俺の愛情ってめちゃくちゃ重いよ。 -side翠-
かつてないほど、深い眠りに落ちた。
頭の中が酷く静かだ。
外が明るい。
「おはよー、翠」
「…はよ…何時?」
「11時」
「…うげ」
「いっぱい寝たね!祝日最高ー!」
寝過ぎて驚く俺をよそに、何食べるー?とのんきな茜。
「昨日は珍しく翠の方が早く寝たね」
「あー、俺寝つき悪いから。寝入るのに2〜3時間とか普通」
「…に…さんじかん…?」
信じられないという顔。
寝付けないから、眠くなるまでパソコン作業をしてどうにかそのまま眠りに落ちる。
寝ないより、デスクで寝落ちした方がマシ。
そりゃおやすみ3秒の茜からしたら信じられないだろう。
「昨日はすぐ寝た…よね…?」
「うん、なんか…茜に撫でられたら眠くなって…」
いっぱい寝たからか、心が薙いでいる。寝過ぎてぼんやりもしている。
失言でもいっかとも、思っている。
「えへへ、そっかぁ。翠は私がいなきゃダメだね!」
悪戯っ子みたいに八重歯を見せて笑う茜。
何だか今は、逆らわなくていい気持ちになった。
「…うん、そう。茜がいなきゃダメ」
素直にそう思えるくらい、俺の中で茜の存在が大きいと思い知る。
私もーと、茜はすり寄ってくる。
背徳感?支配欲?
「昨日から甘えん坊さんだね。」
よしよしと、いつも俺がやるみたいに、俺の髪をかき混ぜる茜。
茜がいればそれでいいやとされるがままになった。
「たぶんさ」
「うん?」
「俺の愛情ってめちゃくちゃ重いよ。」
「そうなの?」
「茜を全部俺のものにしたいし、独占したいし、俺以外見ないでほしい。」
半分安心が口を動かしていて、もう半分はヤケだ。
でも、茜を前に、今のままこのドロドロした感情を抱えていくのは無理に思えた。
「…打算で、優しくしてる。」
なのに。
「私だってそうだよ」
茜がきょとんと当たり前みたいに言うから、俺は狼狽える。
「でも翠、私が友達と出かけるのも嫌な顔しないし、楽しんでおいでって言ってくれるし、信頼してくれてるんでしょ?」
信頼、してくれているのは、茜の方だ。
だって、生き甲斐なんでしょ、そういうのが。
友達と遊ぶのを制限したところで、その分の愛情が俺に向くわけじゃないのは明白じゃないか。
俺はそれを天秤にかけてるだけだ。常に。
えへへっと八重歯を見せて、なんでそんな簡単に全幅の信頼をくれるの。
「大事にされてるなー私」
延々と続く、今日友達と何があったって話、俺のところに戻ってきて、全部俺が独占できたらいいと、思っているからそうしているだけで。
それを、“大事にしてる”って言っていいの。
「キスマークもたくさんつけたいし」
一瞬きょとんとした茜は、恥じらって、コソッと俺の耳元で囁く。
「…翠に愛されてるって感じがするから、隠れるところならいっぱいつけていいよ。」
ーーーああ、もう!
「歯型もつけたいとか思ってるよ」
「歯型!?い…痛いのは嫌だけど、たまにしにしてくれるカプってするやつ?は……結構…好き…かも……」
「………っ」
ヤケで言ったのに。そういうの、ちゃんと嫌だって言ってくれないと、歯止めがきかなくなるんだけど…。
「あのね、わ、私も、翠にキスマークつけてみたいの」
頬を染めながら、そんなことを言うから。
俺は鎖骨の下を指さして茜の唇を誘った。
「…ここ、つけてみる?」
頷いた茜は、俺の肌に唇を寄せるが、ちゅうちゅうと仔猫が戯れるみたいにくすぐったいだけで、上手く行かないらしい。
「つかない…」
「はは、ヘタクソ」
「翠がうますぎるの!」
「執着心と独占欲が乗ってますからね」
あれ、そんなに軽く言っていいんだっけ。これ。
…いいか。茜がいいって言うなら。
ちゅっと茜の胸元にキスマークをつけて、おまけに首筋をカプっと甘噛みした。
「ひゃああっ、わ、バカっ!」
「茜ってMだよね」
「えっ!Sな翠に合わせてあげてるのっ!」
「はは、はいはい。どーも」
キスしようとして、抱きしめるだけにした。
そろそろ茜がお腹すいたって言いそうだったから。
いつの間にか、こうやって、茜中心。
「ね、ねえ、昨日のことなんだけど」
徐に起き上がってベッドの上で正座する茜。
「あ、あのね、実はね、翠には迷惑かなって思って迷ってたんだけどね」
「…なに?」
俺も起き上がって向き合って座る。
「…結婚…タイミングとかは話すとして…まずは翠の家に一緒に住んだらダメかなー?って」
「え」
「あっ、荷物は頑張って減らすし。翠の寝室に服とか小物とか雑誌とか置かせてもらったら入るかなとか考えてて!翠と違って仕事部屋みたいなのもいらないし!」
「………」
「仕事帰りに翠のとこ来たり、土日も泊まったりで家あんま帰ってなくてもったいないなって…あの、翠が嫌ならハッキリ言ってほしい…」
俺が言葉を選んでいるうちに、勝手に早口でいろいろ説明して、最後自信をなくしてしょんぼりするのは癖だ。可愛いから、いいんだけど。
「…いいよ。いつでもおいでよ。」
「いいの!?」
「茜の部屋はいらないの?」
「うーん、家にいる時間そんなにないし、今の感じだとあっても荷物置きになりそう。翠は?1人の時間ほしいタイプ?仕事部屋だけで大丈夫?」
ほら、すぐそうやって人のことばっかり。
「住んでみて、狭かったら引っ越そう」
自分の快適なように、自分のしたいようにしてきた家が今の家だ。広めの2LDKの、俺の城。
家に入れた人は極少数だし、茜以外の女は連れ込んだことないし、他人の好みに合わせるなんて考えたこともなかったのに。
今は、茜も住みやすいのがいいなと自然と考えていたことに驚く。
気がつけば、茜のお皿や、茜が買ってきたペアのマグカップや、茜の着替え。茜がお揃いが着たいと言うから買った色違いのスウェット。
クリスマスにあげた化粧品やなんかは洗面所で大事に使われている。そこかしこに俺の好みではない茜の私物がある。
それがなんでか嫌じゃなくて。
「実はね、ゴールデンウイークに実家帰ったときにお母さんに翠のこと話したら、早く連れてきなさいよって言っててね。」
「うん」
「家族に写真見せたらイケメンってみんなテンション上がっちゃって」
「…美男美女好きは血なの…?」
「あー、そうかも。お母さんもお兄ちゃんもアイドルのライブ一緒に行くよ。お父さんはDVDは一緒に見るくらいだけど。弟は美人な歌手とか好きかなあ。」
聞く限り、父と弟はやや物静かだが、母と兄は茜テンションだ。
賑やかそう…
俺はどんな顔して挨拶しに行けばいいんだ…ああそっか。
「…挨拶行かなきゃね」
「みんな翠が来たら喜ぶよ」
そういう茜が嬉しそうで。
「久しぶりに、実家にも帰ろうかな…」
「いつから帰ってないの?」
「んー…3年くらい?」
「さ、っさん!?」
新幹線なのに年2〜3回帰る茜からしたら、衝撃だろう。
電車で1時間ちょっとで帰れる。たまには帰って来いとも言われるが、帰ってもどうしたらいいかわからなくて、兄の結婚式以来帰っていなかった。
「…茜を紹介したいんだけど」
「う、うん!もちろん!」
わー緊張するーと量頬を押さえて照れている茜。
緊張すると言いつつ、楽しそうだ。
「翠はお父さん似?お母さん似?」
「あー、どっちかというと母かな」
「きゃー!美女ってこと!?楽しみ!ドキドキしちゃう!」
「…それなりの年だよ。流石に。」
あのクールな母と厳格な父は、俺が彼女を連れていくと言ったらどんな反応をするのだろうか。
反応が想像できなくて、少し、楽しみになった。
「飯にしようか」
「うん。この前のベーカリー行きたいな。ふわふわのトースト!カフェラテもまた飲みたい。美味しかったよね」
お腹が空いたらネットで頼めばいいじゃんなんて、前は思ってたのにな。
わざわざ着替えて食べに出かけるのが、非効率ではなく楽しみに変わっていた。
茜を通して、俺の世界は広がった。
そして、これからもきっと。
side翠ここまで。
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