続成功。静止衛星からのサポートを開始します」――
隼人の視界が鮮明に広がり、目の前のイノシシ達に対するロックオンの準備が整ったかのような感覚が広がった。
そして、次の瞬間、システムがロックオン対象を分析し始める。
――「ロックオン開始。目標:ヴァルゴート・ナノスウォームにより制御されたイノシシ型生物」――
「ヴァルゴート・ナノスウォーム?それがこのイノシシを操ってるってことか……?」
隼人はその名称に耳を傾け、何か非常に危険な存在が関与していることを直感的に感じたが、一瞬の間もなく、全てのイノシシに次々とロックオンが成立していく。
隼人の視界には、複数のターゲットマーカーが現れ、イノシシたちの逃げる姿が鮮明に浮かんでいた。
「敵の動きが見える……これなら!」
隼人はライフルを構え直し、システムからの支援を感じながら力を込めた。
複数のターゲットが一瞬にして視界の中心に揃い、その動きを封じ込める準備が整った。
――「ロックオン完了。全ターゲットへの攻撃が可能です」――
森の中を駆け抜けるイノシシたち。
隼人はその姿を見つめ、心の中でひそかに興奮していた。
衛星とリンクした瞬間から、まるですべての動きがスローモーションに見える。
敵の一挙一動がはっきりと見え、あらゆる動きに対して予測を立てることができるようになったのだ。
「これなら……全部撃てる!」
隼人はふっと笑みを浮かべ、狙いはしっかりとつける。
体の中に何かが流れる感覚があり、自然に狙いを定めることができた。
まるで彼の体が、戦闘そのものを楽しんでいるかのようだ。
イノシシたちは隼人の攻撃を避けるつもりだろうが、隼人の目には彼らの軌道が見える。
照準が一匹ずつイノシシにロックオンされていることを確認し、彼は深く息を吸い込んだ。
「いくぞ!」
隼人は素早くトリガーを引くイメージをすると、ライフルが正確に発砲した。
弾道は風を切り、森の中を駆けるイノシシたちを確実に捉える。
スローモーションのように見える動きの中で、彼は一匹一匹の動きを完全に読み切り、次々と撃ち抜いていく。
「こいつら、思ったより速いな……でも、この体なら追いつける!」
弾は的確にターゲットに命中し、次々と倒れるイノシシ。
隼人はその感覚に心地よさを感じていた。
自分の体が完全に戦闘に適応していることを実感しながらも、彼は1つの不安も覚えない。
「よし、あと少し……!」
だがその時、首領格のイノシシが目の前に現れた。
全身を覆う異常なナノマシンのようなものが光を放ち、体を強化しているかのように見える。
彼はその姿に一瞬ためらったが、すぐに冷静さを取り戻した。
「何か機械的なものに操られているみたいだが、倒すしかない!」
首領格のイノシシはその巨体にもかかわらず、驚異的な速さで突進してくる。
隼人はその動きを完璧に追いながら、偏差射撃のタイミングを計っていた。
彼は一瞬の隙を見逃さず、トリガーを引いた。
「これで終わりだ……!」
だが、首領格のイノシシは着弾する瞬間に弾を避け、さらに速度を上げて迫ってくる。
隼人は歯を食いしばりながら、再び照準を定める。
隼人の目の前で、首領格のイノシシが異常な速さで突進してくる。
森の木々をなぎ倒し、まるで災害のような勢いだ。
隼人はその姿を追いかけながら、心臓が高鳴るのを感じていた。
目には予測ラインが表示され、敵の動きを先読みする感覚が彼を包み込む。
「この動き……普通じゃない。それでも負けるわけにはいかない!」
隼人はすでに衛星と接続し、すべての敵の動きを把握している。
首領格のイノシシの突進コースが、彼の目には明確に見えていた。
だが、それはあまりにも速く、異常な力に引っ張られているように見える。
隼人は冷静に息を整え、ライフルをもう一度構えた。
巨大なイノシシがさらに加速し、迫ってくる。
その動きは一瞬たりとも隙を見せないが、隼人のシステムはすでにそれを見破っていた。
彼は一瞬のうちに敵の動きを見切り、弾道の予測を立てた。
「ここだ……!」
隼人はトリガーを引いた。
ライフルから放たれた弾丸は、正確に首領格のイノシシの頭部を狙って飛んでいく。
しかし、ナノマシンに強化された首領格のイノシシは、まるで弾を見切ったかのように体をわずかに傾け、弾道を避けた。
「なっ!くそっ……!」
隼人は驚きつつもシステムは冷静さを失わなかった。
これほど強力な敵と対峙しているにもかかわらず、彼の体は自然に次の動作を取るように動いていた。
さらに強力な一撃を放つべく、彼はライフルを再び構え直す。
――「システム、周囲の地形データを使用して、さらに精密な偏差射撃を試みます。目標:再ロックオン……」――
隼人の体が機械のように動き、木々の間から次々に撃ち込む。
首領格のイノシシの動きが速すぎるため、一度狙いを定めても、それをすぐに変えなければならない。
しかし、彼は動じることなく、まるで体と一体化したかのようにライフルを操った。
「これならいける……!」
弾丸は首領格のイノシシの動きを先読みし、その進路上に撃ち込まれていく。
そして、ついに一発の弾が首領格のイノシシの側面に命中した。
ナノマシンに包まれたその巨大な体が揺れ、一瞬動きが鈍った。
「今だ!」
隼人はすかさず、もう一発を撃ち込んだ。
弾は狙い通りに首領格のイノシシの額に突き刺さり、その瞬間、ナノマシンが黒い煙を上げて崩れ始めた。
首領格のイノシシが最後の叫びを上げ、その巨体が地面に崩れ落ちる。
「やった……!」
隼人は肩で息をしながら、倒れた首領格のイノシシを見つめた。
巨大な体からは、ナノマシンが徐々に解け、元の姿に戻っていく。
敵の力を目の当たりにしつつも、隼人はその戦いを乗り越えた。
「これで……終わったか?」
彼はライフルを静かに下ろし、ようやくその場に立ち尽くした。
ノアとリーシャが遅れて駆け寄り、隼人の勝利に歓喜の声を上げた。




