技術の粋を求めて進む者たち
輸送艇の後部ハッチが地面に向けてゆっくりと開いた。
ハッチが完全に開ききると、内部の広々とした格納スペースが姿を現し、そこには物資と馬車をしっかりと固定できる設備が整えられていた。
フロリアは冷静な声で促した。
「それでは、こちらへお乗りください。馬と馬車もそのままお運びしますので、順番に中へ進んでください」
レオンハルト王子は少し息をのみながら、その様子をじっと見つめていた。
「……よし、行くぞ」
王子が声を上げると、一行は整然と動き出し、馬車や馬を引き連れて後部ハッチに乗り込んでいった。
馬車が全て乗り込んだのを確認すると、フロリアが後部ハッチの制御装置を操作した。
低い機械音とともにハッチがゆっくりと閉まり始める。
レオンハルト王子や衛兵たちは思わずその光景を見上げ、「おお……」と感嘆の声を漏らしていた。
完全にハッチが閉まり格納スペースが密閉されると、フロリアが振り返って指示を出した。
「馬車を固定し、馬も安全に収容しました。皆様は格納庫内の座席にお座りください。」
一同は促されるまま、格納スペースの壁際に取り付けられた座席に腰を下ろした。
「この機構は一体どうなっているのだ!?見せろ、教えろ!」
唯一の問題児であるデストールは、相変わらず興奮しながら騒いでいたが、ライナーにしっかりと抱えられているため動き回ることはできなかった。
全員が着席したのを確認したフロリアは、手元の通信装置でルクシアに連絡を取った。
「全員、座席に着きました。ルクシア、輸送艇を発進してください」
その直後、輸送艇が低く唸るような音を立て、徐々に振動が広がり始めた。
一瞬、重力が変化したような感覚が全員を包み、一行は驚いた表情を浮かべた。
「これは……」
レオンハルト王子が思わず声を漏らす。
フロリアは冷静に説明を続けた。
「今の振動は輸送艇が発進した合図です。このまますぐに目的地へ到着いたしますので、今しばらく座席にお座りください」
その言葉に、隼人はふと格納庫内を見回しながら尋ねた。
「そういえば、この輸送艇には窓がないんですか?」
フロリアは頷いて答えた。
「はい。この輸送艇は物資運搬用のため、格納庫には窓がございません」
それを聞いたリーシャが不満げに呟く。
「残念だなー。前に乗った船は移動中に景色が見れたのに……」
「そうだね。少し残念だね」
ノアもリーシャの言葉に頷きながら、共感を示した。
フロリアは少し申し訳なさそうに頭を下げた。
「申し訳ございません。この輸送艇はこれだけの物資と人数を運ぶためのものでして……景色を楽しむことは考慮されておりません」
「この船以外にも他にあるのですか!?」
すると、静かだったデストールが突然目を輝かせ、興奮した声を上げた。
フロリアは少し困った顔をし、ノアに視線を向けて確認を取った。
「ノア様、他の輸送艇について話してもよろしいでしょうか?」
「うん。話せる範囲でいいから、教えてあげて」
ノアは軽く微笑みながら返答した。
フロリアは頷き、再び一行に向き直った。
「わかりました。それでは、私たちが運用している輸送艇について簡単にご説明いたします。」
全員が興味深そうに耳を傾ける中、フロリアは丁寧に話し始めた。
「現在、私たちの軍では用途に応じて複数種類の輸送艇を運用しております。この輸送艇は主に物資や機械を運ぶために設計されており、今回のように馬車や馬の運搬にも対応できる大型モデルです」
デストールが食い気味に口を挟む。
「では他にはどんなものがあるのだ!?もっと教えてくれ!」
フロリアは少し微笑みを浮かべながらも冷静に答えた。
「例えば、調査や偵察のための軽量型輸送艇や、人員を輸送するための人員輸送艇などがあります。以前ノア様たちを輸送したのは人員輸送艇となっております」
「なるほど!その設計思想は非常に興味深い!」
その説明を聞いてデストールはますます興奮して声を上げたが、ライナーが彼をしっかり押さえ込んでいたため、それ以上暴れることはできなかった。
フロリアの説明が終わる頃、輸送艇の振動が少しずつ収まり始めた。
どうやら目的地への到着が近づいているようだ。一同はそれぞれ思いを巡らせながら、これから始まる未知の出来事に心を躍らせていた。
すると輸送艇内に響くビービーという電子音が、一行の耳を打った。
その音は突然のことで、全員が思わず動きを止め、マリアが声を上げた。
「何ですか、この音!?」
フロリアが冷静に説明を始めた。
「皆様、この音は間もなく目的地に到着する合図でございます。到着と同時に大きく一度揺れますので、どうぞお気をつけください」
一行はフロリアの言葉を聞き、座席にしっかりと腰を落ち着ける。
それでも緊張感は否めず、全員が揺れに備えた体勢を取る。
数秒後、ガコンという金属音と共に輸送艇全体が大きく振動し、一瞬体が浮くような感覚が襲った。
「これが揺れか……!」
レオンハルト王子が思わず感嘆の声を漏らす。
輸送艇が停止し、振動が収まると後部ハッチが再びゆっくりと開き始めた。
外からは柔らかな光が差し込み、目の前に広がる光景を徐々に照らしていく。
ハッチが完全に開くと、フロリアが一歩前に出て声を張り上げた。
「皆様、大変お待たせいたしました。バステオン・アークの格納庫に到着いたしました」
その瞬間、後部ハッチの端にホログラムが浮かび上がる。
青白い光で形作られた顔だけのホログラムが、一行を静かに見下ろしていた。
ノアはそのホログラムを見ると、微笑みながら口を開いた。
「お久しぶりです、ルクシアさん」
「お久しぶりです、ノア様」
ホログラムの顔が軽く頷く。
続けてルクシアは、隼人たちにも挨拶を送った。
「そしてハヤト様、リーシャ様、お久しぶりです。皆様がご無事で何よりです」
その姿を見たレオンハルト王子は、小さな声で呟いた。
「これは……もしかしてホログラムか?」
その言葉を拾ったルクシアは、ふわりと微笑んで丁寧に言葉を紡いだ。
「これはこれは、ご挨拶が遅れました。私はこの船の支援用AI、ルクシアでございます。何卒よろしくお願いいたします」
レオンハルト王子は少し驚きながらもすぐに態度を正し、一行を紹介した。
「私はレオンハルトと申します。この者たちは私を守護するための衛兵たちと、研究機関の機関長であるデストール。そして、ナノマシンのナノです」
「皆様、よろしくお願いいたします」
ルクシアは王子の挨拶に丁寧に応じた。
その後、王子が呟いた「ホログラムか?」という言葉についても答えた。
「はい、私はホログラムです。よくご存じですね。この世界ではホログラム技術は滅んだと想定しておりましたが……」
その説明を聞くや否や、デストールが勢いよく声を上げた。
「こここここれがホログラムですか!?なんという高度な技術!まさしく神の技術だ!」
デストールの興奮ぶりに一行が少し引く中、ルクシアは冷静に彼の方を見やり、静かに応じた。
「あなたがデストール様ですね。よろしくお願いいたします」
レオンハルト王子はため息をつきながら、ライナーに目配せして指示を出した。
「ライナー、デストールを抱えて移動させろ」
ライナーはデストールを軽々と抱え上げ、興奮状態の彼を強制的にその場から離れさせた。
王子は改めて姿勢を正し、ルクシアに向き直る。
「ご招待いただき感謝する。今回はナノに特殊な機械を見せるということで、我々も無理を言って同行させてもらったことを申し訳なく思う。そのため、我が城の機関が抱えている土産も持ってきた。こちらを確認いただきたい」
そう言いながら、王子はミランダに指示を出し、馬車が運んできた荷物の布を取り外した。
その下に現れたのは、巨大な人型機械「パラディン」だった。
ルクシアはそれを見て一瞬表情を変え、「なるほどですね」と静かに呟いた。
「先ほどスキャンした際に、我が軍のパラディンと同様の信号が出ているかと思っておりましたが……やはりパラディンでしたか……」
「ご存じなのですか?」
王子が興味深そうに尋ねると、ルクシアは答えた。
「はい。我々の技術の粋を集めた人型機動兵器です」
そのやり取りを聞いていたフロリアが提案する。
「ここで話していても仕方ありません。まずは移動しませんか?」
レオンハルト王子は彼女の言葉に頷き、了承した。
「ああ、そうだな。案内を頼む」
その瞬間、格納庫内に自動で動く機械が入ってきた。
人員移動用の小型車と、馬車の荷物を運ぶための自動運搬機械が、それぞれ一行を迎え入れる形で配置された。
「皆様、こちらにお乗りください」
フロリアは小型車に向かって一行を誘導し、案内を続ける。
ルクシアも、馬車を自動運搬機械に固定しながら言葉を添えた。
「こちら、荷物も一緒に移動いたします」
こうして隼人達とレオンハルト王子一行は、「バステオン・アーク」のさらに奥深くへと進む準備を整えた。
それぞれの胸には、これから待ち受けるであろう未知の技術や発見への期待と、不安が入り混じっていた。




