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同期の君が言うことには  作者: 卯月はる
気の合う同僚?
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振られたのー


「ごめん茜。別れてほしい。好きな人ができたんだ」


申し訳なさそうに頭を下げる彼氏…もう元カレになるのか。


私は卒業するときのような寂しさこそあれ、怒りや悲しみは湧いてこなかった。


「飯行ったりはしたけど付き合ってるとかじゃなくてそこは…」

「写真ないの?美女?」

「うんそうだよな、ほんとにゴメ…え?」

「写真。その子の。可愛い?」

「う、うん」


無理言って見せてもらった写真は、フワフワ綿菓子みたいに守ってあげたい女の子だった。


「か、かわ…!」

「いや、オレが言うのもおかしいけど、その反応どうなの…?」

「え?だってぇ」


元カレとはアイドルや女優の好みがバッチリ合っていたから、好奇心には敵わなかった。


「こんな可愛い子なかなかいないんだから、ちゃんと捕まえるんだよ!」

「…っほんと、茜ってさ」

「な、なに?」

「…いや。今までありがとう。」

「うん、こちらこそ!」


なんか納得しちゃった。

もうとっくに、恋じゃなかったと。きっと、お互いに。


趣味が合うから、別れる理由が見つからなかっただけで。


「じゃあ元気でね。同窓会とかで。」

「うん。」


バイバイと手を振って、元カレとカフェの前で別れた。


今までみたいに気軽に会ったり連絡取ったりできない寂しさはやっぱりあったけど、元カレがフワフワ美女と上手く行くといいなと思う。

私は好きな人もいないし、彼氏がいないとダメなタイプでもない。


だからなんだってこともないのに、スッキリもしていた。




◇◆◇




「わーまた負けた!!」


ダーツの画面が終了を告げている。


「ちぇ。翠強いなー18のトリプルとか普通狙って当たんないって」


ヘタクソと翠に笑われながら、3ゲーム終えた。


翠は3ターン分投げずに私にハンデをくれたが、それ以外は一度も手加減することなく圧勝だ。


「これ、負けたらショット?」

「潰れても面倒見ないよ」


飲もうと連絡すると、ダーツバーにいると返信が来て今に至る。


ダーツの台を別のグループへ譲り、ソファ席へ移動した。

薄暗い喧騒の中、足を組んでレッドアイを飲む翠。


んー相変わらずキレーな顔してますなあ。赤い血のような飲み物が似合いますなあ。


他のテーブルの女の子たちがチラチラと翠を見ているのにも、気付いていた。


今日の翠は、白と黒の不思議な柄のダボっとしたシャツと黒のスキニー、黒縁の丸メガネ。シルバーのゴテゴテしたピアスが両耳にいくつも。


私服もおしゃれだ。


スマホを操作する翠の横顔を見ながら、私はカリカリのパスタを食べて待つ。


「ここまで来ると思わなかった」


スマホをポケットに戻して、翠もパスタに手を伸ばした。


「彼氏と別れたんだぁ」

「…ふうん。」

「振られたのー」


パスタをカリカリ食べながらしばらく考えた翠は、口の中のものを飲み込むとクイッと私の顎を指で掬い翠の方を向かせ、


「慰めてもらいにきたの?」


口元に不敵な笑をたたえて、軽口を叩く。


それが、私相手に翠が本気じゃないことくらい、わかる。


「わ、顎クイってこんな感じなんだ!?やってって言われたことはあるけど、やられたのは初ー!」

「…そう」


私が感動を伝えると興味を失ったように、指を離してレッドアイを煽った。


間近なキレーな顔に、ひんやりとした指先に、ドキリとしたのは秘密だ。


「わかってますよー、翠がこういうの一番面倒くさがるの」


うん、だって、翠が慰めてくれない人だってことくらいよーくわかっている。


「翠なら、振られたって言っても、可哀想って反応しないだろうなと思って。」

「…まあ、しないけど」

「だから翠に会いに来たんだぁ」


凹んではいないが、なんとなく1人で居たくなくて、でも慰めて欲しいわけでもなくて、翠の顔が浮かんだのだった。


「好きな人ができたんだって。彼には幸せになってほしいなーって思ってね」

「…何だそれ」

「今までもこれからも、大切な人なんだよねぇ彼は。」

「はあ?」

「でも未練はないんだよ。門出を祝って?飲みたい気分だったというか」

「お人好しめ。だから損ばっかすんだ」

「そ、損はしてない…!」


意味わかんないと言いながら、頭をぐしゃぐしゃして付き合ってくれるのも、予想通り。


「…そんなに好きだったんだ」

「うん。大好き。今も。これからも。」


大事な友人に変わりはないのだ。


あ、しんみりしちゃった。


そういうの嫌だから翠に連絡したのに。


「そういえばあんまり聞いたことなかったけど、翠はー?」

「何が」

「彼女」

「あ、スイじゃん、久しぶり」


口を開きかけた翠が、茜の後ろに立った人を見て顔を顰めた。


「げ」


そう声をかけてきたのは金髪でピアスがゴテゴテの、ロックな格好をした男の人。


チェーンがジャラジャラしている。唇にもピアスがついてる。


「げってなんだよ。…っと。彼女?口説いてた?」

「違う。もう帰る」


行くよと、飲み物もパスタも残したまま、翠は立ち上がりスタスタ歩き出した。


「あ、ま、待って」


駅の改札まで送られて、はいじゃあねと、翠は戻って行った。


ダーツバーのお友達のところへ戻ったのか、そのまま帰宅したのはわからない。


私が押しかけただけで、帰れとひとこと言えば済む話なのに、律儀だ。


翠に話してスッキリして、私は軽い足取りで電車に乗った。




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