4人でテーマパーク行こ!
「スイくんは、アカネちゃんにベッタリですねぇ」
アユミちゃんはミルフィーユを優雅に口に運びながら、私の話を聞いて呆れ顔。
翠の相談に乗ってくれたお礼をSNSで送ってから、アユミちゃんとはたまにご飯に行く仲になったのだ。
そして、いつのまにかアカネちゃんと名前で呼んでくれるようになった。SNSの名前、アカネにしててよかった!!
「そうかなぁ?」
「なんとなーくですけどぉ。アカネちゃんと、まぁくんから聞く限り」
胸がぺったんこでも、フワフワの女の子っぽくなくても、どうやら翠はいいらしいと言ったらこれだ。
「あーゆープライド高くて素直になれないタイプはぁ、振り回してあげるくらいでいいんですよぉ」
ティーカップを持つ細い指。
苺のミルフィーユが絵になる。
「…聞いてますぅ?」
「えっと…お写真はNGですか…?」
「はーい、聞いてなぁい」
呆れた顔もお美しいアユミちゃん。
見惚れていると、スッとスマホを手に取り、インカメで私まで入れてパシャリと撮った。
そしてすぐに私にメッセージを送ってくれる手早さ。尊い。
「はわわわわわ宝物にしますぅぅぅ」
「女の子のファンも、いないわけじゃないですけどぉ…これはなかなか新鮮ですねぇ…」
ほぅとため息をついて、アユミちゃんは紅茶を啜る。
「アカネちゃん、綺麗になりましたよねぇ。最初に会ったときより。元々爽やかイケメンって感じで可愛かったですけど」
「え、そ、そうかな。アユミちゃんがメイクとかいろいろ教えてくれたからかな。えへへ」
そんな。社交辞令でも褒められたら照れ照れしちゃう。
基礎化粧品からメイクまで、ズボラな私ができるように教えてくれたのだ。
昔SNSでアユミちゃんがアップしていたメイク動画を何回も見ていたのに、それを私にやってくれたときの感動ときたら!
「ンー、それもあるんですけどー、愛されてるオーラありますよねぇ」
「えっ、そうなの!?」
「スイくんみたいな理解者の少ない天才タイプは、惚れたらトコトンなんだなぁって、まぁくんと話してたんですよぉ」
イマイチ言わんとすることはわからないが、アユミちゃんの見解によると、結構愛されているらしい。
「アユミちゃんの話も聞きたいな。真紘のどこが好きなの?」
「えっ!?」
「結婚するんだもんねー?」
「あっ」
「苗字は真紘が変えるんだってね。式には新婦友人で呼んでねー」
「ええっと…」
自分の話になるとは思わなかったのか、打って変わって、頬を染めてしどろもどろになるアユミちゃんは、めちゃくちゃ可愛かった。
やるなぁ、真紘。
◇◆◇
-side翠-
「翠だ。マキちゃんのお迎え?」
「真紘」
茜が飲み会だと言うから、少し離れたところで待ってたのに、真紘には見つかった。
真紘はコンビニの袋を下げて、紙パックのプロテインを飲んでいる。
退職にやましいことは何もないのだが、知り合いに捕まっても面倒臭いし。
「もうオレのこと心配性って笑えないね」
「…そうだね」
真紘が“あーちゃん”の会食やら怪我やらを過保護なくらい気にしているのを、半分楽しみ半分呆れていたが。
こういう感情だったのかと数年越しに思い知ることとなった。
「翠!お迎えありがとう!」
「うん」
俺を見つけて駆けてくる茜。
「そうだ!翠、真紘!4人でテーマパーク行こ!」
「は?」
「テーマパーク?」
「あのね、この前アユミちゃんと話してて、4人で行きたいねって」
候補いつ?と訊きながらスマホのカレンダーを開く俺を見て、隣で真紘がクスッと笑ったが無視した。
「あーちゃんが行くって?いつも嫌がるのに」
真紘は俺には何も言わず、代わりに気になっただろうことを茜に言った。
「そうなの?4人ならいいよって言ってたよ」
「そっか…ふふ、ありがとう」
真紘から聞く限り真紘の彼女の“あーちゃん”こと“アユミちゃん”は気難しい、デレのないツンデレで、テーマパークなんて苦手そうなのに。
最近茜は“アユミちゃん”とお茶をする仲になったようだが、相変わらずの人たらしっぷりだ。
「マキちゃーん!忘れ物!これ違う?」
「あ!私のかもー!」
遠くから呼ばれて、ちょっと待っててと言い残して、同僚の方へ走って行く茜。
酔い回るぞ。
「すーっかり仲良くなっちゃって」
同僚とのやりとりを遠巻きに目で追っていると、真紘はしみじみと感想を口にした。
「あーちゃん、マキちゃんと友達になったって嬉しそうに報告してくれてさ」
「へぇ」
たぶん、茜からも聞いた。そして会うたびに聞かされてる。
可愛い!女神!天使!と。
「仕事以外の話するの珍しいのに、マキちゃんの話はよくしてくれるんだ。妬けちゃうよねー」
妬けちゃうと口では言いつつ嬉しそうで、嫉妬より愛する人の幸せを喜べるんだな。大人だ。
「真紘って心広いよね」
「えー?何急に」
こんなこと、前はなんとも思わなかったのに。
「前からマキちゃんは特別扱いだったけど、更にべったりだねー」
「…そんなに?」
「まぁ、露骨だったよねぇ。マキちゃん以外の人には冷たいし、マキちゃんを気に入ってる男は無言で牽制するし。」
ヘラヘラして大雑把そうに見えて、意外とこういう機微を見てるのが真紘だ。
「て!か!」
真紘は自分の首の後ろを指差す。
「わざとギリギリ見えるとこにしたんでしょう、キスマーク」
「さあ」
「いいなぁキスマーク。憧れるー」
茜に教えたら可哀想なくらい真っ赤になりそうだから、伝えていないらしい。流石長年一緒にいる同期。よくわかってる。
「“あーちゃん”にすればいいじゃん」
「怒られる。見えないとこでも」
「あぁ」
「バレたら良くて1週間は口きいてくれなそう」
「…なら、つけてもらえば?」
キスマークでも首輪でも。
アリだねと目を輝かせる忠犬っぷりに、しっかり躾けられてるなぁと笑ってしまった。
「ああそうだ。“あーちゃん”と結婚するんだって?おめでとう。報われてよかったじゃん」
「ありがとう、マキちゃんから2人からのお祝いももらったよ」
ニヤニヤする真紘に、なんだと目で問う。
「ふふ、翠、変わったなー。前なら絶対そんなこと言わなかったでしょ」
そうかもしれない。
「けど、翠からプロポーズするとは思わなかったなー」
「………」
「ついポロッと言っちゃうなんてらしくないなって。余裕なかったね?」
よく喋る。うるさいな。
茜も茜だ。そんなことペラペラと喋るなよ。
「あ、もうすぐ川嶋になるのかー。オレも“アカネちゃん”って呼ぼうかな」
「………」
「ははっ、怒らないでよ」
「何も言ってない」
クスクス笑って、でもちょっと真剣な面持ちで真紘は続けた。
「オレは嬉しいよ。ずっと仲良かった2人が幸せそうで」
「…そりゃどーも」
「翠が素直になれなくて、可愛さのあまりマキちゃんにキツく当たってないかだけ心配だったけど、溺愛してそうだし」
それに関しては黙るしかなかった。
茜が茜でなかったら、今だって素直にもなれず虐めて満たされない何かを持て余してぶつけていただろう自覚はある。
そんな茜だから惹かれたのかもしれないが。
「おまたせー帰る?3人でもう一軒行く?」
「おれは帰るよ。あーちゃんが待ってるから」
「そっかぁ。テーマパークの日程、メッセージするね!」
手を振って真紘と別れ、茜と手を繋ぐ。
茜が楽しそうにテーマパークの何に乗りたいとか何食べたいとか話すのを聞くだけで、疲れも何もかも、どうでもよくなるわけで。




