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灯り揺れる夜、絡み合う運命の糸

 街中の屋台の灯りが温かく揺れる中、隼人はゆっくりと歩きながら手に持った串焼きを頬張っていた。

 肉のジューシーな香りと焦げたタレの香ばしさが、なんとなく緊張していた心を和らげてくれる。

 アストリスとの出会いは頭を悩ませる出来事だったが、今は一旦その思考を脇に置いて、少しでも気分転換を図りたかった。


「ふう……こんな日も悪くないかもな」


 屋台の賑わいを背に、王都を散策してから隼人は自宅に向かう。

 扉を開けると、鼻をくすぐる香ばしい香りが漂ってきた。

 何かが焼ける音がリズミカルに聞こえ、隼人は思わず笑みを浮かべた。


「ただいま」


 声をかけると、キッチンからノアが顔を出した。

 エプロン姿の彼女は少しだけ小麦粉が頬についている。


「おかえり!今日は遅かったね」


 奥からは、料理を乗せたトレーをもって登場したリーシャが明るい笑顔で尋ねる。


「おかえりー!ハヤト。遅かったねー、何してたの?」

 

 隼人は苦笑しながら答える。


「いや、ちょっといろいろあってさ。後で相談したいこともあるけど、とりあえず腹が減った。何作ってるんだ?」


「食べてからのお楽しみだよ!」


 とリーシャは得意げに言いながらテーブルに料理を並べる。


「へえ……なんか豪勢だな」


 隼人が感心していると、ノアも控えめに言う。


 「せっかくだからっていろいろ作ってみたの。おいしいといいけど」


 そして食事が終わり、片付けを済ませた三人がリビングでくつろぎ始めた頃、隼人はようやく切り出した。


「実はさ……アストリスに会ったんだ」


 ノアが驚いたように顔を上げた。


「アストリスって、あの、この間村を襲った人……だよね?」

 

 隼人は真剣な顔で頷いた。


「ああ、そのアストリスだ。呪術屋で偶然会ったんだ」


 リーシャが首を傾げた。


「呪術屋って……荷物を受け取ったところだよね?なんでハヤトもアストリスもそこにいたの?」


 隼人は少し悩みながら答えた。


「俺は……正直なぜかはわからない。気がついたらあそこに向かってたんだよ。無意識ってやつかな。でもアストリスは違う。あいつは、この間の村の依頼で持って行った『弱いモンスターや獣を遠ざける効果の薬』を辿ってきたらしい」


 ノアが首を傾げた。


「その薬……何か関係があるの?」

 

「ああ」と隼人は頷く。


「ノアもリーシャもあの時、アストリスが見えなかったんだよな。実はあいつ、薬の匂いを辿ってきたんだ。どうもその薬と、仲間……つまりあいつらの同胞が同じ匂いをしていたらしい」


 リーシャが小さく息を吐いた。


「なるほどね……そんなことがあったんだ」


 ノアは少し不安げな表情を浮かべながら言った。


「そのアストリス……また何かしようとしてるんじゃないの?」


 隼人は静かに首を振った。


「それが、どうも今回は敵意がなかったんだ。むしろ、普通に話をしてきた。妙に親しげだったのが逆に不気味でな……」

「親しげ?」


 リーシャが驚いた顔で言う。


「あんな殺意の塊みたいな人が?」

「ああ、そうなんだよ」


 隼人は息をつく。


「正直、まだ頭の中が混乱してる」

「それで相談だったんだね」


 リーシャが納得したように言う。

 ノアが興味深そうに隼人の方を向いて問いかけた。


「それで、アストリスさんとはどんな話をしたの?」


 隼人は一瞬考え込み、ソファに体を預けながら話し始めた。


「そうだな……俺のことと、ナノちゃんのことを聞かれたよ」


 ノアが少し驚いたように反応する。


「ナノちゃんのことも?」


「ああ」と隼人は頷いた。


「俺が機動兵器だってことや、ナノちゃんが再構築されて幼くなったこと……そういう話をしたんだ」


 ノアはしばらく考え込んだ後、真剣な表情で言った。


「ナノちゃんが幼くなったって……、元々は違ったの?」


 隼人は少し苦笑いしながら言葉を続けた。


「アストリスの話だと、どうもナノちゃんと彼女自身、元々の姿や性格は違ってたらしい」


 リーシャが腕を組みながら首を傾げた。


「性格が変わるようなことがあったってことなのかな?」


 隼人はその問いに頷きながら答えた。


「アストリスによると、大きな衝撃がこの世界を走ったらしい。それが原因でいろんなデータに影響が出たんじゃないかって話だ」


 ノアが目を見開いて驚いた表情を浮かべた。


「大きな衝撃……?」


 隼人は少し言葉を詰まらせ、頭の中で考えを巡らせた。

 (起動信号なんて言っても、ノアやリーシャには伝わらないだろうしな……)


「俺も詳しいことはわからないけど、何かがあったらしい」


 隼人は少し濁して返答した。

 リーシャはその答えに納得がいかない様子で「ふーん」と呟き、軽く肩をすくめた。


「でもさ、それってすごく不思議だよね。世界に大きな衝撃が走るなんて、いったい何が起きたんだろう?」


 隼人は肩をすくめて答えた。


「なんだろうな。ただ、アストリスの話を聞く限り、ただ事じゃないことは確かだろうな」


 少し沈黙が続いた後、ノアが思い出したように口を開いた。


「そういえば、フロリアさんから連絡があったんだけど……」

「フロリアさんから?」


 隼人が身を乗り出してノアを見た。


「この間見つけた洞窟の奥にあった神殿で、金属のリングを見つけたじゃない?」

「ああ、あの異質な金属のリングか」


 隼人は頷いた。


「それ、それ。ルクシアさんとフロリアさんが解析を進めてくれてね、その結果が少し分かったんだって」

「解析結果か……で、どんなものだったんだ?」


 隼人は興味津々で身を乗り出す。

 ノアは真剣な表情を浮かべながら話を続けた。


「あの金属のリング……転送?装置だったみたい」

「転送装置?」


 隼人の眉が上がる。

 ノアは頷きながら続けた。


「そう。物とか人を一瞬で遠くに運べる装置だって。アストリスさんが使って、フロリアさんやマリアさんの複製した装備を出したりしたみたい」


 隼人はその説明を聞き、納得した表情を浮かべた。


「なるほど……そういうことか。確かに戦闘中にあいつが使ってた装備の出現方法には疑問があったけど、転送装置を使ってたなら納得だ」


 リーシャが目を輝かせて声を上げた。


「あのリングってそんな事できたんだ!」


 ノアは笑みを浮かべながら頷いた。


「そうみたい。でも……」


 隼人はノアの言葉に続く「でも」に眉をひそめた。


「でも、どうした?」


 ノアは肩をすくめながら説明を続けた。


「その後、リングが使えなくなっちゃったみたい。どうも操作を受け付けなくなったって話で、今は使うことができないみたいなの」


 隣に座っていたリーシャが、がっくりと肩を落とした。


「そうなんだ……ちょっと使ってみたかったのに。便利そうなものなのにさ」


 隼人は苦笑しながら、少し考え込んだ。


「まあ、あのリングはアストリスの物っぽいからな。勝手に部外者に使用されないように何かしら対策を施されても不思議じゃない」


 リーシャが頷きながら呟いた。


「そうかもしれないけど、なんだか悔しいね……」


 隼人はノアに視線を向けて尋ねた。


「ところで、今バステオン・アークってどこにいるんだ?まだ王都の近くか?」


 ノアは少し驚いた表情で答えた。


「うん、一応まだ王都の近くにいるみたい」


 隼人は頷きながら更に問いかけた。


「じゃあさ、もう一度バステオン・アークに行かせてもらって、リングを直接見せてもらえないかな?それに可能なら、ナノちゃんも連れていけないかな?ナノちゃんってアストリスの同胞だったらしいからさ、もしかしたらナノちゃんがなんとかできるかもしれないと思ってさ」


 ノアは少し驚きながら答えた。


「ナノちゃんに?でも……」


 ノアは不安そうに言葉を続けた。


「アストリスさんがフロリアさんの敵だったなら、同胞のナノちゃんも、もしかしたらフロリアさんたちに敵対する可能性ってないかな?」


 隼人はその言葉に考え込み、少し肩をすくめた。


「まあ、村での戦闘では敵対行動も取ってなかったし、今のところ大丈夫だろう。それに、あの調子のナノちゃんが敵対するとか想像つかないけどな」


 ノアはその言葉に納得したように頷いた。


「そっか……じゃあ一度連絡してみるね」


 隼人は感謝の意を込めて頷いた。


「頼む。何かわかったら教えてくれ」


 ノアは微笑みを浮かべながら答えた。


「わかった。すぐにフロリアさんたちに連絡してみるよ」


 隼人の提案をフロリアたちと相談するためにノアが静かに立ち上がり、部屋を出ていく。

 リーシャは何も言わず、ただ隼人の横顔をじっと見つめる。

 部屋には、一時の静寂と、どこか張り詰めた空気が漂っていた。

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